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レプソルド子午儀 重文指定から10年に寄せて

レプソルド子午儀
国の重要文化財に指定されたレプソルド子午儀。望遠鏡の鏡筒が、東西方向に水平に置かれた軸を回転するように作られている。(クレジット:国立天文台) オリジナルサイズ(5.3MB)

掘り出された貴重な遺産

自然科学研究機構 国立天文台は、東京帝国大学 東京天文台の時代を含めれば、軽く120年を超すという、日本でも有数の長い歴史を持つ研究所であることはご存じだろう。東京都心の港区麻布にかつて本部や天文台があり、そこで観測も行われていた。新進気鋭の日本の天文学も、ここから始まったと言っても過言ではない。そこではいち早く天体写真を導入し、観測を始めたブラッシャー写真儀や、時刻の決定を行うとともに、経緯度の測定に使用されたレプソルド子午儀などが活躍を始めていた。特に、後者の子午儀があった場所は日本の天文経度原点の一つとなっている。

ただ、麻布は観測を続けるにはあまりにも都心すぎた。次第に観測環境が悪化し、三鷹への移転が進められ、これらの最新鋭の機材も三鷹に引っ越してきた。移転の大きな契機になったのは1923年9月1日の関東大震災であった。当時の東京天文台も被災はしたものの、幸いレプソルド子午儀は無事で、1925年に完成したレプソルド子午儀室(現在の子午儀資料館)に移された。移設後は主に、太陽系天体の観測や、戦後は恒星の赤経観測に用いられ、日本初の本格的な星表「三鷹黄道帯星表(こうどうたいせいひょう)」に結実した。

やがてその役割を終えた後は、レプソルド子午儀室の中がどうなっているか知る人もないまま、放置されて半世紀を過ぎようとしていた時のことだった。なかばボランティアで、こうした古い観測装置類の整備を買って出ていた中桐正夫(なかぎり まさお)氏が、レプソルド子午儀が当時のまま残されていることを見いだし、言わば「発掘」して整備したのである(参考1)。

子午儀資料館の整備とアーカイブ室の活動

もともと筆者が広報普及室を立ち上げた1994年頃、国立天文台はハワイに新しい大型望遠鏡(すばる望遠鏡)を建設するために躍起で、キャンパス内に残された移転当時の建物や、その中に残された古い観測機器の管理には手が回っていなかった。同じ時代に麻布から移転してきたブラッシャー写真儀も、その風情ある建物と共に廃棄されようとしていた。なんとか中身だけは国立科学博物館に収蔵してもらったが、写真儀室が取り壊された失敗は繰り返したくなかった。

広報普及室が天文情報センターになったことを契機に、2000年に三鷹キャンパスの一般見学コースが整備された。このレプソルド子午儀室を、他の古い子午儀や時計などの歴史的観測機器・器物を集めた「子午儀資料館」として整備・公開したのは2007年であった。こうした活動は、2008年4月の天文情報センター内での「アーカイブ室」設立につながった。「国立天文台内にある歴史的価値のある天文学に関する資料(観測・測定装置、写真乾板、貴重書・古文書など)の保存・整理・活用・公開を行う」ことをミッションにスタートし、台内にある国の登録有形文化財の補修や整備等を進めた。この活動により、散在していた歴史的観測装置を旧光電子午環の建物を活用した「天文機器資料館」に一堂に集め、現在も見学に供している。

また、旧図書庫に大量に残っていた写真乾板類の整理も進めた。そして、戦中の本館火災で焼失したと思われていた麻布時代のブラッシャー写真儀で撮影された19世紀の天体写真類も発掘した。中には、日本で初めて命名された小惑星「NIPPONIA(ニッポニア)」、「TOKIO(トキオ)」の観測乾板もあり、後にデジタル化し、そのデータベースの公開も行っている(参考2)。

文化財としての指定へ

そんな活動の熱意がニュースとして伝わったのだろう。2010年あたりから、文化庁がレプソルド子午儀の視察にやって来た。そして2011年6月には国の重要文化財に指定されたのである。アーカイブ室の面目躍如であった。それだけではなかった。2013年になって、このレプソルド子午儀が格納されている子午儀室(子午儀資料館)や、その隣のゴーチェ子午環室などが、大正期から昭和初期にかけての近代建築として保存されるべき貴重な文化財であるとして、新たに7件が国の登録有形文化財となった。アーカイブ室以前に登録された3件を含め、三鷹キャンパス内に10件の有形文化財があることになる(参考3)。毎年11月3日頃の東京文化財ウィークには、貴重な建築物を見学に来る人が多いのも、これだけ文化財が集中している場所だからだろう。

2012年、諸般の事情からアーカイブ室は廃止されたが、その精神はいまもキャンパスに引き継がれている。皆さんも新型コロナウイルス感染症が収束したら、ぜひ一つ一つをじっくりと眺めに、三鷹キャンパスに足を運んでほしいところである。

子午儀資料館
国の重要文化財に指定されたレプソルド子午儀一式が納められている子午儀資料館。(クレジット:国立天文台) オリジナルサイズ(4.9MB)

文:渡部潤一(国立天文台 天文情報センター)

参考

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