自然科学研究機構 国立天文台

2023年を迎えて—国立天文台長 常田佐久

トピックス

国立天文台長 常田佐久

あけましておめでとうございます。

2022年は、前年に引き続き、新型コロナウイルス感染症による影響の大きな年でしたが、「Withコロナ」の動きの中で、在宅勤務と職場での勤務を組み合わせ、研究会などの対面およびハイブリッド開催も増え、来台者も増加しました。また、水際対策緩和後は待ちかねたように、外国からの来訪者および視察が一気に増え、国立天文台への関心の高さがうかがえました。

天文学の世界におけるニュースとしては、米国航空宇宙局(NASA)と欧州宇宙機関(ESA)等が2021年に打ち上げたジェイムズ・ウェッブ宇宙望遠鏡(JWST)が科学観測を開始したことが挙げられます。さっそく135億年前に存在した銀河候補天体を発見するなど、JWSTからは驚くべきペースで成果が届いています。JWSTで実施予定の観測には、国立天文台が運用するすばる望遠鏡やアルマ望遠鏡の成果を下敷きにしたものがいくつも含まれており、これらをリードする若手研究者が羽ばたきつつあります。
2022年5月には、世界8カ所の望遠鏡をつないでブラックホールの影の撮影を目指す国際プロジェクト「イベント・ホライズン・テレスコープ(EHT)」から、天の川銀河の中心にある超巨大ブラックホール「いて座A*(エースター)」の画像の発表がありました。この観測では、アルマ望遠鏡が重要な役割を果たしました。また、若手を含む日本の研究者が、今までない高い周波数で世界のアンテナ群をつなぐこの事業に参加・貢献をしたパイオニア精神を、高く評価したいと思います。
再び月に人類を送り込むアルテミス計画の最初のミッションが行われたことも、2022年のハイライトと言えるでしょう。我国を含む国際協力で進められる月面基地開発の先には、月からの天文学観測という未来が現実に広がっています。もはや天文学は一国だけで推進できる学問ではありません。この不安定な時代にこそ、国際協力をさらに前進させることで、多くの宇宙の謎が明らかになっていくことを期待しています。

これには、観測環境の保護も欠かせません。2022年10月には、東京都で初めての開催となる第34回「星空の街・あおぞらの街」全国大会が、東京都三鷹市で開催されました。この大会は、大気環境の保全に対する意識を高めること、郷土の環境を活かした地域おこしの推進に役立てることを目的に、毎年各地で開催されているものです。三鷹市とは「天文台のあるまち」として協力関係を深めており、国立天文台長としてご挨拶をすると共に、三鷹キャンパスで開催されている定例の天体観望会の報告が行いました。また大会にご臨席をいただきました高円宮妃殿下は、三鷹市星と森と絵本の家をご視察になったほか、50センチ公開望遠鏡に取り付けた高感度カメラで天体の観賞を楽しまれ、シャルル・メシエによる彗星(すいせい)探索についてご質問されるなど、天文への高いご関心を示されました。

観測開始から24年を迎えたすばる望遠鏡は、2022年4月から「すばる2」として新たな段階に入りました。世界に冠たる広視野観測能力をさらに高め、ダークエネルギー、宇宙の構造形成、マルチメッセンジャー天文学、太陽系外惑星の探索を4本の研究の柱として追求し、宇宙の進化に関する人類共通の根源的な謎に迫ります。「すばる2」で重要な役割を果たす新しい観測装置の一つが、超広視野多天体分光器(PFS)であり、2022年9月に行われた試験観測で初めてスペクトルを取得することに成功するなど、着実に開発が進んでいます。また、超広視野主焦点カメラ(HSC)の戦略枠プログラムの観測からも、続々と成果が出てきています。すばる2が引き続き世界の天文学をけん引していくことを期待します。

アルマ望遠鏡も、成果を挙げ続けています。2014年にアルマ望遠鏡によって取得された、若い星「おうし座HL」の周囲の原始惑星系円盤の画像は、分野の研究者に大きな衝撃を与えました。2022年にはこの論文の引用数が1000を超え、惑星形成に関する私たちの理解を前進させる大きなブレークスルーをもたらしたことを改めて認識する機会となりました。
こうした素晴らしい成果を生み出してきたアルマ望遠鏡の解像度と感度を、さらに高め受信周波数帯域を拡大する「アルマ2」計画が、いよいよ2023年からスタートします。先端技術センターで進めてきた広帯域受信機の開発から、チリ現地での望遠鏡運用、東アジア地区でのユーザー支援に至る“end-to-end”の取り組みにより、日本と世界の天文学の進展をしっかりと支える所存です。

科学研究部は、これらの望遠鏡群を用いて、多波長観測と理論研究を有機的に結び付け多様な研究成果を挙げました。2022年は理論・シミュレーションとの連携が本格化する年でしたが、2023年はこれらの研究が発展してさらに大きな成果が挙げられると期待しています。

