自然科学研究機構 国立天文台

ノーベル物理学賞と天文学の120年

広報ブログ

10月4日から、生理学・医学賞を皮切りに2021年のノーベル賞の発表が始まりました。本日夕刻には、物理学賞の受賞者が発表されます。物理学、化学、生理学・医学、文学、平和の各分野で「前年に人類に最大の利益をもたらした者」に対する第1回の表彰が行われたのが1901年。物理学分野では、X線の発見に功績をあげたレントゲンに対して授与されました。それから、今年は120年目となります。その間、天体物理学や宇宙物理学に関連する研究業績も、いくつも表彰されてきました。ここでは、特に天体や宇宙現象に対する観測・理論研究に与えられたノーベル物理学賞を通して、20世紀から21世紀初頭までの天文学の歩みを見てみましょう。

受賞年受賞者授賞理由(対象となる業績の年代)
1936年ヴィクトル・フランツ・ヘス宇宙線の発見(1912年)
1967年ハンス・ベーテ原子核反応理論への貢献、特に恒星のエネルギー生成に関する発見(1938年)
1974年サー・マーティン・ライル
アントニー・ヒューイッシュ
電波天文学における先駆的研究(開口合成法等の観測技術の開発(1940年代)/パルサー発見における決定的貢献(1967年))
1978年アーノ・アラン・ペンジャス
ロバート・ウッドロウ・ウィルソン
宇宙マイクロ波背景放射の発見(1964年)
1983年スブラマニヤン・チャンドラセカール恒星の構造と進化に重要な物理過程に関する理論研究(1930年代初頭)
1983年ウィリアム・アルフレッド・ファウラー宇宙における化学元素合成に重要な理論的・実験的研究(1950年代)
1993年ラッセル・A・ハルス
ジョセフ・H・テイラー Jr.
重力研究の新しい可能性を開いた新型パルサーの発見(1974年)
2002年レイモンド・デイヴィス Jr.
小柴昌俊
天体物理学への先駆的貢献、特に宇宙ニュートリノの検出(それぞれ1960年代、1980年代)
2002年リッカルド・ジャッコーニ宇宙のX線源発見を導いた天体物理学への先駆的貢献(1960年代初頭)
2006年ジョン・C・マザー
ジョージ・F・スムート
宇宙背景放射の黒体放射性と異方性の発見(それぞれ1989年、1992年)
2011年ソール・パールマター
ブライアン・P・シュミット
アダム・G・リース
遠方超新星の観測に基づく宇宙の加速膨張の発見(1998年)
2017年ライナー・ワイス
バリー・C・バリッシュ
キップ・S・ソーン
LIGO検出器と重力波観測への決定的な貢献(検出技術開発(1970年代)/LIGO計画主導(1994年~)/重力波検出(2015年))
2019年ジェイムズ・ピーブルス宇宙の進化と宇宙における地球の位置付けに関する理解への貢献(物理学的宇宙論における理論的発見群(1960年代中盤~))
2019年ミシェル・メイヨール
ディディエ・ケロッツ
宇宙の進化と宇宙における地球の位置付けに関する理解への貢献(太陽型恒星を公転する太陽系外惑星の発見(1995年))
2020年ロジャー・ペンローズブラックホールの形成が一般相対性理論の強固な予測であることの発見(1964年)
2020年ラインハルト・ゲンツェル
アンドレア・ゲッツ
我々の銀河の中心にある超大質量コンパクト天体の発見(1990年代~)

(注)外国人名の便宜的なカタカナ表記について、『理科年表2021』(国立天文台編)の「天文学上のおもな発明発見と重要事項」、「物理学上のおもな発明および発見」に記載がある場合はそれに従っている。各国言語の発音と相違することがある。

理論でつづった宇宙の姿を観測で確かめる

太陽のエネルギー源、内部の構造と運動、そして進化
太陽のエネルギー源、内部の構造と運動、そして進化。それを知るための様々な電磁波や素粒子の振る舞い。私たちにとってもっとも身近な恒星を理解する基礎知識の積み重ねも、ノーベル物理学賞の歴史に織り込まれています。(クレジット:国立天文台)

賞を授与された研究テーマを見ていくと、まず、20世紀の中盤ころまでに、恒星についての理解が進んだことがうかがえます。原子核反応によるエネルギー生成(1967年受賞、以下同)、重力やエネルギー輸送、元素合成など、恒星の内部構造を成立させ進化を導く理論的モデル(1983年)が確立し、言わば「夜空に見える星が物理法則に従って輝いていること」が確かめられた時代だと言えるのではないでしょうか。

