岡山新時代来たる

泉浦秀行(第5代 所長)

平成29年度末をもって岡山天体物理観測所は、国立天文台が運用する共同利用観測所(Cプロジェクト)としての役割を終える。そこに至るまでに見聞きしたことを書き留めておこうと思う。なお、平成21年末までの経過については、40周年記念誌の海部宣男台長(当時)の「巻頭言」と前原英夫所長(当時)の「40周年と将来構想」、50周年記念誌の観山正見台長(当時)の「巻頭言」と吉田道利前所長(当時)の「観測所のこの10年をふりかえって」をご覧いただきたい。岡山天体物理観測所の将来像をまとめることの困難さが興味深く語られている。

さて、平成22年1月1日付で前所長の吉田道利氏が広島大学宇宙科学センターへ転出した後、岡山天体物理観測所の所長が決まるまでには9か月の時間を要した。当時の観山台長から、懸案となっていた観測所の将来計画検討を優先する意向が示されたのである。そのため前年の12月から翌3月までの間に台外の有識者を複数招いて三回の拡大企画委員会(将来検討委員会)で検討が重ねられた。観測所ではその間、岡山ユーザーからの意見を広く募り、拡大企画委員会への反映に努めた。三回目の3月5日の拡大企画委員会では、それまでの議論を踏まえ、台長から具体的な試案が示された。その試案は直後の3月8日運営会議でも説明された。その後さらに2回の企画委員会で修正が加えられた試案は、5月の幹事会議と6月の教授会議を経て、平成22年7月23日の国立天文台運営会議に再提出された。そして「平成27年度以降の岡山天体物理観測所の土地(借地)・建物と望遠鏡・観測装置は、国立天文台の研究施設・設備としては継続しない方向も含めて検討に入る」という方針(平成27年度は当時の京都大学3.8m望遠鏡の稼働開始予定時期)が説明され、同時に所長を台内公募することが了承された。これが、Cプロジェクト岡山天体物理観測所の解散へ向けた最初のマイルストーンだったと言えるだろう。

所長の台内公募は直後の平成22年7月30日に開始され、8月16日に締め切られた。一方、修正試案については8月9日の光赤外専門委員会、8月18日の光赤天連シンポジウム、8月20日の臨時光赤外専門委員会で集中的に議論された。専門委員会の議論のまとめが委員間の意見の収束前に急ぎ9月1日付委員長案として光赤天連に手渡された。そして秋季年会の開かれた金沢大学で、9月22日に岡山観測所運用方針についての懇談会が、9月24日に光赤天連総会が開かれより広く議論された。これらのまとめとして光赤天連から11月2日付で光赤外専門委員会へ報告が出され、国立天文台に対し観測所インフラの維持、3.8m望遠鏡の共同利用が始まるまでの188cm望遠鏡共同利用の維持、3.8m望遠鏡の共同利用が始まった後の研究者有志による188cm望遠鏡利用への協力を提言した上で、9月1日付の委員長案の支持が表明された。一方、岡山天体物理観測所は10月1日に所長に就任したばかりの筆者のもと、10月8日に岡山市内のホテルにて50周年記念式典を挙行し、同時に50周年記念誌を発行・配布した。また、翌年採択されることになる188cm望遠鏡の全面改修による系外惑星探索の自動化を目指す科研費申請書を提出したのもこの時期であった。このようにして慌ただしく岡山天体物理観測所の平成22年は暮れて行った。

一連の過程により京都大学3.8m望遠鏡における共同利用の開始が明確な区切りとされたわけだが、望遠鏡もドームも建設資金の明確な算段がまだ立っていなかった。そのような状況の中、平成24年8月6日に「京都大学岡山3.8m新技術望遠鏡プロジェクト」の外部評価が行われた。平成24年10月13日付の評価報告書(案)では、「<前略>ドームなど京都大学の概算要求が進めば実現できる状況にあると判断されることも踏まえ、総合的な判断として、日本の天文学分野全体として支援を強め早急な実現を期すべき、極めて重要な中型計画であると結論する。」との「総合評価」が与えられている。

