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研究連携主幹が独断で選んだ2025年注目の国立天文台の研究成果

著者近影野村英子(研究連携主幹)

2025年の国立天文台研究成果一覧

2025年も国立天文台から数々の素晴らしい研究成果が出されました。ここでは、国立天文台の望遠鏡やスパコンを使った研究成果の中から、研究連携主幹が独断で選んだものをいくつか紹介します。

すばる望遠鏡による惑星系の最新研究

太陽系外縁に存在する小さくて非常に暗い天体の運動を観測することで、太陽系の成り立ちを明らかにする手掛かりを得ることができます。すばる望遠鏡は、このような暗い天体からのわずかな光を捉えることができます。

すばる望遠鏡が見つけた太陽系の『化石』」では、すばる望遠鏡で数カ月おきに複数回観測したデータに太陽系外縁の小天体を発見し、さらに過去の観測データを集め、また新たな観測を行うことで得た19年間にわたる観測データから、その天体の軌道を精度良く求めました。その結果、この天体が非常に特異な軌道を持つことがわかりました。さらに、国立天文台の計算サーバを用いた数値シミュレーションの結果と合わせることで、太陽系の過去に外縁天体の軌道がどのように進化したのかが明らかになりました。このような天体の観測を積み重ねることで、太陽系の歴史の全体像が明らかになると期待されます。

同様に、太陽系外の惑星からのわずかな光を観測し、その惑星の情報を得ることもできます。

すばる望遠鏡OASIS計画の初成果:巨大惑星と褐色矮星の発見」では、直接撮像観測ができる太陽系外の惑星を見つける新たな手法を、すばる望遠鏡を用いて確立しました。宇宙望遠鏡のデータを用いて、わずかなふらつきを示す恒星、すなわち、惑星や伴星を持つ兆候を示す恒星を探し、すばる望遠鏡でその恒星の周りの惑星や伴星からのわずかな光を、数年かけて複数回、直接撮像観測することで、惑星や伴星の質量や軌道などの詳しい情報を得ることができます。本研究では、木星よりも重たい巨大ガス惑星と、褐色矮星(わいせい)をすばる望遠鏡で直接撮像観測して、その質量や軌道を測定することに成功しました。本研究で新たに確立された手法を用いることで、今後さらに多くの発見が続くと期待されます。これらの発見は、惑星系の形成と進化の解明や第二の地球探しにつながるでしょう。

発見された巨大ガス惑星「HIP 54515 b」の連続画像
(クレジット:T. Currie/Subaru Telescope, UTSA)

アルマ望遠鏡で惑星系がどのように形成されるのかを探る

惑星系は、原始惑星系円盤とよばれる、塵(ちり)とガスでできた円盤状の天体で形成されます。アルマ望遠鏡は、この円盤内の塵やガスの詳細な構造を撮像観測して、惑星形成に関する情報を得ることができます。

惑星を作る渦巻きのダイナミックな動きを初めて捉えた」では、円盤の塵の渦巻き構造を、7年間にわたり複数回観測したデータを解析して、その渦巻き構造の運動を明らかにしました。円盤に渦巻き構造ができる主な要因として、円盤内で形成された惑星の重力の影響によってできる場合と、円盤自身の質量が大きく、その重みで不安定性が生じてできる場合の2通りが考えられてきました。後者の場合は、その後、円盤内で惑星の形成が急速に進む可能性があります。前者と後者では、渦巻き構造の運動の仕方が異なることが数値シミュレーションなどにより示されていました。本研究でその運動を初めて観測的に明らかにすることで、今回観測した円盤では、円盤の重みが原因で渦巻き構造ができている、すなわち、この円盤は、惑星が誕生する直前の状態であることがわかりました。

アルマ望遠鏡の観測で捉えた、原始惑星系円盤の渦巻き状の構造がダイナミックに変化している様子
(クレジット:ALMA(ESO/NAOJ/NRAO), Tomohiro Yoshida et al.)

