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国立天文台に関連する日本天文学会の表彰

日本天文学会2025年春季年会の開催に合わせて、同学会の表彰制度による2024年度各賞の授賞が発表されました。そのうち、国立天文台に関連する賞は以下のとおりです。
天文教育普及賞
国立天文台で4次元デジタル宇宙(4D2U)プロジェクトに従事し、天文シミュレーションプロジェクト特任専門員を務めた加藤恒彦(かとう つねひこ)立教大学特任教授が、2024年度日本天文学会天文教育普及賞を受賞しました。受賞の対象となった活動は「4次元デジタル宇宙ビューワーMitakaの開発」です。天文教育普及賞は、天文学の教育や普及活動を称賛し奨励するために設けられたものです。
「Mitaka」は、最新の観測データや理論モデルを用いて、太陽系から天の川銀河、宇宙の大規模構造に至る宇宙の階層構造を、仮想的・視覚的に体験できるビューワーです。国立天文台三鷹キャンパスの4D2Uドームシアターの一般公開では、このMitakaを用いた宇宙映像を立体視で体験できるようになっています。また、無償配布されていることから、国内外の多くの科学館・プラネタリウムをはじめ、学校教育現場でも広く活用され、天文学の教育・普及に、そして天文学への関心を高めることに、多大な貢献を果たしています。
加藤氏は、4D2Uプロジェクトメンバーとして、令和2年度科学技術分野の文部科学大臣表彰 科学技術賞(理解増進部門)も受賞しています。
欧文研究報告論文賞および研究奨励賞
国立天文台で研究を進める、自然科学研究機構アストロバイオロジーセンターの平野照幸(ひらの てるゆき)准教授を筆頭著者とする研究論文が、独創的で天文分野の発展に寄与した優れた論文に対して授与される、2024年度日本天文学会欧文研究報告論文賞を受賞しました。受賞対象となった研究論文は、2020年9月10日付で『日本天文学会欧文研究報告(Publications of the Astronomical Society of Japan)』に掲載された、Hirano et al., “Precision radial velocity measurements by the forward-modeling technique in the near-infrared”(近赤外線域での順モデリング法を用いた精密な視線速度測定)です。
低温度の恒星であるM型星は、地球外生命探査のターゲットとされ、その周囲をめぐる惑星を捉えるために視線測度法が多く用いられます。研究チームは、すばる望遠鏡に搭載した高精度の赤外線分光器IRDを用いてM型星を観測し、近赤外線域での視線速度の情報を精度良く捉えることに成功しました。本論文では、IRDによる近赤外線での精密な視線速度の測定を実現するための手法がまとめられており、この手法は世界的にも多くの注目を集めています。
平野氏は、令和6年度科学技術分野の文部科学大臣表彰 若手科学者賞も受賞しています。
同じく、自然科学研究機構アストロバイオロジーセンターのStevanus Nugroho(ステファヌス・ヌグロホ)特任研究員は、優れた研究成果を挙げている博士学位取得後8年以内の天文学研究者を対象とした、2024年度日本天文学会研究奨励賞を受賞しました。対象となった研究は「すばる望遠鏡の高分散分光によるウルトラ・ホットジュピター大気中の新分子検出と温度逆転層の発見」です。
Nugroho氏は、中心星の近くを周回するホットジュピター(木星型系外惑星)と呼ばれる太陽系外惑星のなかでも、特に中心星との距離が近く極端に高温環境にあるウルトラ・ホットジュピターを観測し、惑星の大気特性の詳細な理解を目指しました。観測にはすばる望遠鏡に搭載した高分散分光装置HDSおよびIRDを用い、また独自の解析手法を考案して、ウルトラ・ホットジュピターの大気から未発見の分子を検出するなど、惑星大気についての新たな知見を見出しました。Nugroho氏は、この分野の研究の発展を大いに牽引しています。
このほかに表彰された論文や研究についても、アルマ望遠鏡や天文学専用スーパーコンピュータ「アテルイⅡ」といった国立天文台が提供する共同利用設備が貢献しています。