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酷暑の中 APRIM2023 熱く開催さる
2023年の夏、福島県郡山市において、アジア太平洋地域の天文学に関する国際会議(Asia-Pacific Regional IAU Meeting、以下APRIM)が、夏の酷暑と同じくらいの参加者の熱気の中で開催されました。
誘致、そして開催決定
APRIMは国際天文学連合(IAU)が3年に一度、開催する地域会議のひとつです。1978年のニュージーランドを皮切りに3年毎に開催してきました。APRIM2020は、2020年夏にオーストラリア・パースで開催予定でしたが、新型コロナウイルス感染拡大の影響で中止となり、地元の組織委員会は再開を断念しました。
日本では1984年の第3回京都大会、および2002年の第8回東京大会と過去2回開催してきました。しかし、前回の招致からかなり間が空いたこともあり、日本学術会議物理学委員会IAU分科会でAPRIMの招致を議論し、第24期第6回のIAU分科会(2019年7月19日)で2023年の開催誘致を決定しました。その際、当該分科会において、委員長である渡部が招致するのなら、彼の地元である福島で開催すべしという発言があったことから、その方向でなんとか招致に成功、開催にこぎ着けたというわけです。
APRIM2023、開催さる
2023年8月7日から8月11日にかけて郡山市の「ビッグパレット」を会場にした本会議では、9つのセッションにオンライン参加を含めて474名の参加者が、39の国と地域からあり、口頭発表が235件、ポスター発表が149件と、とても盛況でした。また引き続き8月12日は、パブリックレクチャーを郡山駅前の「郡山市ふれあい科学館」で開催し、オンライン試聴を含めて600名以上の参加がありました。
日本の天文学においては、この間、すばる望遠鏡の安定運用が続き、広視野カメラの新装や、アルマ望遠鏡の稼働、はやぶさ探査機など多くの成果が上がっており、これらの情報を環太平洋諸国の研究者に発信し、共有する絶好の時期だったと言えます。また開催地にあえて、地方都市である福島県を選んだことで、復興支援を含めた地方都市での国際会議開催というレガシーを生み、Fukushimaへの偏見や悪い風評の軽減にもつながったのではないかと思います。ランチタイムに開催した「Women in Astronomy」、台湾や会津大学でのサテライトミーティングなどでも、有益な議論ができました。
ユニークな取り組み
今回は日本学術会議の共催会議としても承認されたことで、天文学コミュニティとしては1997年の国際天文学連合IAU京都総会以来となる、開会式への皇族のご臨席を賜ることとなりました。秋篠宮皇嗣妃殿下のお成りを得ての開会式、そして学術の国際会議としては極めて異例であるテーマソング(ミュージシャンのACIDMANによる『ALMA』)の設定など、極めてユニークな取り組みとなったと自負しています。
本会議期間中の、ポスター会場に隣接するスペースでのスポンサー関連の展示や、裏千家による抹茶の提供、試飲を含む地元の日本酒や宇宙酒(酵母を国際宇宙ステーションに持って行き、それを持ち帰ったもので作られた日本酒)の販売、地元の物産展示なども好評でした。さらに福島県としては復興の状況を知ってもらう展示を、また福島県天文協会は地元の星空の写真展示を、それぞれ開催していただきました。特に後者では、日本天文学会天文教育普及賞を授与され、長年活躍して昨年に亡くなられた藤井旭さんの写真も使われていて、その展示写真を撮影していく参加者も見かけました。日本政府観光局からは「ユニークなレガシーを生んだ国際会議のひとつとなった」というお褒めの言葉をいただきました。
APRIM2023を終えて
ところで、開催にあたって組織委員会委員長個人としては、なるべく国立天文台には、あまり迷惑をかけずに行いたいと思っていました。しかし、若手が多く参加する会議の特性上、参加登録費を思い切って下げたこともあり、予算が厳しかったために、結局は組織委員会の先生方はもちろん、国立天文台に負った部分は大きなものがありました。科学組織委員会の委員長としては、郡山育ちの林左絵子さんに大活躍してもらいましたし、天文情報センターや国際連携室、そして事務の方々にも全面的な協力を得ることになりました。ロゴマークやメインビジュアルのデザイン・作成、ブースの開設・運営、開会式当日の人員などを、いわば内製によって運営の一端を担ってもらったといえるでしょう。とりわけ開催期間中の写真・動画撮影には全面的な協力をいただき、最終日の閉会式には、まとめ動画を放映して高い評価を得ることができたのは幸いでした。これらは現在も残しているウェブサイトで見ることができます。
なお、昨今の世界情勢によって航空券代が高騰しており、予定参加者の4割に近い方々から旅費支援要請があるという前代未聞の事態となりました。IAUからだけでなく、組織委員会独自にも支援を行うことができたのは、皆さんからのご寄付の賜(たまもの)です。関連学会、関連各大学、研究機関、地元自治体やコンベンションビューロー、関連する民間会社、団体、そして個人などの、多くの後援・支援があったことに感謝申し上げます。