自然科学研究機構 国立天文台

(速報)ZTF彗星が地球に接近(2023年1月・2月)

ZTF彗星(C/2022 E3)の位置 2023年1月26日から2月15日 東京の星空
左上から中程に続く○印が21時頃のZTF彗星の位置。その日のうちでも時刻によって若干移動する。星座は彗星に近いものだけを表示。
画像サイズ:中解像度(2000 x 2000) 高解像度(5500 x 5500)

地球に近づくZTF彗星が見ごろ

2022年3月に発見された新彗星(すいせい)、ZTF彗星(注1)(C/2022 E3 (ZTF)、本記事では「ZTF彗星」と略)が2023年1月から2月にかけて地球に接近し、見ごろを迎えます。

ZTF彗星は2023年1月13日(日本時、世界時では1月12日)に近日点を通過(太陽に最も接近)し、その頃に彗星の活動自体はピークを迎えたと考えられます。その後は太陽から遠ざかるにつれて彗星活動は少しずつ弱まっていきますが、今度は地球へと近づくことで少々明るくなって見えることが期待されます。地球との最接近は2月2日未明(日本時、世界時では2月1日)で、この時に約4200万キロメートルまで近づき、約5等級の明るさとなりそうです。天の川が見えるような十分に暗い空であれば、肉眼でもぼんやりとした姿が見られるでしょう。市街地では、肉眼で観察することは難しそうですが、適切に設定したカメラで撮影すると、その姿を写すことができそうです。

(注1)しばしば「ズィーティーエフ彗星」と表記されます(他の表記や読み方もあります)。

ZTF彗星の見える位置

ZTF彗星は、星空の中を日々移動していくため、観察する日により見やすい時間帯が変わっていきます。

1月下旬は、深夜から明け方にかけて北東の空で高くなり、条件良く見られます。 1月30日前後は、最も赤緯が高くなり、天の北極(北極星の辺り)に近づきます。このため、一晩中見ることが可能です。なかでも深夜の時間帯に北の空で最も高い位置となり、好条件です。

2月に入ると、夕方、十分に空が暗くなった頃には、すでに北の高い空に見られます。夕方から宵の時間帯が観察には好条件です。特に2月8日前後の宵の時間帯には、ZTF彗星の位置はほぼ天頂となり(東京の場合)、好条件で観察できるでしょう(注2)

なおZTF彗星は、いくつかの明るい1等星や惑星に接近します。2月5日から6日にはぎょしゃ座のカペラ、2月11日には火星、2月14日から15日にはおうし座のアルデバランの近くに見えます。これらの日の前後は、明るい星がよい目印となるでしょう。

今日のほしぞら」(暦計算室)では、指定した日時におけるZTF彗星の見える方角や地平線からの高度を調べることができますので、観察の参考にしてください。

表1 ZTF彗星の見られる位置(方位、地平高度)と明るさ(東京の場合)
日付21時0時3時明るさ
1月26日夜から27日朝北北東 19度北北東 33度北北東 49度約5等
1月29日夜から30日朝北北東 34度北 43度北 46度約5等
2月1日夜から2日朝北 53度北北西 49度北北西 35度約5等
2月4日夜から5日朝北北西 69度北西 46度北西 21度約5等
2月7日夜から8日朝西北西 72度西北西 38度北西 7度約5.5等
2月10日夜から11日朝西 66度西北西 29度(地平線の下)約6等
2月13日夜から14日朝西南西 58度西 22度(地平線の下)約6等

※明るさは予想等級(詳しくは「ZTF彗星の明るさ」参照)

(注2)彗星が天頂付近を通る日付は、観察場所の緯度によっては数日程度ずれます。

ZTF彗星の明るさ

ZTF彗星は、1月23日現在、約6等級の明るさで観測されています。これは、天の川が見えるような十分に暗い空で、かろうじて肉眼でその姿が確認できる明るさです。市街地では肉眼で見ることは大変難しく、双眼鏡を使っても見えづらい状況です。

彗星が地球に接近する2月1日から2日頃を中心に、前後数日間は約5等級の明るさとなることが期待されます。この時には、暗い空であれば、ぼんやりとした彗星の姿を肉眼で見ることができそうです(ただし月明かりの影響があると、見えづらくなります)。市街地では、肉眼で見ることは難しいと思われますが、双眼鏡を使うと見える可能性があります。

2月5日頃からは、彗星が地球から遠ざかるために少しずつ暗くなり、2月7日には約5.5等、2月10日には約6等、2月14日には約6.5等になると予想されます。彗星の明るさが予想通りに推移すれば、2月10日頃からは暗い空でも肉眼では見えづらくなるでしょう。一方、双眼鏡や望遠鏡ではもうしばらくの間見られそうです。

なお、彗星活動の規模が予想外に大きく変化した場合には、予想よりも暗くて見えづらくなったり、逆に明るくなって見やすくなったりすることがあります。

ZTF彗星の見え方

彗星は、恒星や惑星とは違い、ぼんやりとした姿で見られます。地球に接近する2月2日の前後数日は、十分に暗い空であれば肉眼で見える可能性が高いです。ただし、形や色ははっきりとはわからないでしょう。双眼鏡を使うともう少し見やすくなり、ぼんやりとしていながらも形のいびつさや尾が少々伸びている様子などが見えるかもしれません。ただ、目で見る限りでは、色はほとんどわからないものと考えられます。