翌平成25年度も京都大学3.8m望遠鏡計画の資金獲得が足踏みする中、平成25年9月30日付の科学技術・学術審議会 学術分科会 研究環境基盤部会 学術研究の大型プロジェクトに関する作業部会による、大型研究計画に関する評価について(報告)「アルマ計画の推進」の中で、「岡山1.8m 光学望遠鏡(光赤外:小型)/銀河・恒星・太陽系外天体の光学赤外線観測。また、国内で観測できる望遠鏡として、学生教育、院生教育に活用。/京都大学3.8m 望遠鏡建設終了後に、国立天文台としての運用を停止予定。」と報告された。国立天文台外の公式文書に国立天文台の同意のもと188cm望遠鏡の運用停止が明記された。3.8m望遠鏡の製作費が国の補正予算で措置されたのはその年の12月であった。

「アルマ計画の推進」の188cm望遠鏡に関する記載は平成26年8月に岡山所長に知らされた。その年の11月には188cm望遠鏡から3.8m望遠鏡へ共同利用を移行させるための実行原案を作成し企画委員会での検討に伏すことになった。さらに平成27年度予算でドーム建設予算が措置されたことから、岡山天体物理観測所としても188cm望遠鏡の共同利用を終了する手続きをさらに具体化するに至った。

平成27年8月17,18日の岡山UMでは、188cm望遠鏡から3.8m望遠鏡への移行年次計画素案を観測所から提案し、林正彦台長の同席のもとで議論がなされた。同提案では、平成28年度末でKOOLSを運用終了、平成29年度末で188cm望遠鏡の共同利用終了、平成30年度から3.8m望遠鏡における共同利用へ移行、平成30年度から32年度までを移行のための遷移期間とし188cm望遠鏡を台外の研究者を主体とする国立天文台との共同研究の形式で運用することとした。岡山ユーザーも3.8m望遠鏡の共同利用が始まるならば、188cm望遠鏡の共同利用停止は止むなしとの方針にまとまったが、最後の点については国立天文台とユーザーの間の議論は収束しなかった。そのため、UMでの議論を補足する形で、同年12月7日に、共同利用停止後の観測所インフラストラクチャーの維持などについて、自発的にユーザー一同から国立天文台へ「国立天文台 岡山天体物理観測所 188cm望遠鏡 共同利用の京都大学3.8m望遠鏡への移行に関する要望書」が提出された。

平成28年に入ると、188cm望遠鏡から3.8m望遠鏡への共同利用の移行作業を加速するため特任准教授を公募することが認められ、7月1日付で採用に漕ぎ着けることができた。9月7,8日の岡山UMでは、同特任准教授の活躍もあり、188cm望遠鏡から3.8m望遠鏡への共同利用観測移行に関わる具体的方針を包括的に議論することができた。3.8m望遠鏡は平成30年8月に光子バケツとして共同利用開始を目標とすること、KOOLSの運用終了は平成28年末に早めて3.8m望遠鏡への移行を加速すること、3.8m望遠鏡へ早期に集中するため188cm望遠鏡の共同利用を平成29年末で終了すること、Cプロジェクト岡山天体物理観測所は平成29年度末で解散することなどがまとめられた。また、平成30年度からは、現在の岡山観測所運営経費の相当部分と承継職員3名(またはそれ相当)を在籍出向の形で京都大学に移し、3.8m望遠鏡の約半分の観測時間を全国大学共同利用へ提供することなどが確認された。もちろん、これらは国立天文台と京都大学の間の新たな覚書の取り交わしが前提となっていた。さらに、岡山観測所プログラム小委員会の機能を拡張して3.8m望遠鏡の科学委員会として立ち上げ、第一期共同利用観測装置の公募を平成29年6月に行うことも合意された。また、国立天文台長から当面は国立天文台が岡山天体物理観測所の既存望遠鏡群の所有と土地借用を継続する方針が示された。以上の結果を光赤天連総会(9月16日)、光赤天連シンポ(9月28日)、光赤外専門委員会(10月18日)、運営会議(10月31日)で報告した。その後、プログラム小委員会の機能拡張については、審議事項に「3.8m望遠鏡共同利用の運用方針・計画の策定」を追加することを光赤外専門委員会で提案し、執行部会議、幹事会議を経て、平成29年1月の運営会議で承認された。また、観測装置の公募については、平成28年12月に京都大学と観測所とが共同で天文学コミュニティから広く3.8m望遠鏡への搭載予定装置の情報を収集した。平成29年7月には、プログラム小委員会、京都大学、観測所の連名で第一期共同利用観測装置の募集を行い、平成29年9月にKOOLS-IFUの採用がプログラム小委員会において決定された。このほか、平成28年11月にプロジェクト特任研究員に3.8m望遠鏡の初期観測装置の準備に当たる人材を採用した。並行して、平成28年10月には、国立天文台長から「京都大学3.8m 望遠鏡による共同利用への移行案と運営案」の策定が光赤外専門委員会へ諮問されており、プログラム小委員会の助けを借りて、平成29年6月に台長へ答申がなされた。3.8m望遠鏡における共同利用の検討は、その後も光赤外専門委員会で継続して審議するように台長からの諮問があり、平成30年8月の共同利用開始に向け現在も検討が続けられている。

