国立天文台 メールニュース
No.80 (2012年8月1日発行) 124億光年かなたの銀河の成分調査、ほか
_____________________________________________________________________ 国立天文台 メールニュース No.80 (2012年8月1日発行) _____________________________________________________________________ 国立天文台のイベントや研究成果、注目したい天文現象や新天体発見情報 などを、メールでお届けする不定期発行のニュースです。 どなたでも無料でニュースを受け取ることができます。 -------------------------------------------------- もくじ ■124億光年かなたの銀河の成分調査 ■天の川銀河の中心部に巨大ブラックホールの「種」を発見 -------------------------------------------------- ■124億光年かなたの銀河の成分調査 京都大学およびケンブリッジ大学を中心とする国際研究チームは、南米チリ にあるアルマ望遠鏡を用いて、124億光年かなたの初期宇宙にある銀河を観測 し、この銀河に含まれる元素から放射される電波を検出することに成功しまし た。 今回観測した銀河は「サブミリ波銀河」 (注) と呼ばれ、激しい星生成活動 が起こっている銀河です。このような銀河は大量のちりに覆われているため、 すばる望遠鏡のような光学望遠鏡での詳細な観測は困難でした。しかし、この ような銀河でもアルマ望遠鏡を用いることで、ちりに遮られないミリ波・サブ ミリ波での観測が可能で、かつ、遠方銀河からの微かな電波でも検出すること ができます。 研究チームは、アルマ望遠鏡での観測から検出したこの銀河からの電波の性 質をモデル計算と比較しました。その結果、宇宙誕生後わずか13億年しかたっ ていない初期宇宙にあるこの銀河の元素組成が、すでに現在の宇宙の元素組成 に近いことが明らかになりました。これは、初期宇宙において激しい星生成活 動が起こり元素生成が急速に進んだことを示しています。 これは、アルマ望遠鏡の初期科学観測において、日本の研究者が代表を務め る研究として最初の成果になります。また、これまでにアルマ望遠鏡で観測さ れた最も遠い宇宙での観測成果でもあります。 注:サブミリ波と呼ばれる波長1ミリメートル以下の電波を強く放射する銀河 のことで、その激しい星生成活動により「モンスター銀河」とも呼ばれ ている。 ▽124億光年彼方の銀河の「成分調査」 ~アルマ望遠鏡で迫る進化途上の銀河の正体~ (京都大学) http://www.kyoto-u.ac.jp/ja/news_data/h/h1/news6/2012/120612_1.htm ▽124億光年彼方の銀河の「成分調査」 ~アルマ望遠鏡で迫る進化途上の銀河の正体~ (国立天文台チリ観測所) http://alma.mtk.nao.ac.jp/j/news/info/2012/0612124_1.html ■天の川銀河の中心部に巨大ブラックホールの「種」を発見 慶應義塾大学の研究チームは、南米チリのアタカマ砂漠にあるアステ望遠鏡 および国立天文台野辺山の45メートル電波望遠鏡を用いた観測で、いて座方向、 約3万光年の距離にある我々の銀河系 (天の川銀河) 中心部における一酸化炭素 分子ガスの詳細な分布を描き出すことに成功しました。研究チームは、今回の 観測で、銀河系中心部に温かく濃密な分子ガスの塊を4つ発見し、さらにそれら が毎秒100キロメートルという高速で運動していることも明らかにしました。 これらのガス塊の1つは、銀河系の中心核にある巨大ブラックホールを中心 に回転運動をしていることが分かりました。他の3つは膨張運動をしており、 超新星爆発によって形成されたガス塊であると推測できます。なかでも、超新 星爆発200回分に相当する大きな運動エネルギーを持つガス塊は、年齢が6万年 程度であることから、300年に1度という頻度で超新星爆発が起こったと考えら れます。このような高い頻度で超新星爆発が起こるためには、ガス塊の中に太 陽質量の10万倍以上という大質量の星団が存在することを意味しています。同 様に、膨張運動が見られる残り2つのガス塊でも、多重の超新星爆発が起こった と考えられます。 このような大質量の星団では、やがて星団内の重い星が中心へと落下しそれ らが次々と合体を起こして中質量ブラックホールが生成されることが、理論計 算で分かっています。このような中質量ブラックホールは、やがて星団と共に 銀河系中心へと落下し、さらに他の中質量ブラックホールと合体を繰り返して 巨大ブラックホールへと成長することから、巨大ブラックホールの「種」と呼 ぶことができます。 既に知られている銀河系中心核にある巨大ブラックホールも、このような過 程を繰り返して成長したと考えられています。つまり、今回発見されたガス塊 は、巨大ブラックホールを形成する「種」を育む「ゆりかご」とも言えるので す。 ▽天の川銀河の中心部に巨大ブラックホールの「種」を発見 http://www.nao.ac.jp/releaselist/archive/20120720-aste/ _____________________________________________________________________ 発 行:国立天文台 天文情報センター 広報室 発行日:2012年8月1日 ウェブ:http://www.nao.ac.jp/mailnews/ _____________________________________________________________________