彗星
彗星とはどのような天体か
太陽系の中の彗星
私たちが住む太陽系を構成する天体には、恒星である太陽を中心に、惑星、準惑星と、太陽系小天体である小惑星、彗星(すいせい)、太陽系外縁天体(注1) 等があります。
彗星は、本体の大きさが数キロメートルから数十キロメートルのとても小さな天体です。成分は、そのおよそ8割が水(氷の状態)で、二酸化炭素、一酸化炭素、その他のガス、そして微量の塵(ちり)から成ります。
彗星の軌道
惑星の公転軌道は、黄道面と呼ばれる平面にほぼ沿っており、円に近い楕円を描きます。それとは対照的に、彗星の公転軌道は細長い楕円のものが多く、放物線や双曲線軌道を描くものもあります。放物線や双曲線の軌道の彗星は、太陽に近づくのは一度きりで二度と戻ってこない(回帰しない)彗星です。
楕円軌道をもつ彗星のうち、公転周期が200年以内のものは「短周期彗星」、それよりも長いものは「長周期彗星」と、便宜的に呼ばれます。短周期彗星の大部分は、ほぼ惑星と同じ黄道面に沿って、惑星と同じ向きに公転しています。しかし、長周期彗星の軌道は黄道面とは無関係で、公転の向きも規則性がありません。
彗星はどこからやってくるのか
このように惑星とは異なる公転軌道をもつ彗星は、どこからやってくるのでしょうか。彗星の供給源としては、「オールトの雲」、「エッジワース・カイパーベルト」(注2) の2つが考えられています。
太陽系創成期には、原始太陽系円盤に存在していた微惑星が合体して惑星が作られたと考えられています。また、太陽から遠い場所にあった氷と塵は、混在して氷微惑星となりました。この氷微惑星のうち、大きく成長した惑星によって太陽系の外側へと散らされたものがオールトの雲に、海王星より外側の領域で惑星の成長途中で取り残されたものがエッジワース・カイパーベルトになったと考えられています。
オールトの雲は、太陽系の外側・太陽から数万天文単位付近をぐるりと大きく球殻状に取り囲む氷微惑星の集まりで、長周期彗星はここからやってくると考えられています。エッジワース・カイパーベルトは、氷微惑星が海王星軌道の外側にほぼ黄道面に沿った軌道で分布している場所で、短周期彗星はここからやってくると考えられています。いずれも、それぞれの場所にある氷微惑星が何らかの原因(惑星の引力)で軌道を変え太陽系の内側へ向かう軌道に変化し、やがて太陽に近づいて「コマ」や「尾」を持つ彗星へと姿を変えるのです。
このように太陽から遠く離れた冷たい場所をふるさととする彗星は、太陽系が生まれた頃の惑星形成時の情報をそのまま閉じ込めて、太陽に向かって進んでくるのです。
彗星の姿
夜空にぼんやりと輝き、地球に近づくとほうきのような長い尾をひく彗星は、その姿から「ほうき星」とも呼ばれます。
彗星の主成分は水(氷)で、表面に砂がついた「汚れた雪だるま」にたとえられます。太陽に近づくと、その熱で彗星本体(核)の表面が少しずつとけて崩壊します。そのときに本体の氷が蒸発し、ガスと塵も一緒に表面から放出されます。その結果、彗星の本体がぼんやりとした淡い光に包まれるように輝いて見えます。これは「コマ」と呼ばれます。
さらに、本体から放出されたガスと塵がほうきのように見える「尾」を作ります。彗星の尾は、その成分と見え方から大きく2種類に分けられます。一つは、ガスが作る「イオンの尾(または、プラズマの尾)」です。放出された電気を帯びたガス(イオン)は、太陽風(注3) に流されて太陽とは反対の方向に細長く伸びます。もう一つは、塵が作る「ダストの尾(または、塵の尾)」です。放出された塵は、太陽の光の圧力(光圧)を受けて太陽とは反対の方向に伸びますが、塵のサイズによって圧力の受け方が異なるために、彗星の軌道面に広がった幅のある尾になり、イオンの尾とは異なる様子になります。一部の粒の大きな塵は、彗星と同じように彗星の軌道を周回し続けます。これが流星群のもとになるのです。
このような彗星のコマや尾が目立って観測され始めるのは、彗星が太陽からおよそ1天文単位(注4)前後 、つまり地球の軌道程度まで近づいてからです。彗星が太陽に近づくほど本体から放出されるガスや塵の量が多くなるため、コマは明るくなり、尾も明るく長く伸びます。しかし、太陽に近づいた際に、どの程度明るくなるか、地球からどのように見えるかは、彗星本体のサイズや表面の状態、成分、さらに地球との位置関係によっても異なるため、正確な予測は難しいのです。
小惑星との区別
もともと、観測されたときにコマや尾といった物質の蒸発が見られる非恒星状の天体が彗星、そういった蒸発が見られない恒星状の天体が小惑星とされていました。
しかし、近年は、小惑星と認識されていた天体が、彗星のような蒸発活動が見られたために後から彗星とされたものや、逆に、彗星のような軌道を持ちながら蒸発が見られない小惑星のような天体も発見されています。最近では、小惑星帯の中にも、彗星活動を示す天体が見つかっています。このことから、彗星と小惑星の区別が次第にあいまいになっていると言うことができます。
- (注1) エッジワース・カイパーベルト天体あるいはカイパーベルト天体とも呼ぶ。この太陽系外縁天体の存在を提唱した天文学者ケネス・エッジワース、およびジェラルド・カイパーの名前による。 本文へ戻る
- (注2) カイパーベルトとも呼ぶ。 本文へ戻る
- (注3) 太陽から吹き出している電気的な微粒子の流れ。 本文へ戻る
- (注4) 太陽と地球の平均距離に相当する。およそ1億5000万km。 本文へ戻る
彗星の名前について
彗星の名前には、発見者の名前が、発見・報告の早い順に最大で3名まで付けられます(一部例外もあります)。発見者名は、個人や観測グループ、天体観測衛星の場合などさまざまです。ただし、同じ個人やグループが複数の彗星を発見した場合などは、彗星が区別しにくくなります。そのため、個々の彗星を区別できるよう、正式には符号を付けることになっています。
まず、発見された年号と、発見時期を表すアルファベット(注5)、その時期何番目に発見されたかを表す数字が付けられます。さらに先頭には「C/」もしくは「P/」という符号が付けられますが、「C/」は彗星として発見された場合、さらに周期彗星として確認された場合には「P/」となります。
2013年3月に太陽に近づく「パンスターズ彗星」は、「C/2011 L4 (PANSTARRS)」と表記します。これは、2011年6月前半の時期に発見された4番目の彗星、という意味です。そして一度太陽に接近して戻ってこない彗星(周期彗星ではない)ため「C/」が先頭に付けられています。そしてこの符号の後には括弧書きで、「PANSTARRS」という発見者(観測プロジェクト)の名前が表記されています。
参考情報
- 2013年3月中旬以降、見頃を迎えるパンスターズ彗星
- 2013年11月頃下旬以降、見頃を迎えるアイソン彗星
- [4D2Uプロジェクト]微惑星から原始惑星へ(地球型惑星の形成)
- 文献
- 渡部潤一著、天文・宇宙の科学「太陽系・惑星科学」、大日本図書(2012年)
- 渡部潤一・井田茂・佐々木晶 編、シリーズ現代の天文学9「太陽系と惑星」、日本評論社(2008年)