岡山天体物理観測所から岡山天文コンプレックスへ

泉浦秀行(第5代 所長)

平成29年末に188cm望遠鏡の共同利用も終わり、平成30年3月末でCプロジェクト岡山天体物理観測所は解散します。無事に解散することができそうで、今は安堵感で一杯です。ここに至るまで、観測所員のみなさん、光赤外コミュニティ、地元の方々、国立天文台執行部、事務部、図書室、その他大勢の方々にご努力頂きました。この場をお借りして感謝申し上げます。

国内にしっかりしたユーザー層があり、成果も順調に出ている現役の観測所を閉じるのは、おそらく国立天文台にとって初めてのことだろうと思います。平成22年に当時の観山台長から示された大方針に沿って、時にはジグザグに、ここまで進んできました。国立天文台がプロジェクト制を敷き、トップダウンの色彩を強めてきた一つの成果であったかと思います。今後、国立天文台の他のプロジェクトにも影響が及んでいくのではないかと想像しています。

さて、ここで一つだけ留意しておきたいことがあります。岡山天体物理観測所が解散する平成30年3月まで、日本の大学が国内にせよ海外にせよ、天体高分散分光施設を持つに至ることは結局ありませんでした(太陽観測施設を除く)。岡山天体物理観測所は国内最大かつ唯一の天体高分散分光施設で在り続けました。今後、意思ある大学が天体高分散分光施設を持てる時代が来るように、国立天文台は大学を支援して行く必要があるように思います。この点を改めて強調しておきたいと思います。

個人的には、相変わらず仕事は多いのですが、守るべき雇用も予算も無くなり、穏やかな気持ちで日々を送れるようになりました。岡山天体物理観測所にやって来た頃のことを思い出しています。高分散分光器の開発に専念していて、毎晩ヘールボップ彗星が明るく空にかかっていたのにも関わらず、ただ眺めるだけで全然観測しようとは思わなかったあの頃のことです。半年後には3.8m望遠鏡の共同利用が始まり、観測日程を守るために、また落ち着かない日々を送ることになるのだろうと思いますが、それまでは束の間のこの時間を味わっておこうと思っています。

そういえば最近、いつの間にか花粉症から脱却していることに気が付きました。どうも鼻の粘膜が鈍感になったようです(歳のせいだと思っていますが、ストレスのせいではと言う人もいます)。ただ、山から昇りたつ春の匂いを感じなくなってしまい、コーヒーの香りすら分からないので、人生の楽しみを一つ失った気がしています。でも、そんなことも、間近に迫った新しい時代が忘れさせてくれるものと思います。若い人々の力で3.8m望遠鏡が順調に観測を開始することを期待してやみません。

国内のどこを見渡しても、4m級と2m級の望遠鏡ドームがそびえ、大学が運用する小望遠鏡が多く集まり、専門的な博物館まで備わっている場所は他にありません。旅行者にとっても楽しい場所になるのではないかとの予感があります。それで、これらを総称する名前を考えてみました。岡山天文コンプレックス(Okayama Astro-Complex, OAC)というのはどうでしょうか?我ながらもっと素敵な名前は考えられないのかとがっかりします。この文を読んでくださっているみなさん、是非、竹林寺山の頂に展開された天文学関連施設への思いを込めて、一緒に考えてください。

平成30年4月、いよいよ私たちは岡山新時代へ漕ぎ出します。岡山天文コンプレックス(仮称)の活躍にご期待ください。