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中秋に月を見る

2017年1月12日 20時34分撮影の満月。
今夜は中秋。満ちた月をじっくりと眺めてみては。 2017年1月12日 20時34分撮影の満月。(クレジット:国立天文台)

9月21日。本日は2021年の「中秋」です。中秋とは、かつての太陰太陽暦(陰暦)における八月十五日(注)を指して言います。この夜の月は「名月」とされてきました。

(注)この記事では、現行暦と区別するため、太陰太陽暦の月日を漢数字で表記しています。 本文へ戻る

秋の真ん中

二十四節気の「秋分(八月中)」を含む八月は、太陰太陽暦で秋とされた3か月の中央の月。そのひと月の中央に当たる十五日。秋の真ん中の月「仲秋」のそのまた真ん中、秋の中日が「中秋」というわけです。秋の名月の起源をたどると古代の秋分の祭祀(さいし)に関連するのでは、という考察もあります。農耕文明において、秋は重要な収穫の時期。日本でも「芋名月」にサトイモなどを供える風習があります。

名月かならずしも満月ならず

太陰太陽暦では新月(朔)を月初めとしました。ゆえに一日=月立ち(ついたち)であり、それから月の満ち欠け周期の約半分を数える十五日の月は、満月に近く満ちていました。

あくまでも日付で決まる「中秋の名月」は、天文学的に定義される満月(望)と別の日付になることが多いのですが、今年は今朝8時55分に望を迎えたばかり。十五夜の月=望月(満月)というイメージにふさわしい、ほぼ完全に円い姿の名月です。

観月向きの秋の月

中秋節は、東アジアに広く定着している風習です。日本には平安時代に伝わり、貴族は中秋の夜に舟遊びをし、詩歌管弦を楽しんだと言います。古くの観月は、月をそのまま仰ぎ見るのみでなく、水面に映じる月のように景色に取り入れて雅としたようです。築山に昇る月を待ち、池や白州に照り返す月光を見下ろし、夜を通して空をわたっていく月を楽しむ、美意識を凝らした庭園も造営されました。

このように楽しめるのも中秋の候の月ならではの魅力のようです。太陽の反対側に見える満月は、夏は低いところにとどまり、冬には急速に天高く昇っていくことになります。大気による色の変化や地上の景色との調和を楽しむのに、高すぎず低すぎもしない秋の満月が向いているのかもしれません。 満月は、現在の市街地の明るい風景にも負けません。それぞれの場所で観月を楽しめるとよいですね。

国立天文台から見える月

月は、私たちの美意識だけでなく、探求心をも強くとらえ続ける天体です。最後に、現代天文学の目で見えてくる月の姿を、国立天文台の研究プロジェクトの活動から紹介します。

月の最大の謎は、その誕生にあります。太陽系には、惑星の周りをめぐる衛星が多数ありますが、惑星に対する比率を考えると、月だけが衛星として圧倒的に大きい。地球がこのように特徴的な衛星を持つに至った決定的な出来事は、太陽系の形成時代、地球が経験した巨大な天体衝突だったのではないか。国立天文台でも、天文計算専用のスーパーコンピュータの開発を続け、月が誕生するシナリオを描き出そうとしています。

約46億年前、原始惑星同士の衝突によって月が誕生したのかもしれない。「巨大衝突説」に基づいた月形成シミュレーションを可視化した映像。(解説)(クレジット:Robin M. Canup,Takaaki Takeda, 4D2U Project, NAOJ )

月面全体の詳しい地形図を初めて作成した日本の月周回衛星「かぐや(SELENE)」のレーザ高度計LALTを開発したのは、国立天文台のRISE月探査プロジェクト(現・RISE月惑星探査プロジェクト)でした。小惑星探査機「はやぶさ2」に搭載されたレーザ高度計LIDARも、LALTの経験を生かしてRISE月惑星探査プロジェクトが開発したものです。様々な探査データを取り入れて、月の内部構造を探る研究も進めています(関連リンク参照)

月周回衛星「かぐや(SELENE)」に搭載されたレーザ高度計と地形カメラのデータを用い、地形を立体的に再現した映像。(解説)(クレジット: Hirotaka Nakayama, JAXA, RISE Project, 4D2U Project, NAOJ )

それぞれの時代の視線で

月月に月見る月は多けれど月見る月はこの月の月(よみ人知らず)

そんな戯れ歌も伝わるほど、古今の人を惹(ひ)きつける秋の名月。受け継がれてきた情緒を味わいながら月夜の風景を楽しむのもよいでしょう。様々に見立てられてきた月の模様をじっくり眺めるのも面白いでしょう。そして月の姿や成り立ちを解き明かそうとする思いも、月に惹かれた人間が受け継いでいるものなのです。

関連リンク

文:内藤誠一郎(国立天文台 天文情報センター)

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