ほしぞら情報2025年6月
(解説)かんむり座Tの情報(2025年6月)

反復新星「かんむり座T」の概略
かんむり座T(注1) は、その名の通りかんむり座に位置する星で、反復新星(注2)と呼ばれる増光現象が起こる星として知られています。普段の明るさは、およそ10等ですが、増光現象が起こると、およそ2等まで明るくなり、肉眼でも見える状況となることが予想されます。
- (注1)この解説ページでは、恒星名である「T Coronae Borealis」(Coronae Borealis:かんむり座の学名の属格、略称:T CrB)について「かんむり座T」という表記を使用しています。なお、国内では「かんむり座T星」と最後に「星」を付記する表記も、しばしば使用されます。
- (注2)反復新星のほか、再帰新星、回帰新星、再発新星などとも呼ばれます。
かんむり座Tの増光が注目される理由
かんむり座Tの増光は、これまで少なくとも2回観測されていて、1度目が1866年5月、2度目が1946年2月です。およそ80年の間隔(周期)で増光していることから、2024年から2026年頃に増光現象が起こることが期待されています。2025年5月までには、この増光現象はまだ起こっていません。
新星(新星爆発)について
新星は、星(恒星)が突然明るくなり、その後はゆっくりと暗くなっていく現象です。増光する幅が7等以上、場合によっては15等以上にもなることから、今まで見えない明るさだった星が、あたかも新しく現れたかのように明るく輝いて見られます。このため「新星」と呼ばれています(新しく星が誕生したわけではありません)。この増光は、近い距離で回り合う連星の一方が白色矮星(わいせい)であり、白色矮星ではない星からのガスが白色矮星の表面に降りつもり、核爆発が起こることによって生じると考えられています(新星爆発)。繰り返し起こる現象ですが、一般的な新星爆発は、1000年から数百万年程度での間隔で起こると考えられています。
一方で、数十年の短い間隔で繰り返し起こすものもあり、増光が2回以上観測されたものを反復新星と呼んでいます。天の川銀河内では、これまでに10例ほどが知られていますが、最も明るくなったときに肉眼で見えるものは、かんむり座Tと、へびつかい座RSの2つだけです(注3)。
- (注3)へびつかい座RSは、最も明るい場合は4等台まで増光します。近年では2021年8月に約4.5等まで増光しました。
かんむり座Tの観察について
かんむり座Tは、普段はおよそ10等の明るさで輝いています。一般的な双眼鏡で見るのは難しく、中型の望遠鏡を使えば見ることができますが、決して見やすい明るさではありません。一方、カメラで100mmから200mm程度の望遠レンズを使用して撮影すれば、写すことは可能です。望遠鏡で見たり、カメラで撮影したりすることで詳しく観察をすると、1等以下の幅で明るさが変化しています。
星が爆発して増光した場合、最も明るい時にはおよそ2等の明るさで輝くものと予想されています(注4)。よく晴れた日ならば、市街地でも観察が可能です。ただし、2等や3等で明るく輝いているのは1日から3日程度で、その後は徐々に暗くなっていきます。肉眼でぎりぎり見える明るさである6等まで暗くなるのに、わずか7日から10日間ほどしかかかりません。肉眼でよく見える明るい状況となっているのは、1週間ほどしかないと考えておいてよいでしょう。また6等より明るい場合でも、市街地では見えづらいことが考えられます。この場合には、双眼鏡を使うとより確実に観察することができます。図の星の並びを参考に、かんむり座Tを探してみてください。
- (注4)2等の星(2等星)は、例えば同じかんむり座にあるアルフェッカ(かんむり座α)が近くに位置しています。その他、北極星(こぐま座β)や、おおぐま座の北斗七星の6個(1個は3等星)などがあります。
参考リンク:
- 再帰新星かんむり座T星 定点観測(倉敷科学センター):定点カメラによって、毎日1回、かんむり座周辺の撮影画像が公開されます。増光時にはかんむり座Tが写り、印が表示される予定です。
かんむり座Tの基本情報
かんむり座Tの基本情報を以下に記載します。
- 位置
- 赤経15h 59m 30.16s 赤緯+25° 55′ 12.6″
- 距離
- 約2,990光年(±約75光年)
- 等級
- 約10等(通常時)、約2等(増光時)
国立天文台職員が撮影した、かんむり座T

画像:中解像度(2000 x 1500) 高解像度(3200 x 2400)
画像(線・マークなし):中解像度(2000 x 1500) 高解像度(3200 x 2400)
過去の増光について
1946年
1946年2月9日(世界時)に、約3等での観測がアメリカやヨーロッパにて複数記録されています。なお、2月8日19時(世界時)に1.7等で観測したとの報告があり(現在のロシアのハバロフスク近郊にて)、IAUC(国際天文学連合回報)No.1038は、これがこの増光の最も早い観測と報じています。これらから、かんむり座Tは2月8日ないし9日頃に、最も明るくなったものと推測されています。またこの年の増光は、日本国内でも複数名によって観測されています(再増光の独立発見)。
1866年
1866年5月12日深夜に、アイルランドにて約2等の新星として発見された記録が残っています。さらに同日夜にアメリカ、翌13日の夜にギリシャなどでの発見報告があります。
その他の年
2023年に出版された論文(注5)によると、1787年12月及び1217年秋にかんむり座Tが増光していたとみられる記録があることが報告されています。
- (注5)Schaefer B. E. 2023, “The recurrent nova T CrB had prior eruptions observed near December 1787 and October 1217 AD”, Journal for the History of Astronomy, Volume 54, Issue 4, pp.436-455
過去の新星出現(増光の発見)を観測した報告が掲載されたページ。
※リンク先が画像のページの場合、表示されるまでに時間がかかる場合があります。
1946年の増光関係
- IAUC(国際天文学連合回報)No.1028 (※文書の画像データ、英語)
かんむり座Tについて、最初の増光報告が掲載されたページ(右ページ下部)。 - IAUC(国際天文学連合回報)No.1038 (※文書の画像データ、英語)
ロシアでの観測報告が紹介されたページ( 右ページ中央部)。
※IAUのCBAT(天文電報中央局)の「Various Older IAUCs」に掲載。
1866年の増光関係
- Astronomische Nachrichten 67, Nr.1590, P.87. (※文書の画像データ、ドイツ語)
最初の増光報告(アテネ)が掲載されたページ(左ページ下部・右ページ上部) - Astronomische Nachrichten 67, Nr.1597, P.197. (※文書の画像データ、英語)
アイルランドでの増光報告が掲載されたページ(右ページ下部)。 - Astronomische Nachrichten 67, Nr.1597, P.201. (※文書の画像データ、英語)
アメリカにおける増光報告が掲載されたページ(右ページ上部)。
※ドイツで発行された Astronomische Nachrichten(「天文通信」の意味)。ミュンヘン州立図書館が運営するMDZ(ミュンヘンデジタル化センター)によるDigitale Sammlungen (デジタルコレクション)のサイトで閲覧可能。