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元素合成

ビッグバンの初期には、宇宙には酸素や鉄などの元素は存在しませんでした。陽子と中性子しか存在しなかった宇宙から、現在のようなさまざまな元素に満ちた宇宙へとどのように進化していったのでしょうか?
誕生時には超高温だった宇宙の温度は、空間が膨張するにつれて下がっていきます。宇宙誕生から3分ほど経った頃には、10億度を切るほどになってきました。このタイミングで、陽子と中性子はそれぞれ単独で飛び回るのではなく、合体して陽子1個と中性子1個から成る重水素の原子核を形成します。このような合体はさらに進み、陽子2個と中性子2個から成るヘリウム4原子核もたくさんできました。そして、ごく僅かですが、リチウムとベリリウムなども作られました。ところが、これよりも先の合体は、ビッグバン宇宙の温度と密度では進みませんでした。天体が形成されるまで、宇宙に存在する原子核は、全質量の4分の3を占める水素原子核(=陽子)、4分の1弱がヘリウム原子核で、あとは何万分の1ほどのリチウムや重水素などの軽い原子核だけでした。
宇宙の中でガスから恒星が誕生すると、恒星の中心では高温高密度の環境で核融合反応が起こり、より重い原子核が形成されます。太陽よりも何十倍も重い恒星の中心では、水素からヘリウムが、ヘリウムから炭素や酸素が、というように重い原子核が作られ、超新星爆発で宇宙にまき散らされます。これほど重い恒星は寿命が1千万年以下と短く、恒星の誕生から1億年足らずの間に宇宙には重い元素が増えていきます。この段階では、特に酸素原子核がたくさん供給され、その他炭素や窒素、ケイ素や鉄も産み出されます。
もう少し時間が経つと、太陽ほどの質量の恒星が終末を迎え、白色矮星を残します。白色矮星が連星系内に存在すると、もう一方の星からガスを受け取って重くなり、星全体が吹き飛ぶ別種の超新星爆発を起こします。この爆発では、特に鉄が多く供給されます。鉄と酸素の量の比は、重い星だけが重い元素を供給していた時代とは違うものになっていきます。

その後の宇宙では、重い星の超新星爆発で形成された中性子星のペアが合体したり、軽い恒星の中心核で別種の核融合反応が起きたりすることで、鉄よりも重い原子核が形成されていきました。一方で、炭素や窒素などの軽めの原子核に、銀河の磁場などで加速されて高エネルギーとなった粒が衝突して、リチウムやホウ素、ベリリウムといった軽い原子核も形成されました。白色矮星表面の核爆発である新星も、軽めの原子核の形成現場です。さまざまな場所で形成された元素が、現代の宇宙を豊かにしているのです。
関連リンク
- 宇宙における元素の起源に迫るプログラム「Birth of Elements」が英国財団の研究奨励賞に選出(東京大学国際高等研究所 カブリ数物連携宇宙研究機構)
- ビッグバン元素合成(天文学辞典)
- 核融合(天文学辞典)
- 超新星(天文学辞典)
公開日:2025年5月19日