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七夕星の季節に天の川をのぞいて(前編)
伝統的七夕の夜空
すっきりと晴れた夏の夜空を見上げると、頭上高く夏の大三角が輝いています。こと座のベガ、そしてわし座のアルタイルは、いつしか伝説の登場人物、織女と牽牛になぞらえられてきました。かつて、七夕の祭事が行われていたのは、ちょうどこんな季節でした。
いわゆる「旧暦」などの太陰太陽暦における七月七日は、二十四節気の「処暑」の直前の朔(新月)から数えて七日目。2021年では8月14日がその頃に当たります。この日を、国立天文台では「伝統的七夕」と呼んでいます※。
※七夕を含む節句は、公式な祭事としては明治のはじめに廃止されたものですから、いずれかの日付をもって「正しい」七夕ということはできません。地域による様々な伝わり方それぞれに由があるものです。
七夕と天の川
織女と牽牛の名は、中国最古級の詩歌集の中にすでに現れています。そこで描かれているのは「維天有漢(これ天に漢有り)」空には天の川がかかっている、という情景。この詩では、織女と牽牛の間の恋情は描かれていませんが、後には恋い慕いあう二人が天の川の両岸に引き離されてしまう説話が編まれて、文明の交流が深かったアジア東部の広い地域に伝わったようです。今の日本でも、多くの人が知っている七夕伝説です。
このように、七夕とは切り離せない天の川。ベガとアルタイルは、明るい市街地の夜空でもすぐに見つけることができますが、もし十分に暗いところで見上げていたら、その間を横切るごく淡い光の帯に目を凝らしてみましょう。この時期の夜半前には、おおむね北東の方角から南西へと、まさに川のように長く空を横断しています。
天の川の流れを詠(うた)う
日本へと伝わってからも、七夕は詩歌の題として愛されてきました。万葉歌人たちも、天の川を渡して相聞の情を届けるような和歌を残しています。ここではもっと新しい形式の詩歌、俳句に詠われた天の川を取り上げてみることにします。ほどなく迎える8月19日は「俳句の日」だそうですから。
天の川枝川出来て更けにけり (鈴木花蓑)
頭上から流れ下る天の川が、支流(枝川)まではっきりと見えるほど、夜は深く更けています。俳句とは、写生であると言います。実際に夜空で天の川をご覧になっていれば、きっと実感が沸くでしょう。天の川は終始一筋の流れではなく、黒々とした裂け目を挟んで二筋に分かれて見えます。次の句は、もっと率直なイメージを伝えてきます。
海の門や二尾に落つる天の川 (山口誓子)
都市化が進み夜空が照明で明るくなった地域で暮らしていると、天の川はすっかり縁遠い存在になってしまいましたが、夏から秋へ移る時候の代表的な風物として詠われてきたもの。これからの季節、澄んだ暗い夜空で見上げたいところです。詩文学で巧みな叙景に表された天の川の姿は、現代の天文学の視点に立つとどんな風に見えてくるのか。後編で見ていこうと思います。
参考リンク
文:内藤誠一郎(国立天文台 天文情報センター)