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メールニュースの30年

著者近影小野智子(天文情報センター)

「「国立天文台・天文ニュース」発行初期の原稿
「「国立天文台・天文ニュース」発行初期の原稿(クレジット:国立天文台)

国立天文台が発行するメールニュース(メールマガジン)は、2025年11月25日をもって終了した。「国立天文台・天文ニュース」、「国立天文台 アストロ・トピックス」、「国立天文台 メールニュース」と、形を変えながらも30年にわたって国立天文台や天文学に関する話題を配信してきた。誰でも無料で読めるメールニュースは、改変をしない、悪意をもって使用しないというルールの下、自由に転載・転送もできる便利な情報源として利用されてきた。2025年11月時点での登録メールアドレス数は11,000件を超えていて、多くの方に利用いただいたことが分かる。

このメールニュースの30年を振り返ってみた。

1995年10月-2004年3月:「国立天文台・天文ニュース」(No.1-707)

国立天文台から一般利用者に向けて電子メールでニュースを配信する「メールニュース」の始まりは、1995年10月にさかのぼる。サービスの名称は「国立天文台・天文ニュース」、広報普及室による発行である。前身の天文情報普及室が発行していた「天文情報レター」(1994年3月をもって終了)を再開する形だったようだが、詳細については参照先1、2に譲りたい。

ニュースの作成は、天文情報普及室時代から引き続いて長沢工さん(故人)がおもに担当し、科学誌『Nature』、『Science』、国際天文学連合の回報(IAUC)をはじめ、NASA(米航空宇宙局)やESA(欧州宇宙機構)のニュースリリースからも興味を引く話題を探して日本語のニュースを作り、2週に1度発行していた。毎週火曜日には質問電話対応の席に着き、木曜日は天文ニュース作成のために、図書室に足を運んで調べ物をされていた長沢さんの姿が今でも思い出される。

話題の選定についてはほぼ長沢さんの裁量であったが、例えば、第3号(1995年10月19日発行)「ペガスス座 51番星に惑星発見」で初めての太陽系外惑星の発見を、第8号(1995年12月14日発行)「褐色わい星の発見」で褐色矮星(わいせい)「GL229」の発見を取り上げると共に、その天体についての簡潔な解説を添えるなど、世界的な発見をいち早くかつ分かりやすくニュースにしていた。一般の天文ファンが、最新の天文情報にアクセスするのが容易でなかった当時を思うと、たいへん画期的であり、貴重な情報源だったのである。

「国立天文台・天文ニュース」は、長沢さんが退職される2004年3月までに707号を発行した。新天体発見の報や国立天文台が主催するイベントの告知などを同室のスタッフが担当した記事もあったが、サイエンスに関する記事のほとんどは長沢さんが書かれていた。個人に頼りながらも、たいへん質の高いサービスを8年半にわたって提供し続けたのである。

2004年4月-2010年6月:「国立天文台 アストロ・トピックス」(No.1-556)

2004年4月、折しも国立天文台が文部科学省の配下から大学共同利用機関法人 自然科学研究機構の下の一研究所となった時期、メールニュースは「国立天文台 アストロ・トピックス」としてリニューアルし発行を続けることになった。これまでのように、海外発のニュースを日本語にして発信するマンパワーはなく、でもサービスとして継続すべき、との判断から、国立天文台の話題や主催する普及事業、注目すべき天体現象、日本人による新天体発見といった内容に切り替えて、発行を続けることにした。この頃になると電子メールアドレスを持つ個人も増え、2000件程度の購読数があったと記憶している。

記事は複数名で分担(筆者も一員として加わった)して作成、あるいは台内外の有志から提供いただいた。漢字・かなの使い方や文中用語の統一、学術用語の書き方など、校正に注意を払うようにしたのもこの時期からである。国立天文台としても、次々と成果を生み出すすばる望遠鏡、進みつつあるアルマ望遠鏡計画、太陽観測衛星の打ち上げといった研究活動の広報に一層力を入れるようになり、同時に一般向け講演会や高校生向けの体験事業なども増え、幸い話題には事欠かなかった。2006年夏、国際天文学連合による太陽系の惑星の定義について、総会での議論や採択までのようすを(時差がありつつも)リアルタイムでモニターしながら速報(2週間のあいだに5本のニュース!)を配信したことが、なんといっても印象的なできごとだった。

