• 研究成果

謎の「小さく赤い点」の正体に迫る―ガスに包まれたブラックホールの急成長を再現―

アテルイIIIによるシミュレーションで描き出した、ガスに包まれたブラックホールが急成長する姿
アテルイIIIによるシミュレーションで描き出した、ガスに包まれたブラックホールが急成長する姿。温度が高い場所ほど赤く色付けされている。(クレジット: 鄭昇明、武田隆顕、国立天文台4次元デジタル宇宙プロジェクト) 画像(485KB)

生まれて間もない宇宙で「小さく赤い点」として観測される天体の正体の解明に、国立天文台の天文学専用スーパーコンピュータ「アテルイIII」が挑みました。宇宙初期に急成長するブラックホールとこの謎の天体の起源を、ひと続きのシナリオで説明することに成功した初めての成果です。

近年、ジェイムズ・ウェッブ宇宙望遠鏡(JWST)の観測によって、宇宙誕生後10億年もたっていない時代に、「リトル・レッド・ドット」(Little Red Dot、以下LRD)と呼ばれる小さく赤い謎の天体が多数発見されました。この天体の正体については多くの議論が交わされていますが、銀河の中心で大量のガスを取り込みながら急速に成長するブラックホールである可能性が有力視されています。しかしこの場合、LRDに含まれる星の質量に比べて極めて重い「過大質量ブラックホール」が存在することになるため、そのブラックホールの起源が大きな謎となっています。

ドイツのマックス・プランク天体物理学研究所の鄭昇明(チョン・スンミョン)研究員を中心とする国際研究チームは、宇宙初期の原始銀河団からブラックホール形成までを追跡する「ズームイン・シミュレーション」を開発しました。この問題を解くには、数億光年規模の宇宙環境から個々のガス雲まで、一貫した計算を行う必要があることから、計算量が膨大になることが従来の大きな課題でした。研究チームは、アテルイIIIを用いることで、ガス雲の収縮から超大質量星の形成、ブラックホールの誕生と成長までを高精度に計算し、ブラックホールの存在を仮定することなくLRDの形成過程を直接追跡することに成功しました。

シミュレーションの結果、原始銀河団では、明るい銀河からの強い紫外線で近くのガス雲の星形成が抑制される一方で、暗黒物質の重力によってガスが大量に集積して、太陽の50万ないし90万倍にも達する超大質量星が形成されることが分かりました。これらの超大質量星は進化の末に、成長前の段階のブラックホールである「種ブラックホール」となります。太陽の約100万倍という重い種ブラックホールは、さらに周囲の高密度ガス円盤から大量のガスを取り込んで、宇宙誕生から約6億年後には太陽の約3000万倍もの質量の「過大質量ブラックホール」にまで急成長しました。

ブラックホールの周囲のガスから放射された光は、さらにそれを包む濃いガスによって吸収・散乱されるために赤く見え、水素の輝線の幅も広がって観測されます。これはLRDの特徴とよく一致しています。本研究は重い種ブラックホールの形成から過大質量ブラックホールへの急成長、さらにLRDとして観測される姿までを、ひと続きの物理過程として初めて説明したのです。

今後は、JWSTで観測されたLRDのうち今回提案された形成シナリオで説明できるものがどれだけあるかを検証するとともに、LRDがクエーサーや超大質量ブラックホールへ進化するかを調べる必要があります。JWSTの観測とアテルイIIIによる高精度シミュレーションを組み合わせることで、宇宙初期の「小さく赤い点」と現在の銀河中心に存在する超大質量ブラックホールとを結ぶ、宇宙の進化の歴史の解明が期待されます。

宇宙の大規模構造の形成からガスに包まれたブラックホールへの進化までの過程を、段階的に行ったシミュレーションの可視化映像。アテルイIIIを用いて計算した。(クレジット:鄭昇明、武田隆顕、国立天文台4次元デジタル宇宙プロジェクト)
各シーンの詳細な説明はYouTube を参照

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