Q & A
- 今回の観測ではどのような望遠鏡や観測装置を用いましたか?
- 今回の観測ではどうして赤外線による観測を行ったのでしょうか?
- 今回使用された観測装置SIRPOLについては、今回新たに観測できるようになった円偏光以外にも観測成果がでていると聞きました(直線偏光)。たとえばどういった成果が得られていますか?
- Q:今回の観測ではどのような望遠鏡を用いましたか?
A:IRSF望遠鏡という口径1.4メートルの近赤外線望遠鏡を用いました。IRSFとは、InfraRed Survey Facility(赤外掃天施設)の略称です。名古屋大学、京都大学、国立天文台が運営しています。南アフリカのサザーランド観測所(Sutherland, SAAO)に設置されています。喜望峰やケープタウンから、北東へ約400kmの場所です。
研究グループでは(IRSF/SIRPOLチーム)、偏光という特殊な光をとらえることができる観測装置を開発して、IRSF望遠鏡に搭載いたしました。それは、円偏光という特殊な光をとらえる新しい近赤外線偏光観測装置(SIRPOL円偏光モード)です。この新しい装置開発の成功によって、世界で類を見ない広い観測視野によって円偏光という特殊な光の観測を行うことができるようになりました。 [戻る]
- Q:今回の観測ではどうして赤外線による観測を行ったのでしょうか?
A:生まれたての星が形成している領域(星形成雲)では、その若い星の周囲にたくさんの塵粒子が浮遊しています。 太陽が雲で覆われると太陽が見えなくなってしまうのと同様に、星が形成している領域では、浮遊している塵粒子が可視光などでの観測を難しくしているのです。 しかしながら、赤外線を用いれば、生まれたての星の周囲に浮遊しているたくさんの塵粒子を見透すことができるため、星が形成している領域の観測が行えるようになります。 このように、星形成領域の観測では赤外線光による観測が大きな貢献をしています。 [戻る]
- Q:今回使用された観測装置SIRPOLについては、今回新たに観測できるようになった円偏光以外にも観測成果がでていると聞きました(直線偏光)。たとえばどういった成果が得られていますか?
A:直線偏光という、もうひとつの偏った光についても観測が行われてきています。たとえば、今回観測したオリオン大星雲の「直線偏光」の観測としては、こちらのページ(2006年プレスリリース)をご参考ください。[戻る]
- Q:オリオン大星雲とはどのような天体なのでしょうか?また、どうして今回の観測対象として選んだのでしょうか?
A:オリオン座にある天体です。大質量星(太陽よりも質量がずっと重い星)が形成している領域としては、太陽系からもっとも近い天体です(太陽系からの距離は約1500光年)。 人間の目と同様に、望遠鏡も遠くのものほど小さく見えて、詳細に見えづらくなりますが、上記のようにオリオン星雲は比較的太陽系の近傍にあるため、歴史的に観測が進められています。 この領域では、複数の大質量星が形成しており、さらに、多数の太陽と似た星が形成しています。
今回の観測では、(1)オリオン星雲が太陽系の近傍にある点、(2)歴史的に観測が進められており、大質量星が形成している星形成雲の典型例としての理解が比較的進められている点、(3)以前の研究において、観測範囲が狭く全貌は明らかになっておりませんでしたが、円偏光がオリオン中心部に観測されたという研究報告があった点、などの点から、本研究の観測対象として選択しております。 [戻る]
- Q:太陽系が大質量星の形成領域に生まれた点について他にどのような研究が進められていますか?
A:地球上の隕石の短期間放射性核種(60Fe、半減期150万年)の研究によると、太陽系の近くで過去に超新星爆発が起こっていたことが示唆されています。 おそらく60Feの半減期である150万年くらい前までの間に、超新星爆発があったものと考えられます。 超新星爆発は、太陽よりも寿命が短い大質量星の末路と考えられています。 これらのことから、大質量星が過去に太陽系の近くに存在していたことが示唆されています。 [戻る]
- Q:隕石が地球に降り注ぐ後期重爆撃期は何時ごろの出来事でしょうか?
A:41億年前から38億年前の期間と考えられています。 [戻る]
- Q:論文が受理された論文誌はどちらになりますか?
A:本研究は、査読付論文誌 Origins of Life and Evolution of Biospheres(出版社:Springerのオランダ支社)にて受理・出版されています。
円偏光はどうして発生?
円偏光という特殊な光が、星形成領域に広大に生じているのはなぜでしょうか。 しかも、オリオン大星雲で観測されている円偏光は、円偏光度(観測された光の中の円偏光成分の割合)が17%にも及んでおり、 他の星形成領域と比べてその値が大きいのです。
このような特殊な光を生み出す原因として、星形成領域に浮遊している塵粒子がなんらかの要因で「整列」していることが考えられています。 この整列した塵粒子が星からの光に影響を与えていると考えられます。
図A1 塵粒子の整列のイメージ図

画像クレジット:©国立天文台
図A1は星形成領域の塵粒子の整列のイメージ図です。図の赤い線は磁場を表します。茶色い粒子は塵粒子です。 整列具合によって偏光への影響が変わることが調べられています。
研究グループでは、得られた観測データを詳細に解析して理論的なモデルと照らし合わせることでオリオン星雲の円偏光の生成機構を調べています。偏光成分等がどのように観測領域に分布しているかなどを調べた結果、非球対称な塵粒子の整列の影響が考えられることを導き出しています。
参考論文
- オリオン星雲の円偏光生成メカニズムを調べた研究 − Fukue et al. 2009, The Astrophysical Journal Letters, Volume 692 [論文URL] [プレプリントURL]))
円偏光とは
図2 円偏光のイメージ図

画像クレジット:©国立天文台
左手前に進行する円偏光のイメージ画像です。 青い矢印は電場を表し、赤線は電場の振動をたどったものです。
光とは電場と磁場が振動する波が空間を伝わっていくものです。 光の進行方向に対して垂直に振動しながら伝わっていきます。
偏光とは振動の方向が規則的な状態を指します。 普通の光は、あらゆる方向に振動する光が混合していますが、たとえば雲に光が散乱されると偏光が生じます。 光の振動の軌跡が円を描く場合を円偏光と呼びます。 右回り円偏光と左回り円偏光があります。
アミノ酸の鏡像異性体とは
図1 アミノ酸の構造と鏡像異性体の例

[高解像度版(RGB)] [高解像度版(CMYK)] [高解像度版(白黒)]
画像クレジット:©国立天文台
アミノ酸の一種であるアラニンの構造のイメージ画像です。 黒棒は原子の結合部を表します。 球は各色がそれぞれ、赤:水素、オレンジ:炭素、水色:窒素、緑:酸素、を表しています。
アミノ酸の鏡像異性体は、それぞれ L型(左型)と D型(右型)に分類されています。 左型と右型は互いに鏡像関係にあり、左型を回転させても右型には一致しません。 例えば、左型アラニンの左上の赤い球が三つ付いている枝の部分に着目して回転させてみてください。

左型アラニンを回転させたイメージ 画像クレジット:©国立天文台