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高円宮妃殿下を三鷹キャンパスにお迎えして
2022年10月22日、高円宮妃殿下が、国立天文台三鷹キャンパスをご視察になりました。同日に東京都三鷹市で開催された第34回「星空の街・あおぞらの街」全国大会へのご臨席と併せてのご来訪でした。
妃殿下は、三鷹市星と森と絵本の家をご視察になった後、50センチ公開望遠鏡での天体観望に臨まれました。当初はあいにくの曇り空でしたがすぐに雲は切れ、妃殿下は、木星や土星などを望遠鏡に取り付けた高感度カメラで楽しまれました。
シャルル・メシエによる彗星(すいせい)探索について質問されるなど、妃殿下のご関心は高く、天文をめぐる話題に花が咲きました。その際妃殿下より、2018年1月に訪れた北海道弟子屈町で、極寒のなか皆既月食(注)の写真を撮影されたお話がありました。先日そのお写真を、ご提供いただきましたので、ここで披露いたします。
(注)2018年1月31日は、地球と月との距離が近く大きな満月が見える時期であったこと、また1月2回目の満月だったことから、メディアなどはこのタイミングで起きた皆既月食を「スーパーブルーブラッドムーン」と呼び話題になりました。
このような素晴らしいお写真を拝見するにつれ、妃殿下の天文に対するご関心の高さと写真撮影の技術の高さが垣間見られ、筆者をはじめ国立天文台関係者も感服することしきりでした。
「星空の街・あおぞらの街」全国大会
2022年10月22日の第34回「星空の街・あおぞらの街」全国大会は、東京都では初めての開催でした。この大会は、環境省、東京都および「星空の街・あおぞらの街」全国協議会による主催で、大気環境の保全に対する意識を高めること、郷土の環境を生かした地域おこしの推進に役立てることを目的に、毎年各地で開催されているものです。
今回の大会は、「100年後の地球 ~今、私たちにできること~」というテーマで開催されました。国立天文台と三鷹市は、「天文台のあるまち」として協力関係を深めていることから、国立天文台長としての挨拶(以下に掲載)をさせていただきました。また、併せて三鷹キャンパスで開催されている定例の天体観望会の報告等も行われました。
ごあいさつ
高円宮妃殿下のご臨席を賜り、第34回「星空の街・あおぞらの街」全国大会がここ三鷹市で開催されることに、お喜びを申し上げます。国立天文台はここ三鷹市に本拠を置き、国内各地や米国ハワイ州、南米チリ共和国、さらには宇宙空間にも望遠鏡を展開して、宇宙の謎を解き明かそうと日夜活動を続けております。
今回の全国大会のテーマは「100年後の地球 ~今、私たちにできること~」です。100年後を考えるときには、100年前を振り返って参考にしてみるのもよいでしょう。国立天文台、当時の東京天文台は、100年前には今の東京タワーにほど近い麻布にありました。今ではビルが立ち並ぶ大都会の真ん中ですが、実は100年前にもその兆しはあったようです。日本天文学会が発行する雑誌の当時の記事には、『帝都の発展につれて市街地と化し、塵埃(じんあい)煤煙(ばいえん)著しく天空の透明度を減じ、夜間の燈火は空に反映して天体の観測をさまたぐること少なからず』とあります。東京天文台はより澄んだ空を求めて当時は田畑が広がっていたこの三鷹の地に移転し、1924年に正式に業務を開始しました。
それ以来およそ100年、国立天文台は三鷹の地で宇宙と向き合い続けてきました。今も晴れた日には毎日太陽を観測していますし、多くの方に宇宙の面白さと星空の美しさをお届けする天体観望会を、オンライン技術も駆使しながら三鷹から発信を続けています。この100年、都市化によって東京の大気汚染が深刻になった時期もありましたが、環境を守るための数々の技術革新や適切な規制、そして多くの方々の努力によって、空は澄んだものになってきました。一方で夜空はどうでしょうか。残念ながら、都市開発によって空が年々明るくなっている場所もあります。きらびやかな高層ビルが並ぶ都心に比べれば三鷹の空は暗いのですが、それでも天の川を望むことはできません。暗い空を守ることの価値を皆様と共有し、いつの日か、この場所で雄大な天の川を皆様と一緒に楽しめる日が来ることを願ってやみません。
地上に目を移すと、様々な不安が渦巻いています。これらから目を背けることはできませんが、いっぽうでこんな時だからこそ、ひとつの空のもとで多くの人が集い、語り合うことがますます重要になってきています。そして100年後も、澄んだ青空のもとで暮らし、澄んだ暗い空のもとで星たちを眺め続けられるよう、改めて私たちに何ができるのかを考えてまいりたいと思います。
2022年10月22日
自然科学研究機構国立天文台長 常田佐久
文:常田佐久(国立天文台長)