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科学技術分野の文部科学大臣表彰を国立天文台の研究者が受賞

令和7年度科学技術分野の文部科学大臣表彰を、国立天文台の研究者が受賞しました。科学研究部の片岡章雅(かたおか あきまさ)助教と藤井友香(ふじい ゆか)准教授、RISE月惑星探査プロジェクトの菊地翔太(きくち しょうた)助教が若手科学者賞を、「一家に1枚宇宙図」制作の中心メンバーである、天文情報センターの縣秀彦(あがた ひでひこ)准教授と平松正顕(ひらまつ まさあき)講師が科学技術賞(理解増進部門)を、それぞれ受賞しました。
片岡助教は、「数値計算とミリ波偏光観測を用いた惑星形成過程の研究」の業績が受賞の対象となりました。
惑星は、若い星の周囲を取り巻くガスや塵(ちり) の円盤(原始惑星系円盤)の中で、とても小さな塵の粒が互いに衝突して形作られると考えられています。しかし、衝突の際に塵同士の結合が破壊されてしまうなど、従来のモデルでは説明が困難な点がありました。片岡助教は、塵が球形ではなく複雑に連なったすき間だらけの構造を作ることで、破壊されずにうまく成長することを、数値計算を用いて理論的に示しました。さらに、アルマ望遠鏡を使って原始惑星系円盤のミリ波偏光観測を行うことで、この理論を自ら検証しました。
藤井准教授は、「太陽系外地球型惑星の表層環境推定に関する理論的研究」の業績が受賞の対象となりました。
現在、太陽系外にも多くの惑星系が発見され、その中には生命に必要な水が安定して存在できるような温暖な惑星も存在すると考えられています。しかし、太陽系外惑星の表面を細かく観測することは困難で、その環境については、非常に限られた観測データから推測するしかありません。藤井准教授は、地球観測衛星のデータや大気のシミュレーションから、地球のような惑星が遠方からどのように見えるかを計算し、天体が点としてしか見えない場合でも、観測された光から海や大陸の存在といった惑星表面の様子を推測できることを示しました。
菊地助教は、「小天体近傍の強摂動軌道に関する研究」の業績が受賞の対象となりました。
重力が微小である彗星(すいせい)や小惑星といった小天体の周辺では、探査機や塵などの物体が複雑な動きをします。この力学を理解することは、小天体の探査を実現したり、小天体の形成過程を理解したりする上で、とても重要です。菊地助教は、いびつな形の小天体が及ぼす不均一な重力と太陽からの光の圧力の影響で強く乱れる軌道に関して、基本的な力学理論を構築しました。これらの基礎理論は、天体力学の専門家であり初代国立天文台長を務めた故古在由秀(こざい よしひで)氏が構築した理論の拡張と位置付けられます。さらに、数値シミュレーションを駆使することで、小惑星探査機「はやぶさ2」の探査対象であったリュウグウの重力を、人工物の軌道運動から推定するなどの応用研究を進めました。
縣准教授、平松講師は、「一家に1枚宇宙図の制作とそれを用いた天文学の普及啓発」の業績が受賞の対象となりました。
「一家に1枚宇宙図」(以下、宇宙図)は、文部科学省が科学技術週間に合わせて発行する学習資料「一家に1枚」シリーズの一環として、2007年に制作されました。天文学分野のさまざまな研究を時空図上にマッピングすることで宇宙の全体像を俯瞰(ふかん)できるポスターで、全国の小学校・中学校・高等学校および社会教育施設に無料配布されました。宇宙図の制作メンバーは、その後も3回にわたる改訂に取り組んだだけでなく、宇宙図を利用した講演会、サイエンスカフェ、ワークショップなどの科学コミュニケーション活動を行ったり、研究会等を通じて効果的な使い方について国内外の科学コミュニティに提案したりしてきました。こうした活動を通じて宇宙の姿を象徴する図としても広く認知され、アニメやドラマ等でも小道具として登場しています。
科学技術分野の文部科学大臣表彰は、科学技術に関する研究開発、理解増進等において顕著な成果を収めた者を表彰する制度です。令和7年度の表彰式は、2025年4月15日に文部科学省(東京都千代田区)にて執り行われました。