自然科学研究機構 国立天文台

天文学者が大きな望遠鏡をつくろうとするわけ

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超大型望遠鏡TMTの完成予想図
超大型望遠鏡TMTの完成予想図。(クレジット:国立天文台)

10月2日は「望遠鏡の日」とも言われています。望遠鏡の発明者とされるオランダの眼鏡技師リッペルハイが、望遠鏡の特許を申請したのが1608年のこの日。結局その特許は受理されなかったということですが、その後、ガリレオ・ガリレイが自作した天体望遠鏡を天体に向けて、木星の衛星や天の川をつくる星々を観測し、大きな発見へとつながっていったことを思えば、天文学にとっても記念すべき日といえます。

ガリレオ望遠鏡の写真
ガリレオ・ガリレイが自作した天体望遠鏡のレプリカ。左は倍率14倍の望遠鏡、右は20倍の望遠鏡。現存するものはこの2本のみで、イタリア、フィレンツェの博物館に所蔵されている。(クレジット:世界天文年2009日本委員会/国立天文台)オリジナルサイズ(1.2MB)

望遠鏡の進歩と天文学の歩み

ガリレオの発見以降も、天文学は望遠鏡の進歩とともに歩んできました。望遠鏡の進歩を代表するのは、その大きさです。大きなレンズや鏡を使って光を集めれば、それだけ暗い天体を見つけ出し、調べることができます。ここで「暗い」というのは、地球から見て暗く見えるという意味なので、実際はとても強い光を放つ天体が遠くにある場合もあります。つまり、大きな望遠鏡を使えば遠くの天体を調べることができることになります。もちろん、小さな望遠鏡では見落としていたような近くの暗い(放つ光の弱い)星を見つけるにも大きな望遠鏡は役立ちます。

大きな望遠鏡のもう一つの強みは、天体を細かく見分けることができる(解像度が高まる)ことです。ガリレオが月のクレーターや天の川の星々を見分けられたのも望遠鏡による解像度向上のおかげで、大きな望遠鏡ほどその能力が高くなります。

20世紀に入ると、口径(光を集める鏡の直径にほぼ相当)が1メートルを超える望遠鏡が天文学で活躍するようになります。1917年には米国で口径2.5メートルの望遠鏡が完成し、やがてハッブルがこの望遠鏡を駆使し系外銀河や宇宙膨張の発見を成し遂げました。

大型望遠鏡すばるの登場

月明かりに輝くすばる望遠鏡と天高く昇る散開星団「すばる」
月明かりに輝くすばる望遠鏡と天高く昇る散開星団「すばる」(クレジット:国立天文台)オリジナルサイズ(322KB)

20世紀も終わりに近づくと、口径8メートルを超える大型望遠鏡が登場してきます。国立天文台のすばる望遠鏡もその一つです。これらは従来の望遠鏡を単に大きくしたものではなく、いくつもの技術的な革新にもとづいています。まず、これらの望遠鏡の登場に先立ち、可視光線の天文観測においては従来の写真に代わって電荷結合素子(CCD)が用いられるようになり、光の検出効率が何十倍も向上しました。大きな望遠鏡で集めた光を無駄なく使えるようになったのです。また、望遠鏡を傾けたときに重力のかかる向きが変わることにより鏡がたわむという問題がありましたが、薄く軽い鏡にして形状を補正するという技術が発達し、大きな望遠鏡としての解像度を十分に出せるようになりました。さらに、天体の光が地球の大気を通ってくるときに波面が乱され、天体の像がぼやけてしまうという問題を克服する技術(補償光学)が取り入れられ、赤外線観測では地上に設置された望遠鏡でもその最大限の性能を発揮できるようになりました。

こうしてその能力を存分に発揮できるように設計され、建設された大望遠鏡は、天文学の多くの分野で画期的な進展をもたらしました。すばる望遠鏡は夜空の広い範囲にわたって暗い天体の探査を進め、宇宙誕生から数億年のうちに誕生した銀河を多数見つけてきました。それらのなかには、宇宙で最初に誕生した星々が含まれているのでしょうか。また、補償光学を用いた観測により、太陽以外の恒星の周りの大型惑星の姿を映し出すことにも成功しています。そういった星の近くには、地球のような小さな惑星が存在するのでしょうか。

超大型望遠鏡の計画に向けて

こういう疑問に答えるには、さらに解像度と感度の高い望遠鏡が必要です。これに答えるべく、口径30メートル級の望遠鏡が計画されています。そのひとつがTMT計画です。国際協力のなかで国立天文台は望遠鏡本体や主鏡の製作という重要部分を担っています。

大型望遠鏡による暗い天体の観測の障害になるのは地球大気からの放射です。これを回避するには大気の外に望遠鏡を打ち上げるのが一番です。実際、多大な労力と資金を投じて準備されたNASAのジェームズ・ウェッブ宇宙望遠鏡がいよいよ打ち上げ間近となり、研究者の期待を集めています。しかしその口径は6.5メートルです。TMTはこれを大きく上回る解像度を実現できます。そうすると天体の像がぐっとシャープになり、そこに入り込む邪魔な大気からの放射を少なくすることができ、結果として非常に高い感度の観測ができるようになります。

望遠鏡の大きさ比較
望遠鏡の大きさ比較。TMTの鏡は492枚の小さな鏡(分割鏡)を合わせて直径30メートルの大きさになる。ハッブル望遠鏡の後継機とされるジェームズ・ウェッブ宇宙望遠鏡(2021年12月打ち上げ予定)の鏡の直径は6.5メートル(18枚の分割鏡)。(クレジット:国立天文台)

鍵となる補償光学を用いた観測は、望遠鏡の設置場所の環境に左右されます。天体の光が通ってくる大気中の水蒸気が問題になるので、高い山で乾燥した地が好ましく、しかも大気の揺らぎが小さく安定していることが望まれます。この条件を最もよく満たす場所が、すばる望遠鏡の設置されているハワイ島のマウナケアであり、北半球随一の適地です。TMTもマウナケアに建設を計画しています。マウナケアはハワイの文化や歴史においても特別な地であり、そこでの望遠鏡建設を含む活動については様々な意見がありますが、地元の方々の理解と支援を得ながら建設を進めたいと考えています。

TMTをはじめ、超大型望遠鏡の建設は20年あるいはそれ以上を要する仕事となります。でもそれは望遠鏡の進歩の長い歴史のなかで間違いなく大きな一歩となります。

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文:青木和光(国立天文台 TMTプロジェクト)