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天球上で見る日食、地球上で見る日食
2023年4月20日、日食が起こります。日本では、一部地域から部分日食として見られます。南西諸島や、九州南部から関東南部にかけての一部の沿岸部や島嶼(とうしょ)部で、太陽がわずかに欠ける様子が見られます。
国立天文台情報センターでは、石垣島天文台からライブ配信を実施予定です。沖縄県石垣市から見える今回の部分日食の食分(太陽の視直径が月によって覆われる度合い)は、最大で0.151、太陽面の面積の6.9パーセントが月に隠されます。今回の日食を見ることができない日本の大部分の地域にお住まいの方にも、地球の周囲を公転する月が刻々と移動して太陽の前を通り過ぎていく様子を、リアルタイムでお楽しみいただければと願います。また、後述するように、今回は地球全体で見ると金環皆既日食となります。海外からは、月が太陽を完全に隠す様子の配信も行われるだろうと思いますので、見比べてみると面白いのでは。
日食の仕組みと見え方
遠方の太陽に照らされる月の後ろ側には、太陽光線が遮られた影が伸びています。この時、太陽全面からの光が遮られている円錐(えんすい)の領域を「本影」、その周囲で太陽面の一部からの光のみ遮られている領域を「半影」と言います。太陽―月―地球がほぼ一直線状に並ぶ時、地球がこの影を横切ると、影の中から見る太陽は月に覆い隠されて見える。この現象を日食というわけです。
半影の中からは、太陽の一部分が月に隠された「部分日食」が見られます。「本影」に入った地点では、太陽が月に完全に隠された「皆既日食」になります。皆既日食は、太陽の周囲に広がる希薄な大気「コロナ」が見られることで注目されます。
地球から見て、太陽と月の見かけの大きさ(視直径)は偶然にもほぼ同じですが、その微妙な変化が日食の見え方を変えます。地球は、わずかにゆがんだ楕円(だえん)軌道を公転し、一年を通して太陽との距離が多少変化します。一方、離心率の大きな楕円軌道を描く月と地球の距離は、月が公転する間に約1割も増減します。そのため、軌道上のどのようなタイミングで起こるかによって、太陽と月の視直径がそれぞれ異なる日食が起こります。月が地球から遠い時は、見かけ上小さな月が太陽全面を隠し切れず、はみ出した太陽がリング状に見えます。この条件の日食は「金環日食」と呼ばれます。
金環皆既日食?
今回、日本の一部では部分日食を見ることができますが、地球全体ではインド洋、オーストラリア、東ティモール、インドネシア、太平洋にかけての地域で「金環皆既日食」として見られます。これは、場所によって「金環日食」または「皆既日食」として見られる、ということです。これはどういうことでしょうか?
実は、月の見かけの大きさ(月までの距離)が変わる理由は、月の楕円軌道だけではありません。地球は、半径約6,378キロメートルのほぼ球体の天体です。この大きさは、月までの平均距離(約384,400キロメートル)の約1.7パーセントに当たります。つまり、地球上のどこで見ているかによって、月の視直径が最大で約1.7パーセント違って見えるのです。
今回の日食では、月の本影が通る「中心食帯」の広い範囲では皆既日食となります。一方、日食の始まりと同時に日の入りを迎えるインド洋南西部や、日食が終わると同時に日の出を迎える太平洋中央部などでは、金環日食となります。太陽―月―地球すべての中心を結ぶ直線上に当たり月との距離が最も近い条件になる日食帯の中央地点に比べると、日食帯の両端に当たるこれらの地域では、5,500ないし6,000キロメートルも月が遠い条件で日食を見ることになるのです。
月の影を見てみる
日食の最中に、月の影が地球上に落ちている様子を、今では人工衛星のリアルタイムデータで見ることができます。気象衛星ひまわりによる鮮明な画像では、ぼんやりとした暗い影が西から東へと地球の上を移動していく様子が分かるでしょう。
日食中継で、欠けてまた戻る太陽の前を通り過ぎていく月の存在を感じてみるのと一緒に、地球の周りをまわる月が地球に落とす影も合わせて見ると、3つの天体の空間的な位置関係が織りなす現象が、さらによく見えてくるかもしれません。
参考リンク
文:内藤誠一郎(国立天文台 天文情報センター)