すばる超広視野多天体分光器プロジェクトとは
すばる望遠鏡に搭載する、新しい強力な分光装置(PFS)を開発するプロジェクトです。すばる望遠鏡が誇る超広視野と大集光力を存分に活かし、直径1.3度という大きな視野の中に存在する最大約2400個の天体の光を同時に分光することができます。また観測可能な波長帯も幅広く、可視光から近赤外線に至る 380-1260ナノメートルの波長帯を一度に観測できます。波長分解能は可視光から近赤外線にかけて2300から4300であり、さらに 710-885ナノメートルの波長帯では、中分散分光素子を挿入することでこの分光器最大の分解能5000を得ることができます。この多天体分光器が稼働すれば、現在の可視光分光観測に比べて視野が50倍、同時分光天体数が20倍と圧倒的な性能向上が見込めます。PFSを使って多数の天体の光を一度に分光することによって、遠方銀河までの距離や星や銀河の化学組成を非常に効率よく測定することが可能になります。
超広視野多天体分光器は、東京大学カブリ数物連携宇宙研究機構を中心とした7か国・地域の12機関またはコンソーシアムが共同で開発しています。その中で国立天文台は、装置のすばる望遠鏡への設置と試験観測等による立ち上げ、データ解析パイプラインの開発、スペクトルを解析するためのプラットフォーム、および科学運用体制の構築と運用を中心となって担います。
画像1:すばる山頂施設内にある専用の恒温クリーンルームに設置された4組の分光器モジュール。それぞれのモジュールは3台のカメラを用いて約600本のファイバーの光を幅広い波長帯で同時に分光することが可能です。
画像2:すばる望遠鏡主焦点面に配置された約2400本の光ファイバー端(整列した点)とそれを囲むように配置されたオートガイドカメラ(赤く反射している四角い窓)。ひとつひとつのファイバー端はファイバーポジショナと呼ばれるロボット(画像3参照)により一定の範囲で動かすことができます。これによりファイバー端は天球上の天体の位置に合わせて精度よく配置され、その光を受信します。この写真ではそれぞれのファイバーが接続されている個々の分光器モジュールが分かるように、4台の分光器モジュールごとに異なる色の光をファイバーに入射して撮影しました。
画像3:超広視野多天体分光器に搭載するためにアメリカのジェット推進研究所/カリフォルニア工科大学を中心に開発された、光ファイバーを所望の位置に配置するためのアクチュエータ。光ファイバー1本1本を天体の位置に正確に合わせることで、多数の天体の光を一度に分光器に取り込むことができます。