惑星形成現場の磁場観測に成功」では、円盤の塵の偏光を複数の波長で観測することで、円盤内の磁場の強度や構造を明らかにしました。円盤内で塵は成長し、やがて惑星になると考えられています。塵の偏光は、様々な情報を反映することが理論的研究により知られており、塵の偏光からどのような情報が得られるかは、塵の大きさや密度などによって変わると考えられています。本研究で観測した円盤では、塵が円盤の北側に多く、南側に少なく偏った、変わった分布をしており、北側には比較的大きな塵が、南側には比較的小さな塵が分布していることが、理論的、観測的に示されていました。円盤の北側の塵の偏光観測からは、塵の大きさに関する情報が得られることが知られていましたが、本研究で、円盤の南側の塵の少ない領域に着目して偏光データを解析した結果、こちらでは磁場の情報が得られることがわかりました。原始惑星系円盤で磁場の構造が観測されたのは初めてのことです。磁場は円盤内のガスの運動、また、それを通じて惑星形成に影響を与えると考えられます。今後のさらなる研究により、磁場が惑星形成におよぼす影響の理解が進むと期待されます。

新たな画像作成法が明らかにした原始惑星系円盤の構造の進化過程」では、機械学習を用いて円盤内のより詳細な構造を明らかにする新たな画像解析法を、へびつかい座の星形成領域にある78天体におよぶ様々な年齢の原始惑星系円盤に適用して、統計的に解析しました。その結果、惑星形成の兆候を示す塵の構造が、これまで理論的に予想されていたよりも若い段階で、多くの円盤に存在することを明らかにしました。この手法を様々な星形成領域に適用することで、惑星がどのような時期にどのような条件で誕生するのかが明らかになると期待されます。さらに、渦巻きなどの構造の時間変化や偏光についてより多くの円盤で観測することで、惑星形成の全体像が明らかになるでしょう。

へびつかい座の星形成領域に分布する原始惑星系円盤の画像
(クレジット:ALMA(ESO/NAOJ/NRAO), A. Shoshi et al.)

すばる望遠鏡とアルマ望遠鏡で初期宇宙における銀河とブラックホールの進化を探る

すばる望遠鏡やアルマ望遠鏡は、はるか遠くに存在する宇宙初期の銀河からのわずかな光や、銀河におけるガスの運動まで捉えることができます。「嵐を呼ぶ太古の巨大棒渦巻銀河」では、初期宇宙に存在した、非常に活発な星形成活動をしている銀河におけるガスの運動をアルマ望遠鏡で捉えました。この銀河は、天の川銀河と似たような棒渦巻(ぼううずまき)構造を持つことが、ジェイムズ・ウェッブ宇宙望遠鏡(JWST)による最近の観測で明らかになった天体です。これをさらにアルマ望遠鏡で観測することで、この銀河にはガスが豊富に存在し、銀河スケールを超える広い範囲にわたってガスが非常に速い速度で運動しており、その一部が銀河の中心に流れ込んでいることがわかりました。天の川銀河と似たような構造を持ちながら、その星形成活動の活発さが大きく異なる要因は、このガスの流れの違いであることが示されたのです。初期宇宙の棒渦巻銀河にこのようなガスの流れが存在することが観測的に示されたのは初めてで、理論やシミュレーションでも予測されていなかったことです。この観測により、棒渦巻銀河がどのように誕生するかを明らかにする、新たな手掛かりが得られました。

宇宙最大級の超巨大ブラックホールの集団を発見―宇宙の物質分布に新たな謎を投げかける」では、宇宙初期のより大きな構造に着目しました。周囲のガスを大量に取り込むことで超巨大ブラックホールの周りの物質が極めて明るく輝く「クエーサー」が密集している領域に着目し、すばる望遠鏡でその周囲の銀河の分布を調べました。その結果、クエーサーが密集する領域は、2つの銀河集団のちょうど中間、あたかも、2つの大陸が衝突して形成されたヒマラヤ山脈のような位置に存在していることが明らかになりました。さらに、この周囲のガスの状態を調べた結果、この領域は、中性ガスが電離ガスに変わる“縁”に沿っていることがわかりました。これは、クエーサーが放つ強い光が周囲のガスを電離している可能性を示しています。すばる望遠鏡の超広視野多天体分光器PFSなどによるさらなる観測で、今後、超巨大ブラックホールの成長史が明らかになると期待されます。

本研究で発見された、クエーサーが密集する領域
(クレジット:国立天文台/SDSS, Liang et al.)

以上が、私が独断で選んだ今年の研究成果です。このように、天体からの様々な波長の光を、様々な手法を用いて解析し、理論や数値シミュレーションと合わせることで、遠くの天体で起きている現象、宇宙の謎が次々と明らかになっています。ここでは紹介しきれなかった興味深い成果が、他にもたくさん報告されていますので、詳しくは国立天文台の「ニュース 研究成果:2025年」をご覧ください。

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