自然科学研究機構 国立天文台

スーパーコンピュータが見つけた天の川銀河の変動史を知る鍵

研究成果

スーパーコンピュータ「アテルイII」のシミュレーションによって描き出された天の川銀河の姿
スーパーコンピュータ「アテルイII」のシミュレーションによって描き出された天の川銀河の姿。(クレジット:馬場淳一、中山弘敬、国立天文台4次元デジタル宇宙プロジェクト) オリジナルサイズ(15.6MB)

私たちが住む天の川銀河の構造は、さまざまな変動の末に形作られたと考えられています。それを確かめるための観測的特徴を、シミュレーション研究が明らかにしました。国立天文台の天文学専用スーパーコンピュータ「アテルイII」を用いた、現実に近い銀河進化のシミュレーションの成果です。

天の川銀河は数千億もの恒星が集まり、円盤状の構造を作っています。さまざまな観測から、その円盤の中心部には約3万光年にわたって恒星が棒状に集まった構造が存在することが分かってきています。しかし、この棒状構造がいつ形成されどのように進化してきたのか、その変動の歴史は明らかになっていません。これは、棒状構造の進化の痕跡が、どのような観測情報に刻まれるのかが分かっていないためです。

国立天文台の馬場淳一(ばば じゅんいち)特任助教を中心とする国際研究チームは、アテルイIIを用いて天の川銀河の重力多体・流体シミュレーションを行い、棒状構造の形成や進化が、恒星の形成活動やその年齢分布にどのような影響を与えるのかを調べました。天の川銀河の中の恒星と星間ガスの両方の進化を追いながら、恒星が誕生する際のガスの放射冷却や進化に伴う紫外線放射、超新星爆発による星間ガスの加熱といった、さまざまな物理過程を考慮した現実に即した天の川銀河の進化のシミュレーションが、アテルイIIを用いることで可能になったのです。

このシミュレーションの結果からは、棒状構造の形成直後に、回転の勢いを失った大量の星間ガスが銀河の中心約6000光年以内の狭い領域に流れ込み、爆発的に星形成が起こって、結果新たな構造である「中心核バルジ」を形成することが示されました。一方、棒状構造の中では、星間ガスが失われ星形成活動が急激に低下します。つまり、中心核バルジと棒状構造とでは、星形成の活発さが異なることが予想されたのです。

このような星形成の活発さの違いによって、中心核バルジと棒状構造とでは、恒星は全く異なる年齢構成を示すことが期待されます。恒星の年齢構成の違いを観測的に明らかにすることで、天の川銀河に棒状構造が形成された時期を推定することが可能になるのです。中心核バルジ領域の恒星の年齢構成は、今後打ち上げが予定されている世界初の赤外線位置天文衛星「JASMINE(ジャスミン)」によって観測できると期待されています。

本研究成果は、Baba et al. “Age distribution of stars in boxy/peanut/X-shaped bulges formed without bar buckling”として、英国の王立天文学会誌に2022年3月8日付で掲載されました。

スーパーコンピュータ「アテルイII」のシミュレーションによって描き出された天の川銀河の棒状構造の進化の様子。映像中にある「1Gyr」は「10億年」を表す。(クレジット:馬場淳一、中山弘敬、国立天文台4次元デジタル宇宙プロジェクト)

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