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宇宙古代都市の建設ラッシュを止めるブラックホール

すばる望遠鏡が発見した宇宙初期の巨大銀河の群れを、ジェイムズ・ウェッブ宇宙望遠鏡(JWST)を用いて観測することで、超巨大ブラックホールの活動とともに銀河が一斉に成長を終える様子を捉えることに成功しました。宇宙の言わば都市部にあたる銀河団の歴史を解き明かす上で重要な研究成果です。
宇宙にはさまざまな色や形の銀河が存在しています。その中でも、巨大楕円銀河は、銀河が密集する大都市にあたる「銀河団」を支配しているにもかかわらず、現在は星を作り出しておらず、古い星で構成されています。しかし、星の材料となるガスは重力によって絶えず銀河に集まってくるため、実際は「銀河が星を作らない」という状況は簡単には起こりません。理論的には、銀河の中心部にある超巨大ブラックホールの持続的な活動によって、100億年以上前に銀河へのガスの供給が途絶えたというシナリオが支持されています。このことを検証するためには、100億年以上前の銀河団、つまり宇宙の「古代都市」にあたる「原始銀河団」を観測する必要があります。
国立天文台や早稲田大学の研究者から成る研究チームは、すばる望遠鏡を用いて100億光年以上かなたにある複数の原始銀河団を観測しました。そしてそこでは、猛烈な勢いで星形成が進む成長中の巨大銀河や、楕円銀河に移り変わろうとする巨大銀河が集まっていること、半数近くの巨大銀河では超巨大ブラックホールの活動があることを、明らかにしてきました。今回、研究チームは、JWSTを用いてそのうち一つの原始銀河団を観測し、巨大銀河での星形成活動と、銀河の中心にある超巨大ブラックホールを分離して調べることに初めて成功しました。星形成やブラックホールの活動度を示す高解像度の画像を詳しく解析したところ、活動的な超巨大ブラックホールがある銀河では、星形成に起因する光が出ていないことが分かりました。これは、超巨大ブラックホールが活動する銀河では星形成が著しく妨げられていることを意味します。現在の銀河団に存在する巨大楕円銀河を作った要因は、過去の超巨大ブラックホールの活動によるものだったという理論予測を、強く裏付ける結果です。
本研究をリードする早稲田大学の嶋川里澄(しまかわ りずむ)准教授は、「観測した銀河団は、我々研究チームがすばる望遠鏡などを使って10年以上かけて調査してきた研究対象です。今回JWSTで得られた最新のデータによって、これまで積み上げてきた銀河形成の理解や予測に対する『答え合わせ』ができるようになってきました。今後も引き続き解析を進め、残りの問題をひも解いていきたいと思います」と語ります。