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軽いブラックホール


超新星爆発とブラックホール。(クレジット:Olivier PRIMA)

ブラックホールは重いというイメージを持たれがちですが、ブラックホールの条件は質量そのものではなく、その質量がどれだけの領域に閉じ込められているかです。例えば、はくちょう座X-1と呼ばれるX線源に含まれるブラックホールは、推定されている質量は太陽の20倍ほどです。これは、太陽の34倍の質量を持つと考えられているオリオン座の頭に位置するメイサ(オリオン座ラムダ星A)という恒星よりも軽いものです。ただ、メイサが半径700万キロメートルほどあるのに対し、はくちょう座X-1のブラックホールは半径60キロメートルの中にこれだけの質量が閉じ込められているので、ブラックホールとしての性質を持つのです。
地球から数千光年以内に存在する既知のブラックホールは、いずれも重い恒星が死ぬ時に作られたものです。もし、恒星の中心核の質量が十分大きいなら、死ぬときに中心核が自己重力で縮んで、ブラックホールになります。核力という反発力はこの収縮を邪魔しますが、中心核の質量が太陽の数倍以上あると、自己重力が核力をしのぎ、ブラックホールが作られます。

連星で超新星爆発が起こった後で、高密度の天体が残るプロセスの概念図。(クレジット:ESO/L. Calçada)

現在の宇宙では、重い恒星の死が最も激しい現象です。現在の宇宙では、太陽の質量より軽いブラックホールを作ることはできません。しかし、初期宇宙では、太陽以下の質量で、インフレーション期の宇宙に起源をもつ大きな密度ゆらぎが潰れるなど、ブラックホールに必要な密度条件が生じた可能性が十分あります。しかし、具体的にどのような現象がどうやって軽いブラックホールを作ることができたのか、まだわかっていません。そして天文学者はまだ、軽いブラックホールの実例を発見していません。発見できれば、その軽いブラックホールは現在の宇宙では実現できない現象について、情報を保存しているはずです。初期宇宙を調べるための、とってもエキサイティングな可能性です。

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公開日:2025年5月19日

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