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2026年3月3日に皆既月食が起こります!
私たちの身近にある「月」
「月」を意識したことはあるでしょうか?
地平線近くに現れた大きな月……。
不気味な色に染まった月……。
たまたま見上げた空に、高く煌々(こうこう)と輝く月……。
ふとした瞬間に月を意識することはあっても、ふだん月を意識する機会は、それほど多くないかもしれません。
とはいえ、日常生活の中で、月に関係した言葉はいくつか思い浮かびます。
まずは1月、2月……といったカレンダーの月。
それから月の初めの日のことを「ついたち」と呼びます。これは月の満ち欠けを基準とした暦で、新月の日を月の始まりの日(月が立つ日)としたことに由来します。
ほかにも「月とすっぽん」という慣用句、「月月に月見る月は多けれど……」という和歌、「月見る月は欠けていく……」などという言葉があります。
調べてみると、こうした月に関連した言い回しは意外に多くあるのかもしれません。なにしろ人類が誕生する前から、月は空にあったはずですから。
さて、季節の行事といえば、なんといっても春のお花見です。寒い冬が終わって、日の暖かさを感じるようになってくると、心も体もウキウキしてきます。
江戸時代には、お花見と並ぶ季節の二大イベントとして「秋のお月見(中秋の名月)」もあったそうです。
いまではお月見をする習慣は、あまり見かけなくなってしまいました。
春のお花見は、にぎやかな催しであるのに対し、秋のお月見は静かに月をめでる行事だったので、現代のスピード感とは合わなくなってきたからなのかもしれません。
ただ、中秋の名月の頃は大気の状態も比較的よく、月の出のタイミングも遅すぎず、月の高さも見やすい位置で、お月見には良い条件がそろっているのです。
先ほど触れた「月月に月見る月は多けれど……」という歌も、中秋の名月のことを詠んだものです。
この際、現代でもお月見を大騒ぎしてやってみては?と言ったら怒られてしまうでしょうか?
——話がそれてしまいました。
月の満ち欠け
月はおよそ1か月のサイクルで、その形を変えています。新月→上弦→満月→下弦。これは月が地球の周りを回っているために起こる現象です。
とはいえ、本当に月そのものがまん丸になったり、半分になったりしているわけではありません。日の当たっている部分と影になる部分の明暗によって、そう見えているだけです。
面白いことに、もし月面に立ってこの1か月間のサイクルを体験すると、太陽が西から昇り、15日ほどかけて東に沈んでいきます。そして15日ほど夜が続いた後、再び西から太陽が昇ってくるのです。
子どもの頃に読んだ図鑑だったでしょうか?「月の1日は地球の1か月」というような説明があったのを覚えています。これは、月面で太陽が昇って沈み、また昇ってくるまでに1か月かかるという意味です。月で24時間過ごすと、地球では1か月経っている——という映画『猿の惑星』のような話ではありません。
月の1日は地球の1か月?——子どもの頃は「果たしてそんなことがあるのか?」と真剣に悩んだものです。
月面着陸と昼夜の選択
1969年、人類はアポロ計画によって初めて月に降り立ちました。いま見返しても、すごいプロジェクトです。
前に述べたように、月面では約15日間は昼で、後の15日間が夜になります。やはり最初は安全で、景色もバッチリ見える昼の時間帯に着陸するのが当然だったのでしょう。実際、最初に着陸成功したアポロ11号から17号(13号はトラブルで着陸できなかった)まで、すべて昼に着陸しています。
私たちのふだんの旅行でも到着時刻は大切です。行き先が月ともなれば、到着時刻を誤ると次の日の出まで半月も待つことになりかねません。しかも、月の夜はマイナス200度近くまで冷え込みます。
でも、もし夜に着陸していたら、これまで誰も見たこともないような素晴らしい星空を存分に眺められたことでしょう。そんなことを考えるのは、天文学者くらいでしょうか。
ちなみに現在進行中の「アルテミス計画」で、人類は再び月を目指しています。
劇的な月の変化「月食」
月の満ち欠けは、およそ1か月サイクルで比較的ゆったりとした変化ですが、もしも雲一つない空で、満月が数時間のうちにじわじわと欠けていったら誰もが仰天することでしょう。
それが月食です。
この「満月」というところがポイントです。
月食は満月の時にしか起こらないのです!(理由は動画をご覧ください)
仮に、三日月や半月がじわじわと欠けていっても、それほど劇的でもないし、もしかしたら気づかないかもしれません。
でも満月なら違います。
まん丸な満月がじわじわと欠けていき、またじわじわと元の満月の姿に戻っていく。まるで演出された映画のように劇的です。
満月に向かって変身するのはオオカミ男。英語で「Lunatic」は、「狂気じみた」とか「異常な」とかいう意味ですが、満月が突然欠け始めたら、確かにそんな気分になりそうです。
2026年3月3日の月食は「皆既月食」です。
「月食」は、満月が地球の影に入り月が暗くなる現象です。月食には大きく分けて、満月の一部が欠けて見える「部分月食」と、満月全体が暗くなる「皆既月食」があります。今回の皆既月食は、日本全国で見ることができる天体ショーです。
動画制作の裏側
この天体ショーを多くの人に楽しんでもらいたい——そんな思いから、月食の原理と見え方を解説する動画を制作しました。
動画の長さは数分。コストは安く。制作期間は2か月間。なかなかタイトな条件でした。
国立天文台 天文情報センターの映像制作担当は、これまで多くの動画を制作してきましたが、権利の関係で、国立天文台外での上映に制約があるものが多くありました。そのため、今回はその制約をなくしたものを作ろう、という条件も付きました。
音楽とMA(音の仕上げ)を除き、企画から台本、CG制作まですべて内製です。
コンテンツの前半部分「月食の原理」のおよそ3分は、私一人で作り上げました。
ナレーションは、惑星科学者VTuberで、野辺山宇宙電波観測所 特別客員研究員の星見まどかさんが、快く引き受けてくださいました(感謝!)。
ここまでの作業を終えたのが12月16日。同じ映像制作担当の三上真世さんが制作した「月食の見え方」を後半部分に追加して、12月23日に完成させました。予定通り、およそ2か月の制作期間となりました。
内製のいいところは、なんと言ってもスタッフ間でのやりとりの手間が少なく、修正も早い。そしてなによりコストを抑えられるというところでしょうか。
CG表現の工夫
今回の動画は尺が短いこともあり、ポイントを「どういうわけで月食が起こるか」という一点に絞っています。
実際の太陽・地球・月のスケールは、月が地球の4分の1ほどの大きさ、両者の距離が地球の直径の30倍にもなります。例えるなら、地球を握りこぶしだとすると、月は10円玉くらいの大きさ。そしてそれらは3メートルも離れているのです。月食の説明では、太陽も含めた3つの天体を表現する必要があり、実際の縮尺ではとても映像になりません。
このスケール感をどう「ごまかしながら」、それでも原理が伝わるようなCGにするかが、今回の悩みどころでした。
3月3日の夜、皆既月食が起こります
とまァ、月に関して思い浮かんだことを、取り止めもなく書いてみました。
いろんなことを思い浮かべながら皆既月食を見るのは、きっと楽しいはずです。もちろん動画を見ていただき、太陽、地球、月という天体たちが織りなす壮大な「影踏み」に思いをはせるのも、天文・宇宙に興味を持ついいキッカケとなるでしょう。
3月3日はぜひ空を見上げてみてください。では、当日晴れることを願って。
なお、この動画は自由に上映できます。ぜひご利用ください。