TMT計画は、2019年にハワイ現地における反対運動により工事が中断しましたが、TMT国際天文台(TIO)のプロジェクトマネージャがハワイ島ヒロに移り、臼田TMTプロジェクト長をはじめ国立天文台職員と共に、TMTに批判的な地元の方々を含む300人を超える方々との直接対話に取り組んでいます。地元住民のニーズに沿った学校での学習支援等にも取り組み、先住民を含めて地元の方々との信頼関係の醸成に務めています。
またハワイ州では、先住民も参加する新たなマウナケア管理組織が設立され、TMT問題をより大きなマウナケアの管理と先住民文化との融和の問題に昇華して扱うハワイ州政府による新しい方向性が確立しつつあります。
TMTを含む米国超大型望遠鏡(US-ELT)プログラムへの米国連邦予算投入に向けたプロセスも順調に進んでおり、2022年7月には米国国立科学財団(NSF)による建設サイトでの環境影響評価および国家歴史遺産保存法106条のプロセスが開始され、8月にはハワイ島で公聴会が成功裏に開催されました。
また、建設プロジェクトの長期予算をNSFが確保するために重要な基本設計審査(PDR)が、同年11月から開始され、1回目の審査会で、TMTは最終設計段階に進むのに十分な段階にあるという高い評価を得ました。この結果は、ハワイやカリフォルニア、三鷹の国立天文台職員による多大な貢献に加え、国内メーカーの非常に高い技術力が重要な要因となっています。
TIOのガバナンスの改善にも取り組んでいます。TIO評議員会副議長に私が着任し、評議員会における重要案件の議論をリードしている他、TIO科学諮問委員長に東北大学の秋山正幸教授が着任しました。また、臼田TMTプロジェクト長をはじめとする国立天文台職員とTIOマネジメントとの緊密な連携により、TIOの運営にも日本がリーダーシップを発揮しています。
総じて、2022年は計画の見通しが明確になってきた年でした。2023年は、着実に計画を進め、現地での工事再開と日本での望遠鏡の本格的な製造につなげていく大事な年となります。

打ち上げから16年を経た太陽観測衛星「ひので」は、極大期に向かって活動度を高めている太陽の観測を続けています。また、ひのでが挑んできた高温の太陽コロナや太陽フレアの謎をさらに追及していくのが、次期太陽観測衛星SOLAR-Cです。JAXAでは、2022年にミッション定義審査・プロジェクト準備審査を完了し、SOLAR-Cプリプロジェクトチームが発足しました。2020年代後半の打ち上げを目指して、国立天文台はその主要な観測装置の開発に向けた歩みを着実に進めていくことになります。
同じく飛翔体を使った研究として、赤外線による超高精度位置天文観測で、天の川銀河の構造と歴史を明らかにすると共に太陽系外惑星の探索を行うJASMINEプロジェクトが活動を続けています。国立天文台天文シミュレーションプロジェクトが運用する天文学専用スーパーコンピュータ「アテルイII」を使って、天の川銀河に含まれる恒星とガスの進化を追いかけることで、天の川銀河における星形成活動の変化や構造進化を描き出し、JASMINEで観測されうる特徴を明らかにすることも行われました。JASMINEが挑む多様な天文学的課題に対し、着実な準備が進んでいます。
このようにJAXAの科学ミッションの主要部分を担当し力をつけることで、2030年代には若い人たちが、NASAやESAの次世代天文学ミッションに主要パートナーとして、加わっていくことを期待しています。

さらに、新機軸ともいえる試みも、成果を挙げています。国立天文台から情報・システム研究機構 統計数理研究所に出向している2名の若手研究者は、すばる望遠鏡HSCで撮影された膨大な数の銀河や、ESAのGaia(ガイア)が取得した膨大な数の星のデータをもとに、AIの一つである深層学習や先進的な統計解析の手法を駆使して、宇宙と天の川銀河の歴史を解き明かす研究に挑んでいます。AIの研究や応用が科学以外にも大きく広がっている現代において、観測装置やスーパーコンピュータが生み出すビッグデータを解釈するうえで、AIや統計解析は欠かせない手法になりつつあります。AIの応用で、現代天文学にも大きな可能性が開けることを期待しています。

2022年に40周年を迎えた野辺山宇宙電波観測所は、2022年度から観測時間の有料化という新しい運用が始まりました。特に、新旗艦装置の7ビーム3帯域両偏波受信機の開発は順調に進み、この秋に最初の電波地図作成に成功しました。今後の成果が期待されます。
水沢VLBI観測所では岩手日報社の支援を受け、天文学分野の解説記事などを執筆しつつ、観測所で研究を進める研究者が着任しました。春にはクラウドファンディングを実施し、その支援をもとに研究者を雇用することを決めました。水沢では、このような多様な財源を活用して研究力の強化を図っています。また、日韓VLBI観測網の観測データをもとに、楕円銀河M87の超巨大ブラックホールから噴出するジェットの速度分布を説明する新しいシナリオを提唱するなどの科学成果も挙げています。
ハワイ観測所岡山分室が共同利用を担当する「せいめい望遠鏡」では第2の装置として多色高速カメラが稼働を始め、高速移動・回転する地球接近小惑星を発見の数時間後から観測してそれらの起源にせまるなど、他施設ではできない研究が花開きつつあります。本年は太陽系外惑星探査用の高分散分光器の稼働開始を予定しています。1960年に稼働を開始した188cm反射望遠鏡は、昨年9月にドームスリットの故障が発生し現在運用停止となっていますが、継続的な観測による太陽系外惑星の発見等、現在でも研究の第一線で利用され続けているうえ、地元浅口市による観望会の継続的開催など地域にも貢献する重要な望遠鏡であり、できる限り早急に、復旧への道筋を開きたいと考えています。
石垣島天文台も、口径105センチメートルの「むりかぶし望遠鏡」による観測研究と共に、地域と連携した教育普及活動が展開されるユニークな施設です。2022年度からサービスの充実と安全安心の向上を目的として、施設公開の有料化を始めています。望遠鏡の運用は6月の落雷被害により停止していますが、復旧作業が進められています。今後の光・赤外線天文学大学間連携(OISTER)での一層の活躍や、光害軽減対策に向けた、米国SpaceX社のStarlink衛星に関する研究に期待しています。

