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太陽をかすめるマップス彗星(C/2026 A1 (MAPS))
2026年4月に、とある彗星(すいせい)が明るくなる可能性があり、その姿を見ることができるかどうか、注目されています。しかしながら、彗星の明るさや見え方を予想することは、不確定要素があってなかなか難しいものです。今回は、その悩ましい状況についてご紹介します。
マップス彗星
C/2026 A1(MAPS)(以下、このページでは「マップス彗星」と表記)は、2026年1月13日にチリのアマチュア天文家たちが運営するMAPSサーベイによって発見された新彗星です。その後の観測によって軌道が確定し、この彗星が、太陽に非常に近づく彗星の一グループ、「クロイツ群」に属していることが判明しました。クロイツ群は、過去に大彗星が太陽に接近したときに分裂し、その破片が再び太陽に接近してきた彗星群だと考えられています。その特徴の一つは太陽との接近距離です。マップス彗星は、2026年4月4日23時頃(日本時)に太陽と最接近しますが(近日点通過)、その時の太陽中心との距離(近日点距離)は85万8千キロメートル(0.00573 au (注1))です。太陽の半径を差し引くと、太陽表面からの距離はわずかに16万2千キロメートルとなります。これは、地球から月までの距離の半分以下に相当します。まさに太陽をかすめる彗星なのです。
クロイツ群について
現代において、クロイツ群の彗星の多くは、太陽観測宇宙機のSOHOの観測画像(注2)から発見されています。多くの場合、太陽に突入してしまうか、または太陽をかすめるように通過する軌道でも、太陽に最接近した際に受ける強烈な熱により、完全に蒸発し、消滅してしまいます。その一方で、地上から発見されるような比較的明るい(大きな)彗星では、太陽に接近した後も生き残り、非常に明るくなるとともに長い尾を伸ばして、いわゆる大彗星として見られる場合があります。20世紀では、1965年に発見・観測された池谷・関彗星(C/1965 S1 (Ikeya-Seki) (注3))が有名で、また19世紀では1882年の大彗星と呼ばれたC/1882 R1(注4)が、このクロイツ群に属していると推定されています。
マップス彗星は、池谷・関彗星と比較するとかなり暗く観測されており、その大きさは同彗星より小さいと推定されます。一方で、2011年に、長い尾を伸ばし、南半球で観測されたラブジョイ彗星(C/2011 W3 (Lovejoy) (注5)。)よりは明るく、太陽最接近後にも生き残るのではないか、という期待もあります。残念ながら、明るく観測されたクロイツ群の彗星の例が少なく、この状況を正確に予想することは簡単ではありません。ただし、どのようなことが想定されるかを準備しておくことは重要です。
マップス彗星の状況予想
マップス彗星が近日点を通過するのは、2026年4月4日です。この日までの彗星の様子は、ある程度の状況が予想できます。
3月28日現在、約8等級で観察されている彗星は、急速に太陽に近づいていき、次第に明るくなります。ただし、日の入り直後の超低空でしか見ることができないため、すでに地上からの観察は難しくなっています。その後のマップス彗星は、以下のようなケースが想定されます。
想定1:彗星が完全に消滅するケース
4月4日に太陽に最も接近しますが、この前後において太陽の熱にさらされて、彗星を作る物質が完全に蒸発し、彗星自体が消滅してしまいます。この場合、これ以降は全く彗星の姿が見えなくなります。
太陽観測宇宙機SOHOのLASCO C3画像などでは、消滅していく様子を観察することが可能です。C3画像の写野に彗星が入り込むのは、4月3日です(注2)。
想定2:消滅はしないが、直後に彗星が分裂して崩壊するケース
太陽に最も接近する時には一時的に観測できなくなりますが、彗星本体は生き残り、その直後にガスの放出などが観察されるようになります。この様子は前述のSOHOのLASCO C3画像で見ることができます(注2)。
ただし、彗星本体は徐々に分解・崩壊していきます。この場合、4月10日頃から、夕方日の入り後の西の低い空で淡い塵(ちり)の尾(ダストテイル)だけが観察可能となります。空のとても暗いところでは、かすかに肉眼でも淡い尾が見えるかもしれません。カメラで適切な設定で撮影すると、伸びた尾を写すことができるでしょう。
一方で、彗星の明るさが集中する「コマ」(頭部)が失われるため、街明かりのある郊外や市街地での観察は困難です。
想定3:彗星本体が生き残り、明るい彗星となって見えるケース
太陽に最も接近する際の様子は、想定2と同様です。ただし、その後も彗星本体がしっかりと残り、明るい彗星として観察されます。日本では4月8日頃から、日の入り直後の西の超低空で彗星本体が見え始めます。その後彗星自体は暗くなっていきますが、4月10日頃より後には、立派な尾を伸ばした彗星が日の入り後の西の低空に見えるようになります。空の暗い所ではもちろんのこと、市街地でもかすかに肉眼で見えるかもしれません。また一般的なカメラであれば、伸びた尾を伴う様子を写すことができるでしょう。
現段階では、おもにこのような3つのケースが考えられます。残念ながら、想定3のようなケースになり、肉眼で彗星が見える可能性は低いと考えられますが、実際には、その時が来てみないとわかりません。果たしてどうなるのでしょうか。彗星が観察できそうな場合には、解説ページを設けて速報する予定ですので、ご期待ください。
- (注1) au は天文学で用いられる距離の単位です。1 au は地球・太陽間の平均距離にほぼ等しく、1億4959万7870.7キロメートルです。
- (注2)SOHOのLASCO C3の観測画像には、地上からは観察しづらい太陽方向にある彗星がよく写り、実際に太陽に接近するクロイツ群などの彗星が発見されています。LASCO C3の画像写野内にマップス彗星が現れるのは、4月3日0時頃(日本時、世界時では4月2日15時頃)と予想されます。その後、彗星が生き残った場合には、4月6日15時頃(日本時、世界時では同日6時頃)まで写野に入り続けます。 参照:The Very Latest SOHO Images(英語)
- (注3)池谷・関彗星(C/1965 S1 (Ikeya-Seki))は、1965年9月18日に日本の池谷薫さんと関勉さんによって発見されたクロイツ群の新彗星です。10月21日に近日点を通過した後、10月下旬から11月上旬にかけて、長い尾を伴った大彗星として観察されました。
- (注4) C/1882 R1は、符号以外の彗星名は付いていませんが、1882年9月に非常に明るい大彗星として観察されたクロイツ群の彗星です。Great Comet of 1882(1882年の大彗星)やGreat September Comet(9月の大彗星)などとも呼ばれます。
- (注5)ラブジョイ彗星(C/2011 W3 (Lovejoy))は、2011年11月27日にオーストラリアのラブジョイさんが発見したクロイツ群の新彗星です。発見当初は13等級と暗く、彗星としての規模が小さいとみられたため、太陽接近に伴って消滅すると予想されていました。しかしながら、近日点通過後にも彗星は生き残り、同年12月には淡いながらも長い尾が南半球で観察されました。その後の観測から、彗星本体(彗星核)は太陽の接近後に、遅れて分裂・崩壊したと推測されています。