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理論研究部の研究者が井上研究奨励賞、井上リサーチアウォードを受賞

国立天文台理論研究部の2名の研究者が、公益財団法人 井上科学振興財団による井上研究奨励賞ならびに井上リサーチアウォードを受賞しました。
第33回(2016年度)井上研究奨励賞を受賞したのは、理論研究部の白崎正人(しらさきまさと)研究員(注1)です。受賞対象となった博士論文の題目は「弱重力レンズ統計を用いた暗黒エネルギーと暗黒物質の観測的検証」です。
暗黒物質と暗黒エネルギーは、宇宙の全エネルギーの96パーセントを占めるとされながらも、その性質についてはほとんど解明されていません。その性質を調べる手段の一つに重力レンズ効果を利用した遠方銀河の観測があります。白崎氏は、この観測結果の解析方法について異なる2つの手法を調査し、それらの有用性と応用の可能性を博士論文にまとめました。
井上研究奨励賞は過去3年の間に、理学、医学、薬学、工学、農学等の分野で優れた博士論文を提出した若手研究者に対して与えられます。
理論研究部の田中雅臣(たなかまさおみ)助教(注2)は、第9回(2017年度)井上リサーチアウォードを受賞しました。受賞対象となった研究の題目は「重力波源の電磁波対応天体の同定と元素の起源の解明」です。
ブラックホール合体に起因する重力波の初の直接検出以降、宇宙を探る新たな手段として重力波天文学が脚光を浴びています。中性子星の衝突合体現象もまた、重力波源となり得ますが、この際に放射される電磁波を捉えることで、重力波源の位置が精度よく決まるとともに、重力波源がどのような天体かを明らかにできます。さらに、中性子星合体がもたらす重元素の合成過程を直接観測できると期待されています。
田中氏は、中性子星合体や超新星爆発といった宇宙の爆発現象を主な研究対象としています。シミュレーションで超新星爆発の瞬間の特性を明らかにし、それを確かめるために天空の広域探査観測を行ってきました。さらに中性子星合体で放出される電磁波の特性をシミュレーションで導き、今後期待される重力波源からの電磁波の検出のための重要な指標としています。
折しも、日本とイタリアの重力波望遠鏡の観測開始が近く、また、すばる望遠鏡と超広視野主焦点カメラを用いた広域観測も本格的に始まっていることから、今後は重力波源の電磁波対応天体の同定が期待されます。田中氏の研究は、今後の人類の知見を大きく飛躍させる可能性のある研究として評価されました。
井上リサーチアウォードは、自然科学の基礎的研究で優れた業績を挙げ、さらに開拓的発展を目指す若手研究者の独創性と自立を支援することを目的として授与されます。
この授賞式および贈呈式は、2017年2月3日に都内にて執り行われました。