国立天文台 メールニュース
No.245(2023年5月30日発行) ブラックホールを取り巻く降着円盤とジェットを同時に捉えた ほか
__________________________________________________________ 国立天文台 メールニュース No.245 (2023年5月30日発行) __________________________________________________________ 国立天文台の研究成果やイベント、注目したい天文現象などを、メールでお届けする不定期発行のニュースです。どなたでも無料でニュースを受け取ることができます。 ◇もくじ------------------- ・研究成果:ついに成功!ブラックホールを取り巻く降着円盤とジェットを同時に捉えた ・研究成果:せいめい望遠鏡が捉えた超高速プロミネンスの噴出 ・お知らせ:自然科学研究機構 第12回若手研究者賞 受賞者による講演会 -------------------------◇ ▼研究成果 ____________________________ ■ついに成功!ブラックホールを取り巻く降着円盤とジェットを同時に捉えた 2019年4月に公開された、イベント・ホライズン・テレスコープ(EHT)によって撮影された楕円銀河M87のブラックホールシャドウと周囲のリング状の構造の画像は、世界中に大きなインパクトを与えました。しかしEHTの感度や視野の制約のために、この画像からはブラックホールの周囲に広がる構造ははっきりとは分かりませんでした。 国立天文台などの研究者が参加する国際研究チームは、グローバルミリ波VLBI観測網(通称GMVA)と呼ばれる地球規模の国際電波望遠鏡ネットワークを主に用いて、M87中心部の詳細な観測を行いました。 波長3.5ミリメートル帯の電波で観測するGMVAは、波長1.3ミリメートル帯で観測するEHTに比べて視力は劣りますが、より高い感度と広い視野を備えており、EHTでは捉えられない構造を見ることができます。そしてGMVAの観測網にチリのアルマ望遠鏡とグリーンランド望遠鏡が加わったことで、M87の巨大ブラックホール周囲の構造をこれまでにない精度で捉えることが可能になったのです。 今回のGMVAによる観測の結果、M87のブラックホールを取り巻く「降着円盤」の撮影に初めて成功しました。さらに、銀河の中心部から噴き出す「ジェット」の根元の構造をこれまでで最も詳しく、また降着円盤と同時に捉えることに成功しました。この成果により、降着円盤とブラックホールジェット形成の研究に弾みが付くことが期待されます。研究チームは引き続き解析を進め、ジェットの形成の謎に迫ることを目指しています。 ▽M87巨大ブラックホールを取り巻く降着円盤とジェットの同時撮影に初めて成功 https://www.nao.ac.jp/news/science/2023/20230427-gmva.html ____________________________ ■せいめい望遠鏡が捉えた超高速プロミネンスの噴出 京都大学岡山天文台のせいめい望遠鏡と宇宙望遠鏡TESSによる同時観測で、「オリオン座V1355星」で発生したスーパーフレアが捉えられました。また、これに伴って発生した、大規模プロミネンスで噴出したガスの量と速度の測定にも成功しました。 測定の結果、スーパーフレアのエネルギー量は最大規模の太陽フレアの7000倍でした。また、プロミネンスの噴出速度は毎秒1600キロメートルで、この恒星からガスが脱出できる速度を大きく上回るものでした。さらにプロミネンスの質量は、これまでに太陽で観測された最大級のプロミネンスの100倍以上となることも分かりました。 太陽や太陽に類似した恒星の表面で発生する大規模な爆発現象スーパーフレアと、それに伴って噴出するプロミネンスは、これまでも観測されていますが、噴出するガスの速度が、恒星から脱出できるほど高速のものが捉えられたのは、今回が初めてです。このような大規模なガスの噴出が、恒星本体の進化にどのように影響し、また周囲をまわる惑星にどのように影響するのか、今後の研究が期待されます。 ▽恒星のスーパーフレアに伴う、超高速プロミネンスの噴出を検出 https://www.nao.ac.jp/news/science/2023/20230428-okayama.html ▼お知らせ ____________________________ ■自然科学研究機構 第12回若手研究者賞 受賞者による講演会 自然科学研究機構は、新しい自然科学分野の創成に熱心に取り組み成果をあげた優秀な若手研究者を表彰する「自然科学研究機構若手研究者賞」を設けています。このたび第12回の受賞者5名が決定しました。来る7月2日に受賞記念講演会を開催するとともにそのライブ配信を行います。 視聴にあたっての事前のお申し込みは不要です。どなたでも視聴が可能ですので、この機会にぜひ若手研究者による最先端の研究に触れてください。 同賞を受賞した国立天文台 科学研究部の原田ななせ助教は、「大量の星の製造現場でその材料を見る」と題した講演を行います。また受賞者5名による講演終了後は、パネルディスカッション「10年後の科学を徹底予測!現在の若手研究者たちが考える未来」を予定しています。多くの皆様のご視聴をお待ちしています。 【開催概要】 ・タイトル:いまを超える 若手研究者の目指す未来―自然科学研究機構若手研究者賞記念講演― ・日時:2023年7月2日(日)13時30分から17時20分 ・形態:ニコニコ生放送およびYouTubeにてライブ配信 ・プログラム: 第12回 若手研究者賞記念講演(自然科学研究機構)のウェブサイトをご覧ください 講演概要と講演者のプロフィールも同ウェブサイトにてご覧いただけます ▽第12回 若手研究者賞記念講演(自然科学研究機構) https://www.nins.jp/event/cat75/y_awards/12.html ◇編集後記----------------- M87銀河の中心の巨大ブラックホールの構造に迫る研究の成果、恒星で発生した超高速プロミネンスを捉えた観測成果をお届けしました。ダイナミックな宇宙の姿にわくわくさせられるニュースですが、どちらの研究も若手が活躍しています。そんな若手研究者が目指す未来を、7月2日の若手研究者賞記念講演でぜひのぞいてみてください。 -------------------------◇ 最後までお読みいただき、ありがとうございました。 __________________________________________________________ 発 行:国立天文台 天文情報センター 広報室 発行日:2023年5月30日 __________________________________________________________