自然科学研究機構 国立天文台

中性子星の合体で合成されたレアアースを初めて特定

研究成果

中性子星合体とキロノバの想像図
中性子星合体とキロノバの想像図。(クレジット:東北大学) オリジナルサイズ(5.3MB)

私たちの生活に欠かせない金やプラチナ、レアアースなどの重元素ですが、その起源として有力視されているのが「中性子星」と呼ばれる高密度の天体同士の衝突現象です。中性子星の衝突・合体によってどのレアアースが作られたのか、国立天文台の天文学専用スーパーコンピュータ「アテルイII」のシミュレーションによって、初めて元素の特定がなされました。

2017年8月、中性子星同士の合体によって発生した重力波「GW170817」がアメリカ、ヨーロッパの重力波望遠鏡によって捉えられました。さらに、この検出直後から、すばる望遠鏡などを用いて電磁波での重力波源の観測が行われ、「キロノバ」が確認されました。衝突・合体によって中性子星の一部が宇宙空間に吹き飛ばされ、その中で金やプラチナ、レアアースなどの重元素が合成されます。キロノバは、その元素合成の結果、可視光線から赤外線にかけて電磁波が放射される現象と考えられています。

しかし、この中性子星の合体で作られた元素の種類や量は分かりませんでした。宇宙にある天体に含まれる元素の種類を調べるには、光のスペクトルを用います。個々の元素は決まった波長の光を吸収する性質があるため、スペクトルに現れる吸収線を調べることで、元素の種類を直接特定することができるのです。しかし、中性子星が合体する場合は、物質が高速で膨張しているためにドップラー効果で波長がずれてしまうことから、元素の特定が非常に困難です。さらに、中性子星の合体によって作られる元素は鉄よりも重い元素ばかりで、そのような元素がスペクトルにどのような特徴を作るかも明らかになっていませんでした。

東北大学の大学院生の土本菜々恵(どもと ななえ)さん(日本学術振興会 特別研究員)を中心とする研究チームは、キロノバのスペクトルを解読するために、どの元素がどの波長にどのような吸収線を作るかを、すべての重元素について網羅できるように調べました。そして、アテルイIIを用いた詳細な数値シミュレーションを行い、キロノバのスペクトルを計算しました。その結果、ランタン(La、原子番号57)とセリウム(Ce、原子番号58)という2種類のレアアースが、キロノバの赤外線のスペクトルに吸収線を作ることを明らかにしました。さらにこれらのレアアースによって、GW170817のキロノバのスペクトルに見えていた吸収線の特徴を見事に説明できることが分かったのです。この研究により、中性子星の合体でランタンとセリウムというレアアースが実際に合成されたことを、初めて直接特定できました。

今回の結果は、宇宙に存在する重元素合成の証拠を、キロノバのスペクトルから直接得られることを示しています。今後、重力波の観測が進むと、中性子星の合体がより多く観測されることが期待されています。本研究で確立した手法を用いることで、宇宙における重元素の起源の理解が大きく進むことが期待されます。

本研究成果は、Domoto et al. “Lanthanide Features in Near-infrared Spectra of Kilonovae” として、米国の天体物理学専門誌『アストロフィジカル・ジャーナル』に2022年10月26日付で掲載されました。

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