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新天体通報業務とは
新天体とは
ここでは、新たに出現した彗星(すいせい)、新星、超新星を「新天体」と呼ぶことにします。国立天文台天文情報センターでは、アマチュア天文家や一般の方々から寄せられる新天体の発見報告、それらの確認依頼などに応える業務を行っています。ときには2020年の習志野隕石落下の際の火球、東北地方で目撃された謎の気球のような、新天体以外の通報もありますが、正体不明の発光現象や光跡、物体の画像を鑑定するものではありません。また、人工物、人為的な光、天文現象とは異なると思われるもの(気象現象など)は、国立天文台では判断できません。
星空の変化をとらえる
近年は、自動制御式の小型・中型望遠鏡の導入とデジカメの組み合わせにより、比較的容易に新天体の捜索が可能になりました。星空を撮影して、もし過去の撮像にはない未知の天体が写っていたとなれば、それは宇宙に発生した事件をとらえた(発見した)のかもしれません。新星、超新星など爆発により急増光した現象、あるいは彗星や小惑星をとらえた可能性があるのです。ところが、明るい星が近くにあるとその光がカメラの内部で反射し、実在しない像(ゴースト)が写ったり、また、カメラの感度の上げすぎや受光素子の発熱などにより、実在しない光点(ノイズ)が写ったりすることがあります。その際、少し時間を空け、写野を少しずつずらした最低でも3枚の撮像があると、撮像システムのノイズやゴーストとの判別がしやすくなります。ノイズやゴーストの可能性を排除して、もし、とらえられた未知の天体が周囲の天体に対し移動していなければ、新星または超新星の可能性があります。移動していてボンヤリとしたコマがあれば彗星、コマが確認できなければ小惑星または人工天体の可能性がありますが、広角での撮像ではコマを確認しにくいこともあります。彗星の詳細については国立天文台のウェブページ「基礎知識(彗星)」 もご参照ください。
新天体候補を発見したら
ここからは新天体を発見しようとする方々に向けた、少し専門的な話になります。発見時や発見後の観測データを集約する専用のウェブサイトが、新天体の種類ごとにあります。新天体候補を発見したらこのサイトに報告し、発見を世界中に公表します。発見した方が自らこれらのサイトに報告するのが迅速性の観点から理想的ですが、新星と超新星のサイトについては、報告のためのアカウントを事前に取得する必要があります。アカウントがない方は国立天文台に通報していただくと、スタッフが調査して新天体の可能性があれば専用サイトに迅速に報告する態勢を整えていますが、タイムラグが発生することはご了承ください。新天体の報告先を以下に示します(すべて英語ページです)。
- 彗星
- Minor Planet Center (MPC) 小惑星センター
- 新星
- Central Bureau for Astronomical Telegrams (CBAT) 天文電報中央局
CBAT “Transient Objects Confirmation Page” (TOCP) - 超新星
- Transient Name Server (TNS)
国立天文台への通報
国立天文台への通報は、発見時の情報を通報専用電話(留守番電話)に録音していただくと携帯電話に転送され、その内容を当番が確認し、当番から通報された方にコンタクトを取ります。発見時の詳細を確認したうえで、新天体以外(飛行機雲、人工天体、変光星など)または既報の新天体であればその旨を、通報された方に伝えて対応完了となります。新天体発見の可能性があれば、国立天文台から専用サイトに報告して発見を公表し、通報された方に対応状況を報告します。国立天文台への通報については新天体関連情報のウェブページの「新天体発見・通報に関する情報」をご参照ください。通報の内容が不十分ですと、新天体であるかどうか判断できません。とくに発見した日時、座標(赤経、赤緯)、明るさをお忘れなく。
実際の通報例
日本時間の2018年4月29日21時36分、三重県にお住まいのアマチュア天文家、中村祐二(なかむら ゆうじ)さんから国立天文台に通報がありました。その内容は、「4月29日20時22分、ペルセウス座に明るい天体を発見、発見時の明るさは6.2等級、その位置付近には矮(わい)新星(新星とは増光のメカニズムが異なり、増光幅も新星より小規模な天体)として知られていた「ペルセウス座V392」(等級は14-17等)があり、この天体が急速に増光したようだ」というものです。この6.2等級という明るさは新星としてはかなり明るく、双眼鏡を使えば見えるほどの明るさです。また、矮新星がのちに新星爆発を起こしたのは、過去に観測例がほとんどない珍しい現象です。ペルセウス座V392までの距離はあらかじめ知られているので、それをもとに計算した絶対等級(天体の明るさを比較するために、一定の距離から見たとしたときの等級)はマイナス6.6等、新星爆発の明るさとして矛盾はありませんが、本当に新星であるか否かの判断は、天体の光の成分を調べる「分光観測」を待たなくてはなりません。
ここまで調べたうえで、国内の新天体関連の研究者数名に情報共有と協力を依頼、同時に天文電報中央局CBATへ報告したところで中村さんから発見時の画像がメールで届きました。全天を過去に撮影した画像がデータベース化されているので、中村さんの画像と照合し、急増光した天体がペルセウス座V392の位置にほぼ一致することを確認しました。
中村さんの発見から約2時間半後、なよろ市立天文台の内藤博之(ないとう ひろゆき)さんらにより分光観測が行われました。さきほどの情報共有が功を奏し、アマチュア天文家と研究者が連携して現象の初期の状況をとらえることができた好例です。翌日に海外の研究グループが分光観測した結果からも、この天体が新星爆発を起こしたことが確認されています。
さいごに
今では、複数台の大型・中型望遠鏡を駆使したサーベイで全天をくまなくカバーするプロジェクトが複数あります。毎年2万以上の超新星候補天体が報告され、分光観測によりこのうちの1割ほどが超新星であると確認されています。また、新彗星はコマを生じる前のまだ暗い時点で(小惑星として)発見され、のちにコマや尾が確認され彗星であるとわかる例が、多くみられます。このような状況下でも日本のアマチュア天文家の方々は新天体を毎年発見し、現象の初期段階のデータ取得に大きく貢献しています。私たち新天体通報担当もアマチュア天文家の方々の活動を応援しています。