ここから平成29年度の上半期にかけては、国立天文台と京都大学の双方の事務方も同席して、覚書の取り交わしのための長い議論が重ねられた。その甲斐あって、平成29年9月4,5日の岡山UMでは、国立天文台と京都大学が覚書の内容で合意に至り、取り交わし手続きが進みつつあることが紹介された。そして、前年までの議論の内容を確認するとともに、新たに生じた変更点を観測所から説明し、3.8m望遠鏡における共同利用観測に関し議論を行った。特に大きな変更点として、国立天文台は、京都大学へ3名の職員を出向させることが困難との判断に至り、3.8m望遠鏡おける全国共同利用観測の推進のため岡山分室を設置し、教職員3名を配置することが説明された。その後、覚書は平成29年10月12日付で国立天文台と京都大学大学院理学研究科の間で取り交わされた。これで、平成30年度以降、国立天文台が3.8m望遠鏡の観測時間の約半分を全国共同利用に提供できることになった。これに伴い、それまでの国立天文台と光赤外天文学コミュニティと京都大学の間の議論に従い、188cm望遠鏡の共同利用を平成29年末で終了することとなった。また、Cプロジェクト岡山天体物理観測所の平成29年度末での解散を観測所から企画会議へ申請した。そこから幹事会議、運営会議を経て、2017年11月の機構役員会において解散が了承された。

平成29年の秋以降、Cプロジェクトの解散と分室設置のため、特別経費の配分も頂き、様々な実務作業を始めた。図書室の廃止と図書の三鷹への移送または廃棄、観測で得られた写真乾板や貴重な記録文書の三鷹への移送、観測所内に分散した実験室や計算機室の本館への集中、仮設建物の廃止、建物間ネットワーク接続の整理、各建物への電力メータの設置、施設の改修、門衛所の撤去、新ゲートの設置、地元へのあいさつ、1.5m鏡用蒸着装置の廃棄などなどなど、多くの作業に職員が総出で当たった。そのうえさらに、3.8m望遠鏡の観測装置ローテータの設計などの作業も進めた。一方、岡山分室の所属先はハワイ観測所と決まり、急ピッチで規則改正等の準備が進められている。この間、執行部のみならず、三鷹事務部、三鷹図書室ほか、多くの方々のご支援を頂いたので、この場をお借りして感謝申し上げる。 平成30年度から国立天文台は京都大学の協力のもと3.8m望遠鏡においていよいよ共同利用を開始する予定である。188cm望遠鏡は平成29年4月に設置された東京工業大学の系外惑星観測研究センターを中心とした運用に委ねられ、関連研究者による運用委員会のもと、特定の研究課題に集中的に使われて行く予定である。また、地元自治体も利用あるいは運用への参加を検討している。他の既存望遠鏡もそれぞれ利用を希望する大学による運用に移行する予定である。これが岡山新時代である。乞うご期待。

(記載内容について誤りを見つけられた場合にはご連絡願えると幸いである)


注1:文中「京都大学」は「京都大学大学院理学研究科」の省略形として使っている。
注2:国立天文台は京都大学3.8m望遠鏡を188cm望遠鏡の後継機と位置付け、188cm望遠鏡に代わり3.8m望遠鏡において全国大学共同利用を推進することを岡山観測所の将来計画の中心に据えてきた。
注3:UM:ユーザーズミーティングの省略形。