- 研究成果
VERAプロジェクト20年の成果がまとまる — 国立天文台水沢120年の歴史が達成した位置天文学の高精度化 —

VERAプロジェクトは、国内4局の電波望遠鏡の観測データを組み合わせて得られた高解像度の観測から、天体までの距離や天体の運動を精密に計測する「位置天文観測」を推進しています。VERAで得られたデータを用いて、天の川銀河の3次元立体構造のほか、星の形成や進化、銀河中心の超巨大ブラックホールやそこから噴き出す超高速ジェットといった、さまざまな研究が進められています。
国立天文台水沢VLBI観測所と鹿児島大学の研究者を中心とする研究チームは、VERAを用いた20年間の観測の成果を10本の論文にまとめ、2020年8月出版の『日本天文学会欧文研究報告』VERA特集号として発表しました。これまでの観測で得られた99天体の測量データが公開され、天の川銀河の渦巻構造がはっきりと捉えられるようになりました。また、VERAで観測したデータと他のグループによる観測データとを組み合わせて、天の川銀河の基本的な尺度をより高い精度で決定しました。その結果、太陽系から天の川銀河の中心までの距離(銀河中心距離)は2万5800光年、太陽系の位置における銀河回転速度は秒速227キロメートルと測定できました。
この銀河中心距離は、1985年の国際天文学連合による勧告値(約2万7700光年)より小さな値になっています。一方、天の川銀河の中心にある超巨大ブラックホール「いて座A∗」を公転する天体の軌道から推定された銀河中心距離が2019年に発表されており、その値(2万5800-2万6600光年)とよく一致しています。
VERAプロジェクトは、現在「いて座A∗」までの距離の直接測定に挑戦しており、今後、天の川銀河の中心のブラックホール研究の進展への寄与が期待されます。さらに、人工衛星による位置天文観測とも協力して、天文学上重要な天体を中心に、さらに高い精度の位置天文観測を推進していきます。また、東アジアVLBIネットワーク(East Asian VLBI Network、EAVN)などへの拡張も見据え、さまざまな天体や研究テーマを対象とした新たな観測計画への発展を目指します。
今回の研究成果は、『日本天文学会欧文研究報告(Publications of Astronomical Society of Japan)』のVERA特集号“Astrometry Catalog and Recent Results from VERA”(VERAによる位置天文学カタログと最新の成果)として2020年8月に出版されました。