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講書始の儀
講書始(こうしょはじめ)の儀は、明治天皇が年初に漢書と和書についての講義を専門家から聴く儀式として1869年に始まったそうです。1953年からご進講者は人文科学、社会科学、自然科学からそれぞれ1名という形になり、同年には萩原雄祐・東京天文台長が「最近の宇宙進化説」をご進講になりました。辞表を胸に岡山188cm望遠鏡の建設構想とその意義をお話になったと聴いております。建設に複数年度を要する188cm望遠鏡はそれまでの3年上限を更新した5年国庫債務負担行為の最初の適用例として1960年から建設されました。その後、天文学界からは、林忠四郎「太陽系の起源」(1993年)、小田稔「科学者に残された宇宙の謎と課題」(1998年)、佐藤勝彦「宇宙はどのように始まったのか?―現代物理学が描く創世記―」(2016年)の先生がたがご進講されておられます。この度、令和8年1月9日の講書始の儀でご進講をさせていただく望外の機会がありましたので、ご報告させていただきます。
今回の件は2年前に打診があり、「観測天文学最前線と日本の活躍」と題して天文学界の様子をご進講させていただくことにしました。内容は、(1)ハッブルが人類の認識を銀河系の外まで広げ、宇宙膨張を発見してから約100年の間に発展した現代宇宙観を振り返り、(2)ハワイのすばる望遠鏡の建設を機に銀河宇宙や系外惑星の観測的研究での日本が活躍していることをお話しし、(3)次世代の大型望遠鏡では、生命存在の兆候を示す系外惑星の発見や宇宙の加速膨張の実証観測などが期待されていることなどです。講話の最後には、(4)天文学研究が人類の宇宙観・文明観に与える視点に触れたいと考え、138億年の宇宙史、46億年の地球史、1万年の人類文明史、そしてこの100年の人新世史を振り返り、戦争や環境破壊のリスクを乗り越え安定に持続できる成熟した文明を築くことを我々皆が心することが大切だとする認識を、僭越(せんえつ)ながら述べることにしました。
講書始の儀は、天皇皇后両陛下こそご進講梗概がお手元にありますが、他の皇族方や陪聴者には配布資料は一切なく、厳かな雰囲気の中、ご進講をひたすら集中して聴くという形式です。資料も映像も無い状況で、専門用語も出てくるご進講内容を聴くだけでフォローするのはなかなか大変です。進講者控として陪席した昨年の講書始の儀で最も感銘したのは、天皇皇后両陛下はじめ皇族の方々が居住まいを正し、ご進講者をじっと見据えてご進講をお聴きになっている姿でした。国民の注目を集める儀式ですので、参加される皇族方にとって心理的なご負担も小さくないのではと拝察いたしました。
今年の進講者と題目は(1)佐々木正子・嵯峨美術大学名誉教授「江戸時代の日本絵画」、(2)御厨(みくりや)貴・東京大学名誉教授「オーラルヒストリーとは何か」、(3)私「観測天文学最前線と日本の活躍」でした。天皇皇后両陛下はじめ皇族の方々も、時々頷きながら聴いてくださっている様子がよく分かりました。ご進講梗概は宮内庁ホームページ に掲載され、また講書始の様子はテレビ東京のYouTube などで公開されたので、ご進講後、分かりやすく面白かったとの感想を数多くいただきました。
ご進講終了後、別の間で両陛下とお話しする機会がありました。ここではご進講内容に関する質疑・会話に加えて、天皇陛下が岡山天体物理観測所をご視察された思い出やご自身の反射望遠鏡で天体撮影をされておられることもお話しいただき、天文談義でも会話が盛り上がりました。 今回のご進講が、天文学の意義と魅力を一般の方にも知っていたく契機となればと願っております。