先端技術センターでは、アルマ超電導ミキサ開発のスピンオフとして、量子計算機用超低消費電力増幅器が、科学技術振興機構(JST)のムーンショット型研究開発事業の概念実証実験を経て、本格化しています。また、金属3Dプリンタを使って、台湾の中央研究院天文及天文物理研究所が中心となって開発してきたアルマバンド1受信機に使用するコルゲートホーンの量産に成功しました。大型観測施設での、初めての金属3Dプリンタで製作した部品の採用と思います。3Dプリンタは、今までの機械加工では実現できない斬新な観測装置をもたらす可能性があり、大いに期待しています。

東京大学宇宙線研究所、国立天文台、高エネルギー加速器研究機構の3機関連携のもとで推進している大型低温重力波望遠鏡KAGRAは、2023年に開始予定の第4期重力波国際共同観測(O4)へ向けて調整を進めています。すでにファブリペローマイケルソン干渉計での運転に成功し、低周波では前回の観測感度を上回っています。O4での重力波初観測に期待が膨らみます。また、TAMA300で実施している、周波数依存スクィージングや高性能サファイア鏡開発も順調に進んでおり、さらにはヨーロッパの第3世代重力波望遠鏡計画「Einstein Telescope」への協力をはじめ、国立天文台はこれからも重力波天文学の発展に貢献していきたいと考えています。
月やその他の衛星、小惑星などの固体天体を研究対象とするRISE月惑星探査プロジェクトが参加している、ESAの木星氷衛星探査機JUICEの打ち上げが、いよいよ今年に迫ってきました。木星の衛星ガニメデの地形を測り、精密な立体地図を作るガニメデレーザー高度計の観測データから、ガニメデの素顔と経歴が明らかになることを楽しみにしています。

昨年は国際協調や国際協力の重要性を改めて感じた一年でしたが、天文情報センターに設置された国際天文学連合 国際普及室(IAU OAO)も10周年を迎え、スタッフを2名から3名へと増員し、世界各国を巻き込んで、“Astronomy for all”をスローガンに、天文学の普及と国際連携を日本発信で進めています。このほか、国際連携室では、来訪する外国人に有用な情報をまとめたウェブサイトの充実に努めるほか、東アジア天文台(EAO)については代表者を関口台長特別補佐に交代し、今後も東アジアの各地域と協力していきます。

先進的な研究だけでなく、国立天文台が所蔵する歴史的資料も高い評価を受けました。江戸時代の幕府天文方と天文観測装置開発者の間で交わされた書状などをまとめた『星学手簡(せいがくしゅかん)』が、国の重要文化財に指定されることになりました。江戸時代後期の天体観測や暦の研究の実情を伝える資料としての価値が認められたものです。
このように、長い年月を経た後に価値が認められる事例は数多く存在します。現代の天文学観測で生み出される膨大なデータは、国立天文台では天文データセンターが中心になって保管・活用を行っています。データ量は増大の一途であり、また単に保管するだけでなく使いやすい形で公開することには、大変な苦労が伴います。様々な工夫によってその対応に当たっている皆さんに敬意を表すると共に、はるか未来も含めた人類の資産としての天文データの価値を改めて認識しています。

さて、2022年度は、新しい執行部が発足しました。齋藤副台長、鵜澤技術主幹に加えて、ハワイ滞在の経験を持った吉田副台長、大学に長くいた本原研究連携主幹など新しい風が入り、事務部の方々とともに、新たな気持ちで活動しています。12月には、「NAOJ Future Planning Symposium 2022(2022年度 国立天文台の将来シンポジウム)」が盛況のうちに開催され、具体的な将来計画の紹介や、日本の天文学コミュニティの総意を持って次の計画を策定するためにはどのような方法を取るべきかといった議論が、活発に行われました。世界的な情勢不安もあって将来を見通すことが簡単ではない現在ですが、職員の皆さん、コミュニティの皆さんと共に、天文学の発展を通じて社会に貢献できるよう今年も力を尽くしたいと思います。

2023年1月5日
国立天文台長 常田佐久