• 研究成果

天文学的要因が左右する更新世前期の地球の気候と氷床量変動

天文学的な要因によって地球の運動が変化し、それによって氷床を含む地球の気候が影響を受ける様子の概念図
天文学的な要因によって地球の運動が変化し、それによって氷床を含む地球の気候が影響を受ける様子の概念図。(クレジット:国立天文台) 画像(572KB)

今から約160万年前から120万年前の地球の気候変動の要因は、やはり宇宙にあったようです。最新のコンピュータ・シミュレーションによって、その詳細なメカニズムが分かってきました。

地球の公転軌道や自転軸の傾きは、太陽や月、他の惑星などの重力の影響を受け、長い時間をかけて徐々に変化します。このような天文学的な要因が引き起こす地球の運動の変化は、季節や太陽光が当たる場所の変化をもたらし、地球の気候変動へとつながります。特に、地表を覆う氷の塊「氷床」の大きさは、降り注ぐ太陽光の増減に敏感で、地表の多くが氷床で覆われる時期「氷期」と氷床が少なくなる時期「間氷期」が繰り返されます。

現代において、氷期・間氷期が繰り返される周期は約10万年で、この期間が天文学的な要因によって引き起こされていることがほぼ実証されています。ところが、約80万年よりも前の時代である更新世前期での周期は短く、約4万年だったことが地質的な記録から示されています。この周期の違いは他の天体の重力により地球の運動が微妙に変化したためと予想されていたものの、その詳細なメカニズムが理解されていなかったことから、この説は必ずしも受け入れられていませんでした。しかし近年になって、地質的記録のデータの精度の向上や、理論研究の発展によって、地球の運動の変化が気候変動に果たす役割をより詳しく調べることが可能になったのです。

東京大学大気海洋研究所の渡辺泰士(わたなべ やすと)特任研究員(研究当時、現在は気象庁気象研究所 リサーチアソシエイト)らの研究チームは、現代との違いが特に顕著な、約160万年前から120万年前の氷期・間氷期の周期に着目しました。そして、改良されたプログラムを用いた大規模なコンピュータ・シミュレーションを行いました。このシミュレーションには最新の天体力学の理論が導入されています。結果は、地質的記録のデータが示す約4万年の氷期・間氷期の周期をよく再現するものになりました。

このシミュレーションの結果を詳細に分析することで、研究チームは地球の運動の変化がどのように更新世前期の気候変動をもたらすのか、そのメカニズムについて、次の3つの事柄を明らかにしました。(1)氷期・間氷期の周期は、地球の自転軸の方向と公転軌道の変化の振幅のわずかな違いによって決まる。(2)氷期が終わるタイミングは、地球の自転軸の周期的な傾きの変化だけではなく、主に公転軌道上の夏至の位置(近日点)によって決まる。(3)地球の自転軸の方向と夏至の位置の変化のタイミングに依存して、間氷期の長さが変わる。

研究チームの一人で、天文学的な要因に関する議論をリードした国立天文台の伊藤孝士(いとう たかし)講師は、「氷期の繰り返しに関する天文学的な要因の役割が明らかになることで、更新世という比較的近い過去だけではなく、さらに遠い過去や未来の地球、そして似たような環境を持つ他の惑星の気候の理解も進むことでしょう」と研究の意義を述べています。

本研究成果はY. Watanabe et al. “Astronomical forcing shaped the timing of early Pleistocene glacial cycles”として、英国の地球惑星科学雑誌『コミュニケーションズ・アース・アンド・エンバイロンメント』に2023年5月15日付で掲載されました。

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