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太陽フレアを監視せよ!
新宇宙時代の災害
かつては国家指導のもとに行われてきた宇宙開発分野ですが、近年は民間企業などによる宇宙ビジネスへの参入や、関連する産業の創出が著しく加速しています。このような宇宙利用において、国立天文台が発信する情報が非常に有用だということをご存知でしたか? それは「太陽の活動」についての情報です。特に太陽フレアという太陽系最大の爆発現象は、人工衛星を破壊し墜落させ、また宇宙飛行士を被ばくさせるなど、昨今の新宇宙時代において災害ともいえる現象です。2022年2月にスペースX社の通信衛星「スターリンク」38機が墜落した事故は、太陽の中規模フレアと関連して起きたと報告されました。
太陽フレア
太陽は恒星の一つです。恒星はその内部で核融合という方法でエネルギーを作り、自分で光り輝いている星(天体)です。国立天文台太陽観測科学プロジェクトは、太陽を観測するために開発された特殊な(人工衛星に搭載された、あるいは地上に設置された)望遠鏡を用いて、毎日太陽を観測しています。
太陽の表面には黒点と呼ばれる斑点が現れますが、この黒点は時々刻々と数や形を変えていきます。その正体は太陽内部で作られた磁場です。磁場には磁石と同じくN極とS極があり、この2つの極をつなぐように磁力線があります。この黒点を構成する磁場の形状が複雑に絡み合い磁力線同士が接近し、ある限界点を超えた時に、黒点の上空(太陽表面の外側)にある彩層やコロナという層で大爆発が起こります。これが「太陽フレア」と呼ばれる現象です。太陽フレアのエネルギーはすさまじく、一度の大規模なフレアで全人類が使う電力の数十万年分に相当するほどです。この時、太陽はいつも以上に光と熱を出すだけでなく太陽のガスや高エネルギーの粒子を宇宙空間にばらまきます(コロナ質量放出、CMEとも呼びます)。
このようなフレアが、他の星でも起こっていることが分かっています。その規模や頻度は星の性質(自転の速さなど)によっても違うのですが、我々が観測した太陽フレアの百倍、千倍という規模の「スーパーフレア」と言われる爆発が、太陽によく似た星で起こっていることが、ケプラー衛星などの観測から次々と発見されました。つまり、このスーパーフレアは私たちの太陽でも起こりうるということなのです。
人間生活や地球への影響
太陽フレアは、我々の生活に影響を及ぼすことがあります。特に衛星を用いた技術(例えばGPSを用いたカーナビなど)や、無線通信(航空や船舶)で障害が起こります。過去には長距離ケーブルの電線でも、火災などの事故が発生しています。また、国際宇宙ステーション(ISS)に滞在する宇宙飛行士だけでなく、高高度を飛行する国際線パイロットも被ばくするという懸念もあります。このように新宇宙時代において、太陽フレアが「いつ」、「どこで」、「どれくらいの規模で」起こるかを予測する宇宙天気予報の開発が進められていて、国立天文台も太陽の活動周期やフレア画像といった情報を提供しています。
まず、「いつ」起こるのかというと、太陽フレアは太陽黒点数がたくさん出現する極大期と呼ばれる時期に頻繁に発生します。国立天文台ではこの黒点数の情報を世界中の機関と連携して発信しています。また、米国海洋大気庁の地球環境観測衛星GOESは、地球に降り注ぐ太陽の軟X線量も常時モニターすることでフレアの発生をとらえていますが、フレアの姿までは分かりません。一方、国立天文台では太陽観測衛星「ひので」のX線望遠鏡(XRT)や三鷹キャンパスにある太陽フレア望遠鏡の彩層Hα線観測の太陽全面観測を使って、フレアの詳細な姿を調べることができます。

宇宙天気予報についての詳細は情報通信研究機構(NICT)のウェブサイトを、国立天文台が発信している太陽に関する情報は太陽観測科学プロジェクトのウェブサイトを、ご覧ください。
文:萩野正興(国立天文台 天文情報センター)