自然科学研究機構 国立天文台

七夕星の季節に天の川をのぞいて(後編)

広報ブログ

夏から秋へ移る今頃を表す季語、天の川。前編では二筋に分かれて見える天の川を巧みな叙景で詠み込んだ俳句を紹介しました。今回は、天文学的な視点から、天の川をのぞき込んでみます。

天の川銀河紀行
スーパーコンピュータによるシミュレーションで描き出された天の川銀河。星の光を遮る「暗黒星雲」が黒い筋のように見える様子がわかる。4D2UプロジェクトによるVR映像『天の川銀河紀行』より。(クレジット:©2017 馬場淳一,中山弘敬,国立天文台4次元デジタル宇宙プロジェクト )

私たちが住む銀河が見える

ぼんやりと光って見える天の川の正体は、おびただしい数の恒星の集まりです。その事実を天体望遠鏡による観察で初めて明確に解き明かしたのは、ガリレイでした。私たちは、円盤状に恒星が集まった銀河の内部にいます。内側から銀河円盤を一周見回すと、空をぐるりとめぐる帯状の星の集まりとして見える。これが「天の川」なのです。では、その天の川が二筋に分かれて見えるのは、なぜでしょうか。

実は、天の川の暗い部分(暗黒帯)には、星が無いわけではありません。銀河には、ガスや微細な塵(ちり)などの星間物質も含まれており、特に銀河の円盤面に集中しています。こうした星間物質が星の光を遮り、シルエットとして見える領域を「暗黒星雲」と呼びます。奥行きを持って広がる暗黒星雲が、天の川を引き裂くように見えているのです。

かんじんなものは、目に見えないんだよ

星間物質が濃く集まった暗黒星雲は、新たな恒星が誕生する材料の宝庫です。この天文学において極めて重要な領域は、可視光線では見ることができません。しかし、違う波長の電磁波で観測することで、星間物質そのものが映し出されます。暗黒星雲の成分である様々な分子は、種類ごとに、またエネルギー状態に応じて、異なる波長の電波を放射します。国立天文台では、野辺山宇宙電波観測所やチリのアルマ望遠鏡など、星間物質が放つ微弱な電波をとらえる巨大な電波望遠鏡を建設して、観測を続けています。ここでは、野辺山45メートル電波望遠鏡で観測した、天の川の暗黒帯の電波地図を見てみましょう。

FUGINプロジェクトの観測領域。
FUGINプロジェクトの観測領域。肉眼では天の川の暗黒帯として見える銀河面を、電波で観測する。(クレジット:NORIKAZU OKABE)

電波で明るく見えているところには、一酸化炭素分子(暗黒星雲中で水素分子に次いで多く、観測に適している)が集中しています。天の川の光っていない領域には、目に見えない物質が豊富に広がっている様子が、よくわかります。

3種類の同位体(原子に含まれる中性子数が違うもの)からの電波を同時観測したこの電波地図からは、ガスがどのような温度・密度の状態にあるかも推定することができます。大きく広がる低密度の分子ガスのところどころに、高密度の分子雲コアが埋もれています。こうした場所が、星形成の現場となっていくのです。

上段:野辺山45メートル電波望遠鏡で取得された天の川の3色電波画像。赤・緑・青はそれぞれ一酸化炭素の異なる同位体分子の電波強度を示す。下にNASAのスピッツアー衛星による赤外線画像を並べている。中・下段では、分子雲のフィラメント(筋状)構造や、星形成を行う高密度分子ガスの塊を拡大している。
上段:野辺山45メートル電波望遠鏡で取得された天の川の3色電波画像。赤・緑・青はそれぞれ一酸化炭素の異なる同位体分子の電波強度を示す。下にNASAのスピッツアー衛星による赤外線画像を並べている。中・下段では、分子雲のフィラメント(筋状)構造や、星形成を行う高密度分子ガスの塊を拡大している。(Credit: NAOJ/NASA/JPL-Caltech) オリジナルサイズ(601KB)

かつて、七夕の行事が行われていたこの季節。星々の位置関係から紡がれた悲恋の伝説、目に映る風景を言葉に写した詩歌、そして目に見えない光までとらえて宇宙で起きている現象を解き明かそうとする科学。人類がさまざまな眼差しを向けてきた天の川を見上げるのに、ちょうどよい季節です。

参考リンク

電波天文学の聖地からオンライン配信

野辺山宇宙電波観測所は、1980年代の開所以来長らく、日本の電波天文学研究の拠点として数多くの観測成果を上げてきた観測施設です。毎年8月に開催される特別公開は、電波天文学の研究分野や先端技術を身近に感じ、より深く学ぶ絶好のチャンスです。今年は8月28日(土)にオンラインイベントとして開催されます。
野辺山宇宙電波観測所 特別公開2021「科学を支えるものたち」(オンラインイベント実施)

文:内藤誠一郎(国立天文台 天文情報センター)