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改暦150周年企画(前編):時代の変化と日本の暦―古代・中世―

アンティキティラの機械(復元品模写)
アンティキティラの機械(復元品模写):アテネ国立考古学博物館に所蔵される最古の機械式天文・暦計算機で、古代ギリシャの科学者によって設計および製作がなされたと考えられている。復元品のモデルは複数あり、この画像は“The model of Aristotle University of Thessaloniki”(テッサロニキ・アリストテレス大学モデル)。(クレジット:星見まどか) オリジナルサイズ(1.7MB)

日常の中の暦

皆さんは「暦(こよみ)」を意識して生活しているでしょうか。

暦とは、一言でいえば、長い時間の区切りをつまびらかに表現する方法のことです。古くは農作業の開始時期を、天球上における星々の形(後の星座)等から予測していたとも言われ、一年の中で自分たちがどの季節、または時期にいるかを知るために必要でした。これは現代では、カレンダーと言う形で、皆さんの家やスマートフォンの中に収められていることでしょう。

また、日の出入り、月の満ち欠け、日食月食などの天体現象や、潮の満ち引きなども暦に含まれることがあります。これらは新聞の「あすのこよみ」欄をはじめとして、テレビや各種ニュースサイトで目にすることがあるでしょう。

意識せずとも、暦は現代においても、皆さんの生活の中に息づいているのです。

古代世界の暦

では暦とは、いつ頃から文字として記録に残るようになったのでしょうか。

例えば古代メソポタミアでは、暦の一年の巡りを季節に合うように調整した「太陰太陽暦」が使われたと言われており、そのほかにも古代エジプト、中国などで、それぞれの暦が使われていました。

紀元前1世紀頃の古代ギリシャでは、機械式天文・暦計算機の「アンティキティラの機械」が設計および製作されていました。アンティキティラの機械は、手回し式歯車仕掛けの天文・暦計算機であり、365日の古代エジプト式カレンダーや黄道十二宮を表示し、さらに日食・月食の予測ができたと考えられています。また、機能の一部として、太陰太陽暦を作ることもできました。この機械は、西暦1901年にギリシャのアンティキティラ島付近でのサルベージ調査により破片の存在が確認されてから、これまでにX線等を用いた詳細な研究が行われています。(詳細は関連リンク)

日本の暦(古代―中世)

日本に暦が伝来したのは、諸説ありますが、6世紀から7世紀はじめ頃と言われます。『日本書紀』の巻第十九には、欽明天皇14年(553年)6月、百済に医博士(くすしのはかせ)、易博士(やくのはかせ)、暦博士(こよみのはかせ)等の交代や暦本の送付を依頼したとの記事があり、この頃には暦が意識されていたことが分かります。

編暦体制の確立は、大化の改新以降、すなわち、日本が律令国家へ変化する中で行われました。中務省に陰陽寮(おんようりょう)が成立します。この中に、陰陽頭(おんようのかみ)を筆頭として、暦博士、暦生(れきしょう)が置かれ、暦編纂(れきへんさん)の体制が整いました(同様に陰陽師、陰陽博士、陰陽生(おんようしょう)、天文博士、天文生(てんもんしょう)、漏刻博士(ろうこくはかせ)なども置かれました。ただし、この頃の「天文」は、まだ現代の天文学とは異なり、天文現象・気象現象から天の意思を読み取り、吉凶を判断することが目的であったようです)。

『安倍晴明物語天文巻』
『安倍晴明物語天文巻』:浅井了意(あさいりょうい)作の仮名草子と推定されます。安倍晴明(あべのせいめい)が超人的な呪術を操るという伝説はすでに平安時代末期の『今昔物語』などに現れており、大きく時代を下った江戸時代の『安倍晴明物語』はそれらを採りこんだ内容となっています。ただし、この『天文巻』は天文(気象)現象の運気や吉凶など非科学的な占いに属するもので、安倍晴明は登場しません。(所蔵 国立天文台)

その後複数の暦が用いられますが、貞観4年(862年)に宣明暦(せんみょうれき)が採用されました。宣明暦は本家の中国では71年ほどで改暦されていますが、遣唐使の廃止(894年)で中国との交流が途絶えるなどして、日本においては江戸時代初期まで、およそ800年間にわたって使い続けられることになります。

次回は、活発になる日本の暦法研究の歴史を、江戸時代から現代にかけてひも解いていきましょう。

(補足) 歴史的用語のよみがなについて:本稿では、多くの歴史的な用語を取り上げています。ここでは「陰陽寮」や「易博士」などの機関や官職などの名称、「安倍晴明」などの人名に、代表的と思われるよみがなを付しています。ただし、漢字表記に基づく漢音の読み方のほかに、和名や異なる読み方の慣習もあり、一通りに定められるものではありません。

関連リンク

文:柴田雄(国立天文台 天文情報センター 暦計算室)

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