2010年4月6日

自然科学研究機構 国立天文台


研究の背景 [2]


宇宙空間のアミノ酸と円偏光

宇宙空間においてアミノ酸の鏡像異性体の偏りをもたらす原因はあるのでしょうか? その原因として、円偏光という特殊な光に照らされた状況での化学反応(非対称化学反応)が挙げられます(注1)。 ここで、円偏光とは光の振動の特殊な状態をいいます。

円偏光とは

図2 円偏光のイメージ図

[RGB版] [CMYK版] [白黒版]

画像クレジット:©国立天文台

左手前に進行する円偏光のイメージ画像です。 青い矢印は電場を表し、赤線は電場の振動をたどったものです。

光とは電場と磁場が振動する波が空間を伝わっていくものです。 光の進行方向に対して垂直に振動しながら伝わっていきます。

偏光とは振動の方向が規則的な状態を指します。 普通の光は、あらゆる方向に振動する光が混合していますが、たとえば雲に光が散乱されると偏光が生じます。 光の振動の軌跡が円を描く場合を円偏光と呼びます。 右回り円偏光と左回り円偏光があります。

宇宙空間における円偏光の探査から、天文学と生命の起源との重なりが生じてきます。 古くは中性子星の円偏光が注目されていましたが、可視光などの観測から候補としては困難な点が指摘されていました。 最近注目されていたのが星が生まれる領域(星形成領域)での円偏光です(注2)。


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(注1) 円偏光に照らされると鏡像異性体の異常が生じることは実験的に調べられてきました。 例えば、円偏光の回転方向に応じて片方の鏡像異性体が特に分解された結果、異性体の偏りが生じることが示されています。 [上へ戻る]

(注2) 1998年にオリオン星雲で強い円偏光が検出されたことによります。 しかしながら当時の観測技術では、観測できる領域が狭く、また弱い円偏光は検出が難しかったため、大規模なオリオン中心部の円偏光の全貌を明らかにすることはできませんでした。 また、星形成領域における円偏光の撮像観測の実施例そのものが歴史上少なく、宇宙における円偏光の一般的な理解もまだ黎明期にありました。 [上へ戻る]


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