ただ、次から次へと日々湧き出すような話題にアンテナを張り、あるいは持ち込まれた原稿の体裁を整えて1本の記事に仕立て、迅速に発信するための工数はかなりのものだったと思う。担当者らの熱意に支えられてこなしてはいたが、当時は必要工数の見積もりや時間配分についてルーズだったと、反省している。

2006年8月にプラハで開催された第26回国際天文学連合総会
2006年8月にプラハで開催された第26回国際天文学連合総会。注目を集めていた「太陽系の惑星の定義」の決議の様子をリアルタイムで見守りながら、速報を配信した。(Credit : IAU/Robert Hurt (SSC))

2010年7月-2025年11月:「国立天文台 メールニュース」(No.1-254)

国立天文台からの情報発信の手段はウェブサイトが主となり、情報更新の頻度も上がっていた。文字情報だけのメールとは違い、天体画像や説明図を駆使した分かりやすくインパクトある記事を出せるのだ。そんな中でメールニュース不要論も出始めていたが、登録さえしていれば、欲しい人には勝手に情報が届く電子メールの良さを捨てるには至らず、結局「国立天文台 メールニュース」と名称を変えて発行を続けることにした。2回目のリニューアルである。

配信するニュースは、1号につき1テーマ読み切りのスタイルをやめ、複数の話題を取り上げその要旨を並べて1本の記事にすることにした。詳しい内容は、国立天文台ウェブサイトに掲載済みの記事を参照してもらう形である。取り上げる内容は踏襲したが、第三者に執筆してもらうことはせず、編集担当(筆者)が話題の要旨をまとめた記事案を作成し、2、3名での校正後に仕上げ、1本のニュース作成にかける工数を減らした。また月1回ないし2回の不規則発行とした。最新の情報を迅速に提供するサービスではなくなったのだ。

国立天文台からの情報発信にSNSを使い始めたのもこの頃からである。ウェブサイトに情報を公開したら直ちにTwitter(現在はX)公式アカウントでも発信する、というスタイルをとった。記事の文字数制限はあるものの、情報の詳細を求める人がリンク先にジャンプできるようにすれば、少なくともウェブで公開した内容にはいち早くアクセスできるのだ。SNSを使った情報発信はあっという間に定着し、フォロワーもどんどん増えていった。SNSの普及が電子メールでのニュース配信に取って代わる時期がやってきていたのだ。情報発信の軸足はウェブとSNSに移りつつあり、マンパワーの配分もそれに従っていった。

メールニュースを不規則発行としたのがわざわいし、やがて多忙を理由に発行をさぼるきっかけになってしまったことは大きな反省点である。長引くコロナ禍も拍車をかけ、公開事業がことごとく見送りとなり、話題が減ってしまったのもよくなかった。何か工夫をと、2021年5月17日発行のNo.227からは、フォーマットを少しだけ変えて「編集後記」なるものを末尾に加えた。肩の力を抜いた文章をほんの数行入れることにしたのだ。尤も、そこそこ長文の記事の最後に目をとめる読者がいたかどうかは定かではない。

近年は、世の中に迷惑メールやフィッシングメールがはびこるようになり、多くのアドレスあてに一斉配信するメールニュースがそれらと誤認されないようにするための労力や、追加のサービスの契約が必要になった。記事を作るためではなく迷惑メール対策やアドレスリストのメンテナンスの手間も増えるという、本末転倒の事態も発生したのだ。世の中には、問題ない万能のツールなど存在しないということなのだろう。

最後に

いろんな状況を背景に、2025年11月25日発行のNo.254を最後に「国立天文台 メールニュース」を終了することにした。国立天文台に独立した広報の部門ができてから、名称を変えながらも30年続けてきた電子メールで届けるスタイルのニュースはなくなった。ただ、発信媒体が一つ減っただけで、最新の話題をいち早く、分かりやすい言葉で伝えるニュースを作り上げる作業は、これまで通り続いている。ウェブで公開する研究成果やトピックスも、短文で発信するSNSも、国立天文台から発信する言葉を通じた広報には、これまで30年続けたメールニュースの記事を作るという経験が、生かされ続けていくのだ。

参照

  1. 長沢工「500号に達した「天文ニュース」とその背景 」, 天文月報(2002年4月号, 第95巻 第4号)
  2. 【訃報】流星天文学の発展や天文普及に貢献、長沢工さん(2019年10月30日 アストロアーツ)
  3. 星が好きな人のための新着情報:【転載】国立天文台・天文ニュース
  4. 国立天文台 アストロ・トピックス:アーカイブ
  5. 国立天文台 メールニュース:アーカイブ

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