• 研究成果

重力波天体が放つ光を初観測:日本の望遠鏡群が捉えた重元素の誕生の現場 ―重力波を追いかけた天文学者たちは宝物を見つけた―

GW 170817の可視光赤外線対応天体
GW 170817の可視光赤外線対応天体。疑似3色合成画像は、すばる望遠鏡(zバンドを青)とIRSF(Hバンドを緑、Ksバンドを赤)のデータを用いて作られた。 画像(35KB)

重力波天体を追跡した天文学者たちは、キロノバを世界で初めて観測的に発見しました。太陽の1億倍も明るくて、地球の全質量の何千倍もの量の重元素や貴金属を作り出す、原子核反応のかまどです。

2017年8月17日、重力波を観測するLIGO-Virgo共同実験から、全世界の90を超える天文学研究チームに警報が送られました。重力波検出器が、重力波天体GW 170817からの信号を受信したのです。その信号は、2つの中性子星からなる連星が、らせん軌道を描いて合体したときに発せられたと考えられるものでした。国立天文台およびCNRS/LAPPに所属し、VirgoおよびKAGRA共同実験に携わるラファエレ・フラミニオさんは、「アメリカのLIGO検出器とヨーロッパのVirgo検出器のデータを組み合わせ、これまでで最も精度良く重力波天体の位置を知ることができました」と語ります。

日本の重力波追跡観測チームJ-GEM(Japanese collaboration of Gravitational wave Electro-Magnetic follow-up)は、重力波天体からの可視光を捉えるプロジェクトです。可視光観測は、重力波観測とは違う情報を私たちに教えてくれます。実際、「マルチメッセンジャー天文学」、つまりひとつの現象を重力波と普通の光とで観測することが、その現象を完全に描き出すのに必要なのです。

中性子星の合体は、可視光や赤外線でとても明るく輝くと期待されます。J-GEMはすぐさま観測を開始しました。ハワイのすばる望遠鏡、名古屋大学と鹿児島大学が運用する南アフリカの口径1.4mのIRSF望遠鏡をはじめ、世界中に分散する望遠鏡のネットワークを駆使して、うみへび座の方向1億3000万光年のかなたにある天体を観測し、その性質を見極めようとしました。観測が続くにつれ天体は日に日に変化し、天文学者たちはキロノバを初めて観測したことを確信したのです。

天文学者たちは長い間、速い中性子捕獲(rプロセス)で生成される重元素が宇宙のどこで作り出されるのか、探してきました。キロノバがそのひとつの候補で、理論的にはレアアースや貴金属が地球の質量の1万倍も生成されると予測されていました。

天体の色と明るさの時間変化は、超新星よりずっと速く、いっぽうキロノバの理論シミュレーション予測に合致していました。このシミュレーションには、国立天文台のスーパーコンピュータ、アテルイが活躍しました。

「世界中に広がる日本の観測装置が、連日の観測で天体の明るさの急激な変化を捉えるのを見て、とてもわくわくしました」と、J-GEMに参加する研究者の内海洋輔さん(広島大学)は語ります。

GW 170817が起こしたキロノバの想像図
GW 170817が起こしたキロノバの想像図。 オリジナルサイズ(943KB)

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