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みんなで取り戻す、美しい夜空
人間の活動と星空への影響
人間の活動はさまざまな影響を星空に与えています。
例えば道路を照らすための道路灯も、設置の仕方が不適切だと上向きに光が漏れて夜空を明るく照らし、星を見えにくくします。このため最近では、上向きの光が出ないように工夫された道路灯も開発されています。また、青白い光よりも黄色っぽい電球色のほうが、人間を含む動植物に与える影響が小さいこともわかってきています。地域を挙げて影響が小さい照明に交換することによって夜空への人工光の影響を軽減し、国際団体に「星空保護区®」として認定された地域が国内に4つあります。さらに現在、その認定に向けて準備をしている自治体もいくつかあるようです。
最近は、数多くの人工衛星が打ち上げられ地球を周回しています。この人工衛星が太陽光を反射し、地上からの天体観測に悪影響を与えることもあります。屋外照明や人工衛星などは私たちの生活にとってなくてはならないものですが、意図せず星空に悪影響を与えてしまうこともあるのです。
星空環境保護研究会の開催
美しい夜空を取り戻すためには、照明の適切な使い方を考える必要があります。そして、そもそも光源からの光がどのように夜空を明るくするのか、というメカニズムを科学的に理解する必要があります。人間活動が星空に与える影響、いわゆる光害(ひかりがい)を、科学的に解明しようとする研究集会「星空環境保護研究会」が、2023年9月に国立天文台三鷹キャンパスで開催されました。こうしたテーマでの研究集会が国内で開催されたのは、初めてのことでした。
この研究集会には国内を中心に研究者、アマチュア天文家、中高生から大学院生までの学生、行政関係者、産業関係者など99名の参加がありました。講演のテーマは、光害とその測定の現状、社会における光害認知と意識、行政や産業の取り組み、光害発生メカニズムの理解と光害軽減に向けた科学的取り組みなど、多岐にわたりました。参加者層も幅広く、星空保護に関する多角的な議論ができたことが印象的でした。
研究集会では、近年その数が増加しているLED照明についての議論や、これまでの天文観測データの蓄積から過去の光害の状況を掘り起こすことができそうである、といった検討結果の報告もされました。また環境省や地方自治体、企業からは、地域の観光資源としての星空の活用例、星空保護に対応可能な照明器具や夜空の明るさ観測に応用できる機器の紹介などもあり、さまざまな立場からの星空保護に向けた取り組みが行われていることを感じました。さらに光が地球大気によってどのように散乱されて光害を生じるかという理論的な研究発表のほか、人工衛星による太陽光の反射・散乱の影響についての議論もありました。
研究集会の最後には、光害の発生メカニズムについての理論的研究を進めるとともに、きちんとした観測データを取り続けることの重要性についての議論も行われました。この研究集会を通じて、これまで独自に活動を行ってきた国内の研究者、行政関係者、企業関係者がつながり、光害を理解し対策するためのひとつの輪を作ることができました。
美しい夜空との共存へ
美しい夜空を取り戻す第一歩は、今、自分がいる場所の夜空の明るさを把握しておくことです。環境省は夏と冬の「星空観察」を推進し、肉眼による観察とデジタル一眼レフカメラを使った夜空の明るさ調査を呼びかけています。とくに後者は、データの客観性の観点からも重要な調査です。
2023年度の夏の調査では全国から376件の有効データが寄せられ、都心部から山岳地域、離島地域といったさまざまな場所の夜空の明るさが調べられています。2023年度冬の観察期間は2024年1月2日から15日までとされていて、今まさにその時期です。参加方法については環境省ウェブページ に説明がありますので、デジタル一眼レフカメラをお持ちの方は、ぜひ参加してください。星がきれいな自慢の場所で撮影するもよし、普段の自分の生活圏で撮影するもよし。寒さが厳しい時期ですので防寒にはしっかり気をつけて、夜空の写真を撮ってみましょう。そして、周囲を見渡してどんな人工の照明があるか、美しい夜空を取り戻すためにどんなことができるか、ちょっとだけ考えてみてください。ひとつの家が明かりの使い方を見直しただけでは、夜空の明るさは改善しません。明かりに気を配る人の輪を広げて、共感するみんなで手を取り合って進んでいけば、必要な明かりと美しい夜空の共存は目指せるはずです。