- 研究成果
嵐を呼ぶ太古の巨大棒渦巻銀河

棒渦巻(ぼううずまき)構造を持つモンスター銀河について、その棒状構造のガスの分布と運動を、アルマ望遠鏡が詳細に捉えました。その結果、初期の宇宙に存在したこの銀河は、現在の宇宙に存在する棒渦巻銀河とはたいへん似通った姿でありながらも、その棒状構造の中ではガスが激しく吹き荒れ、猛烈な星形成を起こしていることが明らかになりました。銀河の成長と進化の歴史に新たな知見を加える重要な研究成果です。
宇宙の誕生から数十億年の初期宇宙には、現在の宇宙に存在する銀河の数百倍もの勢いで星を形成するモンスター銀河が数多く存在していました。その激しい星形成の結果として生じる多くの塵(ちり)は可視光線を吸収してしまうため、塵の影響を受けにくいミリ波・サブミリ波での観測で検出されてきました。
モンスター銀河はやがて巨大楕円(だえん)銀河へと成長すると考えられてきました。しかし近年は、電波と同様に塵の影響を受けにくい赤外線による観測でもその姿が捉えられ、円盤構造を持つモンスター銀河も多いことが分かってきました。特に、高い解像度を誇るジェイムズ・ウェッブ宇宙望遠鏡(JWST)による観測から、モンスター銀河の中でも円盤構造を持つ渦巻(うずまき)銀河の姿が、次々に捉えられています。しかし、JWSTでは銀河内のガスの運動を詳しく調べることは困難で、活発な星形成が起こるメカニズムを解明するには至りませんでした。
円盤を持つモンスター銀河の星形成を詳しく調べるため、国立天文台などの研究者から成る研究チームは、「J0107a」という銀河に着目しました。JWSTによる観測で巨大な棒渦巻構造が捉えられている銀河です。研究チームは、この銀河内のガスの運動を知るために、アルマ望遠鏡を用いて星間分子から放出される電波を観測しました。その結果、この銀河と現在の宇宙に存在する棒渦巻銀河とを比べると、棒状構造のガスの分布と運動はたいへん似通っていながらも、棒状構造の中に含まれる星に対するガスの割合とガスの速度は、異なっていることが分かりました。J0107aの棒状構造の中のガスの割合は、現在の銀河の数倍にのぼり、秒速数百キロメートルという速さのガスの流れが半径2万光年という範囲で激しく吹き荒れ、そのガスの一部が銀河の中心に落ち込んで猛烈な星形成を起こしていたのです。これは、初期宇宙の銀河において棒渦巻構造が形成される過程を見ていると考えられます。このような構造や過程が観測的に捉えられたのは初めてで、理論やシミュレーションでも予測されていませんでした。
本研究をリードした、名古屋大学で研究を進める国立天文台のファン特任研究員は、「今回の観測で得られたガスの詳細な分布と運動の情報は、銀河の多様な起源だけでなく、より普遍的な銀河の棒状構造の形成と進化を探ることにおいても、重要な手がかりになるでしょう」と語ります。
銀河の形成と進化は、大きなスケールのガスの流れの中で起こってきました。本研究からは、円盤銀河が銀河スケールを超えるガスの流れの中で誕生した後、銀河内の進化によって棒状の構造が出現し、銀河スケールの激しいガスの流れが活発な星形成を引き起こしたという新たなストーリーが考えられます。研究チームは、この描像を詳細に確認するため、銀河スケールを超えるさらに大きなスケールのガスの流れを、アルマ望遠鏡を使って観測していく計画です。
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