質問2-7

「スーパームーン」ってなに?

「スーパームーン」という言葉は天文学の正式な用語ではなく、定義もはっきりしていません。そのため、「『スーパームーン』とは何か?」「次の『スーパームーン』はいつか?」等の問いには、答えを出すことができません。

「スーパームーン」とは定義がはっきりしない言葉

例えば「満月」という言葉には、「月と太陽の視黄経の差が180度になった瞬間の月」という、はっきりとした定義があります。(「視黄経」の意味についてはここでは触れません。)しかし、「スーパームーン」という言葉には、このようなはっきりとした定義がないため、それぞれの人が微妙に違う意味で使っているようです。多くの方は、「スーパームーン」という言葉を「とても大きな満月」くらいの意味で使っているかもしれません。

もちろん、大まかな話をしているときにはそれでまったく問題ないでしょう。しかし、「次の『スーパームーン』はいつか」など、多くの人の頭に当然浮かぶ疑問を詳しく考え始めると、とたんに困ったことになります。

月の見かけの大きさは、観察している人と月との距離によって決まります。つまり、月が「とても大きい」ということは、月が「とても近い」ということを意味します。では、「とても近い」とはどれくらいの距離のことを言うのでしょう。地球と月の平均距離が38万4400キロメートルですから、37万キロメートルより近いと「とても近い」のでしょうか。それとも、36万9000キロメートルを下回らないと「とても近い」とは言えないのでしょうか。

そのような判断基準が決まっていないため、「次のスーパームーンはいつか」という問いには、残念ですが答えを出すことができません。

最大の満月の大きさを感じるのは難しい

それでは、1年のうちの最大の満月は、どのくらい大きいのでしょう。それは、目で見てわかるものなのでしょうか。

月までの距離から計算すると、最大の満月は、最小の満月に比べて、直径で約14%、面積で約30%大きいことがわかります(2016年)。

満月の大きさ比べ
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このように最大の満月と最小の満月を並べて比べると、大きさの違いがはっきりとわかります。

ただ、残念ながら、最大の満月を夜空で見ただけで「今日の月は大きい」と感じるのは、たいへん難しいと思われます。月の大きさを何か月もの間正確に覚えておくのが難しいためです。

地平線に近い月が大きく見えるのは錯覚

しかし、夕方昇ってきたばかりでまだ高度の低い満月を、とても大きく感じたことがあるという方は多いと思います。これはどういうことなのでしょう。

実は、地平線近くの月が大きく見えるのは、観察している人の錯覚なのです。(錯覚だとわかっていても、それでもやはり大きく見えますが。)

地平線近くの月を見て「今日の月はずいぶん大きいな」と感じるのは、この錯覚による場合がほとんどだと思われます。

頭の真上の月は近い

ところで、「月までの距離」という言葉には注意が必要です。「月までの距離」とは、普通、地球の中心から月(の中心)までの距離を指しています。(これを月の「地心距離」と言います。)ですから、地球の中心から見たときには、「月が大きい」は「月の地心距離が小さい」と同じ意味なのです。

しかし、私達は地球の中心から月を見ているわけではありません。私達は、地球の表面のそれぞれの場所から月を見ています。そのため、月の地心距離が小さいからといって、観察している人から月までの距離が小さいとは限りません。

例えば、月が頭の真上(天頂)近くにあるときには、観察者は、月の地心距離よりも地球の半径分(約6400キロメートル)近い位置から月を見ていることになります。一方、月が地平線近くに見えているときには、観察者から月までの距離は、月の地心距離とほとんど同じです。先ほど、地平線近くの月は錯覚で大きく感じられると書きましたが、実際には、逆に、天頂近くにある月のほうが、地平線近くにある月よりも少し大きく見えているはずなのです。

地心距離の差はわずか

2016年11月14日の満月は「68年ぶりの近さ」が話題のようです。

ただ、2016年11月14日の満月のときの、計算上の月の地心距離は356520.2キロメートル、68年前の1948年1月26日の満月のときの地心距離は356490.6キロメートルと、その差はたった30キロメートルです。また、44年前の1972年11月21日の満月のときの地心距離は356523.8キロメートルと、2016年には及ばないものの、その差は、4キロメートル程度とごくわずかです。

すでに書きましたように、月を地平線近くで見るか、天頂近くで見るかによって、観察者から月までの距離は約6400キロメートル違います。観察者から月までの、この約6400キロメートルという大きな距離の差は考慮されない一方、月の地心距離の数十キロメートルという小さな差が大きく取り上げられるのは、やや不思議な感じがしませんか。

「スーパームーン」ははっきりとは定義されていない言葉ですが、このような話題をきっかけに、皆さんに星空や天文現象への関心を持っていただければと思います。「スーパー」「ウルトラ」「エクストラ」など印象の強い言葉は目を引きますが、言葉だけでなく、その向こうにある宇宙の面白さにも目を向けてみてください。

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