一方、写真では緑色っぽい部分が写ります。これは彗星に含まれるガスの成分が輝いているものです。また、白っぽい部分も写りますが、こちらは彗星から放出された塵(ダスト)が太陽光で照らされている部分です。

ZTF彗星の場合、尾はあまり発達していないようです。尾を肉眼で見ることは難しく、また双眼鏡や望遠鏡を使ったとしても、わずかに見える程度だと思われます(ただし、予想以上に見える場合もあります)。一方、夜空の暗い場所で、適切に設定されたカメラを使用して撮影された写真では、少々伸びた尾が写し出せると思われます。

なお、1月の終わりから2月にかけて、月明かりに邪魔される時間帯が長くなります。月が空で輝いていると、空全体が明るくなり、淡くぼんやりした彗星が見えづらくなってしまいます。

また彗星が地球に接近すると、その分大きく見えるようになりますが、全体的に淡くなってしまって、月明かりの中や市街地ではむしろ見えづらくなる場合もありますのでご注意ください。

観察のためのポイント

「明るい彗星」と聞くと、図鑑等に載っているような、明るく、立派な尾を引いた姿を想像するかもしれません。しかし彗星は、肉眼では淡くぼんやりとした光のかたまりのように見える天体で、惑星や星座を形作る星(恒星)のように明るくしっかりとした形には見えません。このため、市街地の空では、空の明るさにまぎれてしまい、肉眼ではとても見えづらい状態です。また、薄雲や、もやがあるような空だったり、月明かりがあったりする場合なども、非常に見えづらくなってしまいます。このようなときには、双眼鏡を使うと見つけやすくなりますので、双眼鏡をお持ちの方は、ぜひ使ってみてください。観察の際には、彗星の見える位置(方角や地平線からの高度、星座の中での位置など)を確認しておくとよいでしょう。また双眼鏡で見つけた後に、同じ場所を肉眼で探すと見えることがあるかもしれません。いずれの場合も、15分ほど暗さに目を慣らしてから観察しましょう。寒い時期ですので、寒さ対策をしっかりおこなってください。

肉眼で見えない場合でも、写真には写ることがあります。カメラを適切に設定することにより、彗星を撮影することが可能となります。夜景モードなど、暗いものが写りやすい設定をお試しください(詳しくはお持ちのカメラのマニュアルをご参照ください)。また三脚を使用することで、ぶれずに撮影することができます。一般的には、スマートフォン等では感度が足りず、高感度や露光時間を設定できるカメラが必要となります。また、広角レンズよりも望遠レンズを使う方が写りやすいと思われますが、機材にもよりますので、それぞれ実際に試してみるとよいでしょう。

ZTF彗星の写り方の参考写真
ZTF彗星の写り方の参考写真:焦点距離28ミリメートル相当(フルサイズ)にて撮影(フォーサーズサイズの14ミリメートルレンズ使用)2023年1月29日0時40分撮影(山梨県上野原市)。他の日時におけるZTF彗星の位置は星図などを参考にしてください。(クレジット:内藤誠一郎) オリジナルサイズ(6.7MB)

ZTF彗星の基本情報

ZTF彗星(C/2022 E3 (ZTF))(注3)は、2022年3月2日に、アメリカのZwicky Transient Facility (ZTF)(注4)による観測で発見されました。2023年1月13日(日本時、世界時では1月12日)に近日点を通過(太陽に最も接近)し、彗星活動はその頃にピークを迎えたものと考えられます。その後も地球との位置関係が良く、2023年2月2日(日本時、世界時では2月1日)には地球に最も近づき、この前後で明るく見えると予想されます。

彗星の軌道は、元々は放物線にごく近い楕円(だえん)軌道を描いていて、計算上では、前回は5万年ほど前に太陽に近づいたと考えられます。現在の軌道は、惑星の引力の影響で放物線にごく近い双曲線軌道に変化していて、将来的には太陽系から離れてしまい二度と帰ってこないと考えられます。

(注3)「C/2022 E3」は彗星に付与される仮符号(かりふごう)で、2022年3月前半に発見された彗星の中で3番目に発見されたという意味です。仮符号の詳細は、新天体の仮符号:彗星新天体関連情報)をご参照ください。ZTF彗星は数多く存在する(注4)ため、しばしば仮符号を表記して区別します。

(注4)アメリカ・カリフォルニア州のパロマー山天文台で行われている突発天体現象(短時間で明るさが変わるような天体現象)を検出するプロジェクトの名称です。位置が移動していく天体(彗星や小惑星)も多く発見しており、「ZTF」という名前の彗星は「C/2022 E3 (ZTF)」の他にも数多く存在します。

国立天文台が撮影したZTF彗星

2023年1月31日に国立天文台三鷹キャンパスで撮影したZTF彗星(C/2022 E3)
2023年1月31日に国立天文台三鷹キャンパスで撮影したZTF彗星(C/2022 E3)。(クレジット:国立天文台) オリジナルサイズ(5.6MB)

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