20世紀後半からは、宇宙の進化を理解しようとする宇宙論研究の業績が並びます。高温・高密度のビッグバンから誕生した宇宙に満ちている「宇宙マイクロ波背景放射」の発見・精密観測(1978年、2006年)や、ダークエネルギーの提唱につながった宇宙の加速膨張の発見(2011年)。それらの観測による裏付けを重ねて、原点にあったビッグバン宇宙モデルの理論的構築(2019年)が評価されるに至りました。重力波の検出(1993年、2017年)やブラックホールの理論・観測(2020年)を通して、一般相対性理論から予測された時空の振る舞いを検証する業績も表彰が続いています。

こうしてノーベル物理学賞を受賞した研究を並べてみると、宇宙全体の構造やそこで起きる現象が根本的な理論によって記述され、その予測の正しさが観測・実験によって実証されることで、20世紀の物理学が宇宙の理解を築いてきた階梯(かいてい)が見えてくるように思います。

広がってきた宇宙の観測手段

すばる望遠鏡、アルマ望遠鏡、大型低温重力波望遠鏡KAGRA
20世紀後半から天文観測を発展させたCCD(電荷結合素子、2009年受賞)、電波干渉計の基本となる開口合成技術(1974年)、レーザー干渉計型重力波望遠鏡の原理となったマイケルソン干渉計(1907年)。現在の国立天文台の主力観測プロジェクトも、ノーベル物理学賞で認められた技術的原理の上に発展してきた。写真は左から、すばる望遠鏡に搭載された超広視野主焦点カメラ(HSC)、アルマ望遠鏡、大型低温重力波望遠鏡KAGRA。(クレジット:HSC-SSP/国立天文台、国立天文台)

20世紀の初頭のノーベル物理学賞には、放射線(高エネルギーの電磁波や素粒子)についての業績が続きます。その中で、電子や陽子、中性子などの素粒子が続々と発見され、そうした放射線が宇宙空間から飛来していることも発見されました(1936年)。ノーベル賞にはノミネートされていませんが、宇宙から飛来する電波が検出されたのも1930年代です。電波天文学は今や宇宙観測の屋台骨の一本。開口合成法などの先駆的研究(1974年)を基礎として、アルマ望遠鏡やイベント・ホライズン・テレスコープなどの電波干渉計が活躍しています。

ノーベル物理学賞の始点であるX線も20世紀後半に宇宙観測の主要な柱となり、最新の観測手段であるニュートリノ天文学と同時に表彰されています(2002年)。重力波天文学の成立(2017年)も忘れることはできません。古代から脈々と続いてきた可視光線のみによる宇宙の認識手段が、20世紀以降に一気に拡大したことがうかがえます。

一つの物理学として

ここまでは、天体や宇宙現象を直接的に取り上げた研究業績に注目してきましたが、120年間のノーベル物理学賞の対象となった分野を見渡すと、20世紀に天体物理学、宇宙物理学が発展してきた背景がさらに見えてくるでしょう。気体の状態方程式から電磁流体力学まで、天体を成り立たせるガスやプラズマの状態を理解するための諸法則が整えられました。熱放射や光電効果の研究、原子構造の追究は量子力学へと結実し、私たちが電磁波スペクトルの中から受け取る天体情報を豊かにしました。素粒子物理学と場の量子論の発展は、宇宙初期の極限状態に切り込む道を開きます。半導体や超伝導、レーザーや光ファイバーなど、電子工学や光エレクトロニクスのブレイクスルーは、現代の高精度な天体観測を支える検出器システムを支えるものですし、集積回路の発明がなければ、観測機器の制御からシミュレーション計算まで天文学研究のあらゆる場面で不可欠なコンピュータも発達しなかったでしょう。

天体や宇宙の研究は、このように物理学の一分野としてその歴史に組み込まれており、近年のいくつものノーベル物理学賞は、20世紀物理学全体の蓄積の開花ということもできそうです。宇宙という極限的環境を資料として、今の物理学の理論体系がどこまでこの世界を忠実に捉えているかを確かめ続けることで物理学の正道の役割を果たしていく天文学という分野から、今後はどのような研究がノーベル物理学賞に輝いていくのでしょうか。

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文:内藤誠一郎(国立天文台 天文情報センター)