国立天文台 メールニュース
No.192(2018年5月28日発行)アルマ望遠鏡が遠くの銀河に酸素を発見―最遠方検出記録をさらに更新 他
_____________________________________________________________________ 国立天文台 メールニュース No.192 (2018年5月28日発行) _____________________________________________________________________ 国立天文台のイベントや研究成果、注目したい天文現象などを、メールで お届けする不定期発行のニュースです。 どなたでも無料でニュースを受け取ることができます。 --------------------------------------------------------------- ■アルマ望遠鏡が遠くの銀河に酸素を発見―最遠方検出記録をさらに更新 ■国立天文台講演会 「アテルイと挑む未知の宇宙~スーパーコンピュータが描き出す宇宙の姿~」 --------------------------------------------------------------- ■アルマ望遠鏡が遠くの銀河に酸素を発見―最遠方検出記録をさらに更新 大阪産業大学、国立天文台の研究者をはじめとする研究チームは、アルマ望 遠鏡を用いて遠方にある銀河「MACS1149-JD1」を観測し、この銀河から電離し た酸素に由来する電波を検出しました。観測から求めた「MACS1149-JD1」まで の距離は132.8億光年で、これまでに精密な距離が求められた銀河としては最も 遠いものです。今回の観測結果は、史上最も遠方にある酸素の検出となり、こ れまでの記録を塗り替えるものになりました。 132.8億光年先にある銀河に酸素が存在するということは、132.8億年前の 宇宙に酸素が存在していたことを意味します。 今からおよそ138億年前のビッグバン直後の宇宙には、水素、ヘリウム、微 量のリチウムといった軽い元素しか存在しませんでした。これらの元素が材料 となって初代の恒星が形成され、その内部で炭素や酸素といったより重い元素 が作られました。初代星が一生を終える際にこのような重い元素も宇宙にまき 散らされ、次世代以降の天体が形成される材料となりました。 今回の観測結果は、宇宙の始まりからおよそ5億年の時点で、初代星の中で 作られた酸素がこの銀河の中にまき散らされていたことを示しています。また、 電離した酸素の存在は、132.8億年前にこの銀河の中で活発な星形成が起こっ ていて、誕生後間もない大質量星から放たれた強烈な光が、周囲の酸素を電離 させていたことを示しています。 研究チームは、アルマ望遠鏡、ハッブル宇宙望遠鏡、スピッツァー宇宙赤外 線望遠鏡による観測結果から、さらにさかのぼった135.5億年前にも、この銀 河の中で活発な星形成活動が起こったと推測しています。135.5億年前に誕生 した星の寿命が尽きて多数の超新星爆発が起こり、その結果銀河のガスが外に 吹き飛ばされました。しかしその後、吹き飛ばされたガスは銀河の重力に引か れて銀河へと戻り、再び活発な星形成が132.8億年前に起こったと考えられる のです。 今回の研究結果から、132.8億年前の酸素の発見より昔、つまり宇宙が誕生し ておよそ2.5億年後の135.5億年前に、宇宙で最初の星が形成されたと考えるこ とができます。現在の望遠鏡でまだ見たことがない「宇宙の夜明け」を探るた め、今後もさらなる研究が続けられます。 今回の研究成果は、英国の科学雑誌『ネイチャー』2018年5月16日号に掲載 されました。 ▽アルマ望遠鏡、132.8億光年かなたの銀河に酸素を発見 ―酸素の最遠方検出記録をさらに更新 https://alma-telescope.jp/news/press/oxygen-201803 ▽アルマ望遠鏡、132億光年先の銀河に酸素と塵を発見 ―最遠方記録を更新し、銀河誕生時代に迫る https://alma-telescope.jp/news/mt-132 ▽国立天文台 メールニュース No.162 (2016年7月2日発行) 「アルマ望遠鏡が、観測史上最遠方の酸素を捉えた」 https://www.nao.ac.jp/mailnews/data/0162.html ■国立天文台講演会 「アテルイと挑む未知の宇宙~スーパーコンピュータが描き出す宇宙の姿~」 国立天文台は、スーパーコンピュータ「アテルイ」による研究成果を紹介す る講演会を、来る2018年7月8日に岩手県奥州市にて開催いたします。 スーパーコンピュータは、物理法則を用いた計算でコンピュータの中にさま ざまな宇宙や天体を作り出す「理論の望遠鏡」です。天文学専用スーパーコン ピュータ「アテルイ」は、望遠鏡を使った観測だけでは見ることができない宇 宙の姿を、シミュレーションによって描き出してきました。この講演会では 2013年から5年間、国立天文台水沢キャンパスで運用されてきた「アテルイ」 が解明した最新の宇宙像を解説します。さらに、アテルイに代わって運用を始 めた新しいスーパーコンピュータへの期待についても紹介します。 開催概要 テーマ:アテルイと挑む未知の宇宙 ~スーパーコンピュータが描き出す宇宙の姿~ 日時:2018年7月8日 (日) 13:00-16:00 (開場 12:30) 会場:奥州市文化会館 Zホール (大ホール) (岩手県奥州市水沢佐倉河字石橋41番地) http://www.oshu-bunka.or.jp/publics/index/4/ 主催:自然科学研究機構 国立天文台 後援:岩手県、岩手県教育委員会、奥州市教育委員会、奥州宇宙遊学館 参加費:無料 定員:900名 (事前申し込み不要、当日先着順) 内容: 講演1:アテルイの観た宇宙 小久保英一郎 (国立天文台 天文シミュレーションプロジェクト長・教授) 講演2:アテルイが解き明かす宇宙の元素の起源 田中雅臣 (東北大学理学研究科 准教授) 講演3:アテルイと最新観測が解き明かす天の川銀河の構造 馬場淳一 (国立天文台 JASMINE検討室 特任研究員) 講演内容の詳細はウェブサイトをご覧ください。 多くの皆様のご参加をお待ちしております。 ▽国立天文台講演会 「アテルイと挑む未知の宇宙~スーパーコンピュータが描き出す宇宙の姿~」 https://www.nao.ac.jp/news/events/2018/20180521-cfca-lecture.html _____________________________________________________________________ 発 行:国立天文台 天文情報センター 広報室 発行日:2018年5月28日 _____________________________________________________________________