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名月を科学で楽しむ雲の下
中秋の名月をライブ配信
太陰太陽暦で「秋」とされる三か月の、真ん中の月の真ん中の日。陰暦八月十五日は「中秋」と呼ばれ、その日の月は名月として親しまれてきました。2025年の中秋に当たる10月6日、国立天文台ではライブ配信「中秋の名月をみんなで楽しもう!」を実施しました。
東京の天候はあいにくの曇り。国立天文台三鷹キャンパスの空で月の姿を認めることはほとんどできませんでしたが、その代わりに石垣島天文台からまばゆいばかりの月のライブ映像をお届けしました。
残念ながら配信できなかった、三鷹キャンパスの50センチ公開望遠鏡で拡大した大迫力の月面は、昨年の中秋に行った配信 のアーカイブ映像でお楽しみください。
3人の研究者と語る、名月の科学
今回は、案内役に加えてゲスト出演の研究者3人を迎え、月に関する科学的な話題を幅広く提供しました。
- 中秋—月とこよみ
10月に入って迎えた今年の中秋は、いつもより時期が遅いと感じた方もいるかもしれません。また、望遠鏡で見る名月はわずかに欠けていました。月を用いたかつての暦と閏月(うるうづき)の仕組み、そして中秋が満月とは限らない理由となる月の運動について、暦を作るために天体計算をする天文情報センター暦計算室 の片山真人(かたやま まさと)室長に聞きました。 - 探査で見えてきた月の現在
地球から最も近い天体である月では、無人・有人の探査が数多く行われてきました。日本でも、最近では小型月着陸実証機SLIM(スリム)ミッションが話題になり、また近い将来の有人月面探査も注目されます。国立天文台も、実は月探査と関わりを持っています。RISE月惑星探査プロジェクト の竝木則行(なみき のりゆき)プロジェクト長には、月周回衛星「かぐや」などのデータで月面の地質や内部構造を探る最近の研究を紹介してもらいました。 - シミュレーションで探る月の過去と未来
月という地球の衛星はどのようにして誕生したのでしょうか。計算機の中で数値実験を行い、宇宙や天体の成り立ちを調べるシミュレーション研究。天文シミュレーションプロジェクト の小久保英一郎(こくぼ えいいちろう)プロジェクト長が、太陽系形成当時に起きた巨大な天体衝突によって月が誕生した可能性を示す「ジャイアント・インパクト」説を解説しました。
三者三様の専門性で語る「名月の科学」を、アーカイブ映像でもじっくりご視聴ください。
「のんびりと美しい月の映像だけ眺めていたい」という趣には、情報過多だったかもしれません。今や、各地の天文施設だけでなく多くの天文ファンも、思い思いに天体の映像を配信しています。そんな中で国立天文台が配信する意義はどこにあるか——最先端の研究機関から、現在の天文学の情報、天体に向けた科学の視線を共有することに、ではないだろうか。私たちはそう考えて、これからの天文現象中継でも、研究者の視点をご紹介していきます。
秋の風物—花、芋、そして虫の声
配信の画面に少しでも“中秋らしさ”をあしらおうと、切り花を瓶に挿しました。月見には付き物のすすき、きく、りんどう、われもこう、と秋の花を添えて。そして、ざるに積まれた里芋。中秋は「芋名月」とも呼ばれ、収穫時期の里芋を供物にする農耕祭祀の習俗が長らく残ってきたようです。出演を終えた研究者には案内役から芋が一つ手渡され、その時の何とも言いがたい表情が印象的でした。
視聴者のコメントに多かったのが、「虫の声が大きい。」三鷹キャンパスは都市部にあるにしては植生が多く、いきおい生き物も多く生息しています。出演者の声をしっかりお届けするためにマイクを使用していましたが、それを押し包む秋の虫の大合唱は、“風情”と呼ぶにはあまりに喧(かまびす)しかったようです。お聞き苦しかった点は、ご容赦ください。
視聴者とのコミュニケーションを目指して
今回のライブ配信では、国立天文台としては初めてYouTubeのスーパーチャットやニコニコ生放送のギフトの機能を導入しました。ギフトのスタンプ(デジタルアイコン)では、天体画像や望遠鏡のイラストに加えて、暦計算室の公式キャラクター「ほのか」「あきら」もお披露目(キャラクターデザイン・松浦はこさんのXでのご紹介 )。運営側にとっては初めての取り組みで、皆さんからの応援にきちんと応答できなかったことが悔やまれますが、これからはよりコミュニケーションを意識しながら天文現象を楽しむ時間を共有できるよう、工夫して配信を続けたいと考えています。