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国立天文台創立30周年記念式典 台長式辞

2018年7月1日、国立天文台は創立から30周年を迎えました。7月5日に「国立天文台創立30周年記念式典」を一橋講堂(東京都千代田区)にて開催し、およそ200名の方々にご臨席いただきました。式典冒頭で常田佐久 国立天文台長が述べた式辞を掲載します。
常田佐久 国立天文台長 式辞
国立天文台は、昭和63年(1988年)に東京大学東京天文台と緯度観測所、名古屋大学空電研究所の一部が合併し、大学共同利用機関として発足しました。平成16年(2004年)には、他の4つの大学共同利用機関と統合し、以来、自然科学研究機構の一員として活動しています。国立天文台はその発足以来、大きく発展し、世界の天文学を牽引する成果を挙げてきました。同時に、国立天文台は、日本の近代化と歩みを共にする長い伝統を持つ組織であります。このことは、三鷹キャンパスを散策していただくと目につく、美しく保存されている数々の登録有形文化財からも、感じ取っていただくことができます。本年は、明治11年(1878年)発足の東京天文台の前身の観象台から数えて140年目、緯度観測所発足以来119年目に当たります。
10年前に行われた「20周年記念式典」からの、国立天文台の歩みを振り返ってみたいと思います。まず、国立天文台が世界の21の国と地域と、遠くチリの地に建設したアルマ望遠鏡が運用を開始しました。アルマはすでに6年半の観測で千件を超える査読論文を生み出しており、今後も大きな成果が期待されます。国際協力で成功裡に建設と運用が行われているアルマ望遠鏡において、国立天文台は不可欠のパートナーとして国際的に認知されており、日本の科学の発展にとっても大きなマイルストーンとなりました。
平成12年(2000年)に共同利用を開始したすばる望遠鏡も、これまで多くの実績を積み重ねてきました。最近では、東京大学カブリIPMU、プリンストン大学、台湾中央研究院との連携により開発した超広視野主焦点カメラHSCによって、ダークマターの広域三次元分布を世界で初めて明らかにするなど、大きな成果を挙げています。さらに、IPMUが中心となり国際協力で開発中の超広視野多天体分光器PFSが2021年に稼働開始予定で、同装置への国際的期待は非常に高いものがあります。このように、すばる望遠鏡は、他の大望遠鏡の追随を許さない唯一の超広視野望遠鏡として、今後とも、大きな成果を挙げることが約束されています。
この他にも、東京大学宇宙線研究所との協力による重力波望遠鏡「かぐら」の建設が進んでおり、観測開始後は、国立天文台はマルチメッセンジャー天文学の拠点としての役割が期待されています。水沢キャンパスでは、天文学専用としては世界最速の3Pflops(ペタフロップス)の性能をもつスーパーコンピューター「アテルイⅡ」の共同利用が開始されました。今日の天文学では、理論・数値シミュレーションと最先端の観測成果の連携により、宇宙の総合的な理解を図ることが国際的な潮流となっており、「アテルイⅡ」を活用した観測と理論・数値シミュレーションの相乗効果が期待されます。
また、宇宙科学研究所・米航空宇宙局等と協力して実施した太陽観測衛星「ひので」、月周回衛星「かぐや」、電波天文観測衛星「はるか」、観測ロケット実験CLASPでは大きな成果を挙げており、国立天文台の科学的・技術的資産を活用したスペースへの取り組みを今後とも継続発展させていく所存です。
このように、国立天文台は、世界最高レベルの観測・数値シミュレーションのための装置を有する、文字通り国際研究機関となっています。すばる望遠鏡からアルマへと発展するなかで、宇宙初期の銀河や、系外惑星の形成の現場である原始惑星系円盤の驚くべき画像がもたらされ、今後、ダークマターの解明や惑星形成についての確固とした描像と、系外惑星における生物の存在環境についての大きな知見が得られるのではないかと期待されています。これもひとえに、国立天文台発足以降、旧文部省・文部科学省、国内外の大学・研究機関の諸先生方、外国政府、ハワイを含む地元の皆様、歴代台長をはじめとした諸先輩の努力とご支援の賜物であります。
これらの装置の建設と運用、成果創出に当たっては、全国の国公私立大学および研究機関の研究者と協力し、共同利用・共同研究を活発に実施し、海外の研究者にも大きく門戸を開いてきました。また、国立天文台は、総合研究大学院大学天文科学専攻の基盤機関として、東京大学等との連携も含めて、諸大学の大学院生を受け入れ、先端研究分野で幅広い研究指導を行っています。
今や、遠隔の大学に居ても、大型観測措置を駆使した研究で顕著な学術成果を挙げ、また、大型望遠鏡装置に取り付ける最先端の観測装置を外部資金により大学等が中心となって開発することが可能となっています。これらの研究・開発には多くの大学院生が参加し、次世代の研究者養成の拠点となっています。このように、外部資金による大型観測装置の持続的発展、大学の新たな位置づけと活性化といった多角的な面で、国立天文台の共同利用は、わが国の大学共同利用制度全体に、新たな発展と刺激をもたらしつつあると言えます。
現在、国立天文台は、国際協力事業としてハワイ・マウナケアに30m光学赤外線望遠鏡(TMT)の建設運用を目指しており、その建設開始は、わが国のみならず世界の天文学の最重要課題となっています。計画の遅延により各方面にご心配をおかけしていますが、その成功にはなによりも、ハワイの歴史と文化への理解と共鳴、地元の課題の解決への具体的かつ永続的協力が重要と認識しております。ハワイ観測所では、このための活動を地道に継続しており、ハワイ州地元関係者、米国連邦政府・州政府機関・議会関係者と密接に協力し、国立天文台一丸となってハワイの地でTMTの早期建設を行う決意です。
このような活動と並行して、これまでの国立天文台の科学的・技術的資産を活用して、軌道望遠鏡も含めた多様な将来計画を、我々の「イノベーション」の拠点である先端技術センターを中心に検討していきます。今後の大型計画は国際協力抜きにしては語れません。すでに確立している欧米との協力に加えて急速に発展する東アジア諸国のポテンシアルを見据え、国立天文台を中心に中国・韓国・台湾の各天文台と連携して発足した「東アジア天文台」の持続的発展に努力していきます。
また、野辺山太陽電波観測所ヘリオグラフおよび岡山天体物理観測所188㎝望遠鏡の大学への実質的な移管による持続的発展の方向性を、今後、他施設についても検討し、予算と人員の適正化を図り、大型観測装置の建設運用に確実を期していく所存です。さらに、国立天文台の技術的資産を背景に、産業振興などの日本国が抱える課題の解決や国の事業へ貢献していく姿勢も求められていると認識しています。
2020年代の天文学は、「太陽系外惑星や地球外生物の探査」、「ダークエネルギー・ダークマターの研究」において、大きな進展が期待されています。天文学は基礎物理学や生命科学といった分野へそのすそ野を大きく広げつつあり、その学際性・総合科学としての地位は際立ってきています。天文学と関連分野の研究が、爆発的に進展する状況で、国立天文台は引き続き世界のリーダーの一つとして主要な役割を果たしていく所存です。
国立天文台の3つのミッション、「知の地平線を拡げるため、大型天文研究施設を開発・建設し、共同利用に供する」、「多様な大型施設を活用し、世界の先端研究機関として天文学の発展に寄与する」、「天文に関する成果・情報提供を通じて、社会に資する」ことを念頭に頑張っていきますので、どうぞ、今後の国立天文台の活躍にご期待いただき、ご支援をお願いいたします。