国立天文台 メールニュース
No.238(2022年6月10日発行)研究成果、理科年表国際版を刊行、若手研究者賞記念講演
__________________________________________________________ 国立天文台 メールニュース No.238 (2022年6月10日発行) __________________________________________________________ 国立天文台の研究成果やイベント、注目したい天文現象などを、メールでお届けする不定期発行のニュースです。どなたでも無料でニュースを受け取ることができます。 ◇もくじ------------------- ・研究成果:天の川銀河中心のブラックホールの撮影に初めて成功 ・お知らせ:理科年表国際版『Handbook of Scientific Tables』を刊行 ・お知らせ:自然科学研究機構 第11回若手研究者賞 受賞者による講演会 -------------------------◇ ▼研究成果 ____________________________ ■天の川銀河中心のブラックホールの撮影に初めて成功 国際研究チーム「イベント・ホライズン・テレスコープ(Event Horizon Telescope、以下EHT)」は、世界中の複数の電波望遠鏡を組み合わせた電波望遠鏡ネットワークを使って、私たちが住む天の川銀河の中心にある巨大ブラックホール「いて座A*(エースター)」の撮影に初めて成功しました。 2022年5月12日に発表されたいて座A*の姿を捉えた画像は、この天体が間違いなくブラックホールであることを視覚的かつ直接的に示す証拠となりました。2019年4月10日に同チームが発表した楕円銀河M87の巨大ブラックホールの画像と同様に、明るいリング状の構造に縁取られた暗い領域(シャドウ)がはっきりと映し出されています。 多くの銀河の中心には巨大ブラックホールが存在すると考えられていますが、今回の結果は、その働きの解明に結びつく貴重な手掛かりとなるものです。 EHTは、超長基線電波干渉法(Very Long Baseline Interferometry、VLBI)という観測手法を用い、地球サイズの規模の電波望遠鏡を構成することで、ブラックホールの観測を行います。2017年4月に、世界の8つの電波望遠鏡をつなぎ合わせて観測を行い、人間の視力で300万に相当する約20マイクロ秒角の解像度を達成しました。 いて座A*はM87よりもはるかに近い距離にありますが、ブラックホール周囲のガスの構造が観測している間にも激しく変化するため、その画像化は、構造が安定しているM87のブラックホールに比べてはるかに困難を極めました。しかし、世界中の80の研究機関、300名以上の研究者の知を集結し、5年間にわたる解析の結果、ついに私たちが住む天の川銀河の中心に潜むブラックホールの姿を初めて明らかにしたのです。 EHTの観測ネットワークは現在も拡大を続け、2022年3月の観測キャンペーンにはこれまでで最も多くの望遠鏡が参加しました。観測技術も大きく発展し続けており、近い将来、さらに素晴らしい画像やブラックホールの動画の公開が期待できることでしょう。 ▽天の川銀河中心のブラックホールの撮影に初めて成功 https://www.nao.ac.jp/news/science/2022/20220512-eht.html ▽地球サイズの電波望遠鏡で楕円銀河M87に潜む巨大ブラックホールに迫る 国立天文台 メールニュース No.204(2019年4月24日発行) https://www.nao.ac.jp/mailnews/data/0204.html ▽Event Horizon Telescope Japan(国立天文台 水沢VLBI観測所) https://www.miz.nao.ac.jp/eht-j/ ▼お知らせ ____________________________ ■理科年表国際版『Handbook of Scientific Tables』を刊行 『理科年表』(国立天文台編)は、暦、天文、気象、物理/化学、地学、生物、環境といった自然科学分野の諸データを網羅したデータブックです。多数の研究機関の協力の下に国立天文台が編さんする、日本で最も信頼されている「自然界の辞典」で、1925(大正14)年の創刊からまもなく100年を迎えるという長い歴史を有しています。 この世界に類を見ないユニークな学術出版物を、広く世界に発信し、多くの人たちに役立ててもらうべく、理科年表の国際版『Handbook of Scientific Tables』を、2022年5月にWorld Scientific Publishing Co.(WSPC社)と丸善出版株式会社より刊行しました。 理科年表国際版は、暦部など一部コンテンツを除いて、理科年表本誌をそのまま英訳した内容となっています。英語版が欲しいという要望は以前よりありましたが、理科年表執筆に携わる多くの研究者・官公庁の協力の下、今回ようやくその要望に応えるものができあがりました。 なお、本書は洋書扱いで、国内の書店では入手困難である可能性があるため、オンライン書店等のご利用をお勧めします。 書誌情報 ・書名:Handbook of Scientific Tables ・刊行:2022年5月 ・サイズ:9インチ(228ミリメートル)×6インチ(152ミリメートル) 1056ページ ・形式:ハードカバー(ISBN 978-981-3278-51-6) e-book(ISBN 978-981-3278-53-0) ・参照:https://www.worldscientific.com/worldscibooks/10.1142/11218 ▽理科年表国際版『Handbook of Scientific Tables』を刊行 https://www.nao.ac.jp/news/topics/2022/20220610-rikanenpyo.html ▽理科年表オフィシャルサイト https://www.rikanenpyo.jp/ ____________________________ ■自然科学研究機構 第11回若手研究者賞 受賞者による講演会 自然科学研究機構は、新しい自然科学分野の創成に熱心に取り組み成果をあげた優秀な若手研究者を表彰する「自然科学研究機構若手研究者賞」を設けています。このたび第11回の受賞者5名が決定し、その受賞記念講演会を7月16日にオンライン配信にて開催します。 視聴にあたっての事前のお申し込みは不要です。どなたでも視聴が可能ですので、この機会にぜひ若手研究者による最先端の研究に触れてください。 国立天文台からは、同賞を受賞した水沢VLBI観測所の秦 和弘(はだ かずひろ)助教が「視力300万の瞳で探る巨大ブラックホール」と題した講演を行います。多くの皆様のご視聴をお待ちしています。 【開催概要】 ・タイトル:トップランナーたちの挑戦、最先端のその先を切り拓け!―自然科学研究機構若手研究者賞記念講演― ・日時:2022年7月16日(土)13時30分-17時20分 ・形態:YouTubeライブおよびニコニコ生放送でのライブ配信 ・プログラム: 第11回若手研究者賞記念講演(自然科学研究機構)のウェブサイトをご覧ください 講演者プロフィール、講演要旨等も同ウェブサイトにてご覧ください ▽第11回若手研究者賞記念講演(自然科学研究機構) https://www.nins.jp/site/connection/11wakate.html ◇編集後記----------------- コンパクトでかつ大質量の天体が天の川銀河の中心に存在することは、間接的な証拠から以前より予測されていました。その天体の“姿”がついに公表された5月12日。コロナ禍の影響でこの2年間リアル開催から遠ざかっていた記者会見は、世界同時発表、しかもこのようなインパクトのある内容……。会見の裏方として居合わせた者にとって、たいへんしびれる出来事でした。 -------------------------◇ 最後までお読みいただき、ありがとうございました。 __________________________________________________________ 発 行:国立天文台 天文情報センター 広報室 発行日:2022年6月10日 __________________________________________________________