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天文学とアートが出会った日~「天文学×現代アート 100年の宇宙(そら) 見つめる眼・歌う声」開催報告

著者近影波田野聡美(天文情報センター)

パフォーマンスを行う山崎さん(左)とレクチャーを行う石垣助教(右)
パフォーマンスを行う山崎さん(左)とレクチャーを行う石垣助教(右)(クレジット:国立天文台)

2024年11月3日に、国立天文台三鷹移転100周年を記念して、「天文学×現代アート 100年の宇宙(そら) 見つめる眼・歌う声」を開催しました。

「私たちはどこから来たのか、私たちは何者なのか、私たちはどこへいくのか」天文学は、常に、この謎に挑み続けています。ちょうど国立天文台が三鷹に移転したころ、その謎に迫るために重要な要素となる観測手法が黎明(れいめい)期を迎えました。星の光を波長によるスペクトルに分ける「分光観測」です。天文台歴史館(1926年竣工。以下、歴史館)の中央にそびえたつ大赤道儀は1929年に完成、初期には太陽の分光観測や、30にも及ぶ恒星のスペクトルを系統的に観測したと資料に残されています。

当イベントは、この歴史館を舞台に、国立天文台の研究者である石垣美歩(いしがき みほ)助教が語り、声のアーティスト・美術家である山崎阿弥(やまさき あみ)さんが自らの声によるパフォーマンスで表現する、今までにない試みです。参加定員は、15名×3回公演の45名に対し、約10倍の申し込みがあり、厳正なる抽選により当選された皆様にご参加いただきました。

まずは宇宙について知っていただくために

アートに興味を持つ方も天文学に興味を持つ方も、どちらも共通の土台で歴史館でのパフォーマンスを楽しんでいただくため、まず4D2Uドームシアター で短い事前レクチャーを行いました。私たちを取り巻く宇宙の様子、ビッグバンから生まれた宇宙の進化、星や銀河が生まれ、そこで様々な元素が生み出されたことなど、ドーム全体に映し出された4次元デジタル宇宙ビューワーMitaka の映像でご紹介しました。

漆黒の闇の中で宇宙を感じ、100年を思う

歴史館での上演は、照明をすべて落とし、山崎さんによる天の川の星々や秋・冬の星座をイメージした声のパフォーマンスから始まりました。闇の中に響く声が、観客の感受性を高め想像力をかき立てます。

小さなランタンをともし、石垣が登場。古い星の分光観測による元素の起源や天の川銀河の成り立ちの研究を専門とする石垣が、100年前の分光観測のこと、分光観測で分かること、宇宙の始まりのころにできた化石のような古い星を見つけて私たちの起源を知る手がかりを得られること、そして、そのために新しい装置、超広視野多天体分光器PFS(Prime Focus Spectrograph)での観測が始まろうとしていることなど、淡い明かりの下で静かに語りました。その語りに合わせ、山崎さんがその都度、自らの声と体全体を楽器として、歴史館特有の音の響きも利用しながら、宇宙の営みを表現していきました。

科学的・論理的なアプローチを経て生み出されたパフォーマンス

山崎さんと石垣は、事前に多くの対話を重ね、科学的・論理的なアプローチを経て、このパフォーマンスを生み出しました。例えば、中盤では、シリウス、太陽、ベテルギウスをイメージしたパフォーマンスがありましたが、実は、それぞれの星のスペクトルを人の可聴域に変換して音にし、その音を山崎さんが自身の声で表現したものでした。上演終了後のアフタートークでは、こうした本番に至る裏話もご紹介しました。

最後に、司会役の山岡均広報室長から、参加者への御礼と、天文台歴史館のような施設の保全やこれからの天文学の発展のための「国立天文台三鷹移転100周年記念基金」の紹介があり、イベントは幕を閉じました。

アフタートークの様子
アフタートークの様子。画像は11月1日の天文台内プレ公開時のものです。(クレジット:国立天文台)

天文学と現代アートの邂逅

漆黒の闇の中での山崎さんの声のパフォーマンス、小さなランタンの光の下で石垣が語る宇宙の姿、暗闇に照らし出された大赤道儀、それらが相まって、独特の世界観を醸し出すことができました。まさに、天文学と現代アートの邂逅(かいこう)により新しい何かが生まれた瞬間でした。

上演終了後の参加者アンケートでは、「星の声が聞こえた気がした」、「歴史と最新アートの融合が素晴らしい発想」、「科学もアートだと思えた」、と多くの評価の声をいただき、スタッフ一同、ほっと胸をなでおろしているところです。ご来場いただいた皆様に厚く感謝申し上げるとともに、惜しくも抽選に漏れた・予定が合わなかったなど、残念ながらご来場いただけなかった皆様にイベントの様子が少しでも伝われば幸いです。

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