2010年4月6日

自然科学研究機構 国立天文台


研究の背景 [1]


生命をかたちづくるアミノ酸の謎

地球上の生命におけるタンパク質はアミノ酸から構成されています。 このアミノ酸は原子が立体的に組み合わさった分子です。 このアミノ酸には、左手と右手のように互いに鏡像関係にあり、分子の結合を組み替えたりしない限り重ね合わせることができないものが存在します。 このような互いに鏡像の関係にあるものを「鏡像異性体」といいます。

アミノ酸の鏡像異性体とは

図1 アミノ酸の構造と鏡像異性体の例

[高解像度版(RGB)] [高解像度版(CMYK)] [高解像度版(白黒)]

画像クレジット:©国立天文台

アミノ酸の一種であるアラニンの構造のイメージ画像です。 黒棒は原子の結合部を表します。 球は各色がそれぞれ、赤:水素、オレンジ:炭素、水色:窒素、緑:酸素、を表しています。

アミノ酸の鏡像異性体は、それぞれ L型(左型)と D型(右型)に分類されています。 左型と右型は互いに鏡像関係にあり、左型を回転させても右型には一致しません。 例えば、左型アラニンの左上の赤い球が三つ付いている枝の部分に着目して回転させてみてください。

左型アラニンを回転させたイメージ 画像クレジット:©国立天文台

アミノ酸の鏡像異性体は、それぞれ L型(左型)と D型(右型)に分類されています。 通常は左型と右型がほぼ等量生成されることが知られています。 しかし、地球上の生命におけるアミノ酸は、なぜかほとんどが左型になっているのです。 このような生命におけるアミノ酸鏡像異性体の特異性は「ホモキラリティー」と呼ばれ、 生命の起源と関わりがあるのではないかという観点からも注目されてきました(注1)。

原始の地球と生命

一方、初期の地球表面は高温でどろどろに溶けており、鏡像異性体の偏りは消えてしまう可能性が高いのです。 興味深いことに、初期の地球における重大なイベントとして「隕石の絨毯爆撃期」というものがあります。 この時期に地球の外から降り注ぐ隕石とともに、生命の発生のきっかけになるものが地球上に持ち込まれたのではないかと考えられています(注2)。


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(注1) パスツール博士の研究以来およそ200年以上にわたって議論が続いています。 [上へ戻る]

(注2) 1990年代後半以降、マーチソン隕石をはじめとした複数の隕石中にアミノ酸の鏡像異性体の偏りが相次いで報告され、地球外起源の考え方を後押ししています。 [上へ戻る]


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