国立天文台 メールニュース

No.91 (2012年11月8日発行) 超巨大ブラックホールジェットの根元の大きさの測定に初めて成功、ほか

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    国立天文台 メールニュース No.91  (2012年11月8日発行)
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もくじ
■超巨大ブラックホールジェットの根元の大きさの測定に初めて成功
■天の川銀河の精密測量が明らかにするダークマターの存在量
■巨星を回る新たな惑星系の発見
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■超巨大ブラックホールジェットの根元の大きさの測定に初めて成功

 国立天文台水沢VLBI観測所の研究者を含む国際研究チームは、おとめ座方向
にあるM87銀河の中心から高速で噴出するジェットを超高分解能で観測するこ
とにより、そのジェットの根元の大きさの測定に初めて成功しました。
 このジェットの噴出源はM87銀河の中心に存在する超巨大ブラックホールで
あると考えられています。ジェットはブラックホール近くから放出されるプラ
ズマ粒子の流れで、光速に近い速さに加速され、根元は非常に細く絞られてい
るのが特徴です。しかし、ジェットの放出・加速の機構については、まだ詳し
く解明されていません。
 研究チームは、このM87銀河のジェットの根元の大きさが、予想されるブラッ
クホールの半径の5.5倍であることを突き止めました。ジェットの根元の大きさ
は、回転していないブラックホールではブラックホール半径の7倍程度に、回転
しているブラックホールではこれよりも小さな値になると予想されています。
このことから、今回の結果は、M87銀河のブラックホールが回転していることを
示しています。
 今回の成果は、「EHT (Event Horizon Telescope) プロジェクト」の国際研
究チームが、米国のハワイ、アリゾナ、カリフォルニアの3カ所にある電波望遠
鏡群を結び、VLBIという観測手法を用いて、M87銀河の中心部に埋もれたブラッ
クホールを約60マイクロ秒角という超高分解能で捉え、解析した結果得られた
ものです。今後は、アルマ望遠鏡などを観測網に加えより高分解能の観測を行
うことで、ブラックホールそのものの電波写真が得られると期待されます。

▽電波干渉計が超巨大ブラックホールに肉薄
 http://www.miz.nao.ac.jp/submilli/content/pr/pr20120926/c01

▽国立天文台 メールニュース No.55
 超巨大ブラックホールからのジェットの源流を突き止める
 http://www.nao.ac.jp/mailnews/data/0055.html


■天の川銀河の精密測量が明らかにするダークマターの存在量

 国立天文台水沢VLBI観測所、鹿児島大学などの研究者による研究チームは、
国立天文台のVERAなどを用いて進めてきた天の川銀河内の天体の精密測量の結
果から、天の川銀河の基本尺度を正確に決定することに成功しました。
 VERA (VLBI Exploration of Radio Astrometry) は、日本国内4カ所 (岩手県
奥州市、東京都小笠原村、鹿児島県薩摩川内市、沖縄県石垣市) に設置した電
波望遠鏡を用い、VLBIという電波干渉計の技術を使って、天の川銀河にある電
波天体までの距離を精密に計測し、天の川銀河の立体構造を明らかにするプロ
ジェクトです。
 今回は、これまでにVERAで観測を終了した100を超える天体のうちの一部と、
さらに米国とヨーロッパでのVLBI観測の結果を加えた天体の測量値を用いて、
天の川の構造を解析しました。
 その結果、太陽から天の川銀河の中心までの距離は26,100光年、太陽系の位
置での銀河回転の速度は毎秒240キロメートルであることがわかりました。と
くに、銀河回転速度については、これまで用いられてきた値 (毎秒220キロメー
トル) よりも大きいことが明らかになりました。今回得られた最新の銀河回転
速度から見積もられる太陽系よりも内側の天の川銀河の質量は、従来考えられ
ていたよりも20パーセント増えることになります。つまり、この領域にある
ダークマターの量がこれまでの推定値よりも多くなることを意味しているので
す。
 今後は、さらにVERAでの観測天体数を増やすことで、高い精度で天の川銀河
の基本構造に迫ることが期待されます。

▽天の川銀河系の精密測量が明かすダークマターの存在量
 http://www.miz.nao.ac.jp/vera/content/pr/pr20120925/c01


■巨星を回る新たな惑星系の発見

 東京工業大学、国立天文台、広島大学、兵庫県立大学などの研究チームは、
国立天文台岡山天体物理観測所の口径188センチメートル反射望遠鏡と高分散
分光器HIDESを用いた観測を行い、巨星の周りを回る惑星系と褐色矮 (わい) 
星系を新たに発見しました。
 今回新たに発見したのは、1つの惑星から成る惑星系が6つ、2つの褐色矮星
から成る褐色矮星系1つです。
 このうち、かんむり座オミクロン星の周りには、木星質量の約1.5倍の惑星
が見つかりました。これは半径が太陽の10倍を超える巨星の周りで見つかった
惑星としては最も軽いものの一つです。
 また、太陽の約3.1倍の質量を持つ巨星・おおぐま座オミクロン星の周りに
は、木星質量の約3倍の惑星が見つかりました。太陽の3倍以上の質量を持つ恒
星に惑星が見つかったのは、今回が初めてです。
 さらに、へびつかい座ニュー星の周りには、2つの褐色矮星も見つかりまし
た。
 研究チームによるおよそ10年にわたる継続観測から、多種多様な惑星を持つ
恒星が見つかっています。今後も観測を続けることで、さらに多くの系外惑星
系が発見され、惑星の形成と進化に対する理解がより一層進むことが期待され
ます。

▽巨星を回る新たな惑星系の発見
 http://www.oao.nao.ac.jp/public/research/extra-planet-2012/


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発 行:国立天文台 天文情報センター 広報室
発行日:2012年11月8日
ウェブ:http://www.nao.ac.jp/mailnews/
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